その四拾参
目で見るのではなく、気配で周囲を探っている魔王からすれば仁兵衛が居る事自体気が付いていたのだが、慶一郎をまず排除することを重視していた事と、先程の一撃から逆算して、一撃ならば耐え切れると踏んでいた為に、迎撃に意識を払っていなかった。
気合一閃、魔王の肉体に取り込まれている鉄扇の欠片向けて神速の太刀を見舞う。
──グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
一撃を受けられると言えど、明火の焔に焼かれる痛みを堪えることなど出来ず、再び魔王は絶叫する。
しかしながら、魔王とてただ斬られるだけではなかった。同じ轍を踏まぬ為に、眷属を己の影の中に召喚していたのだ。
「当然、その程度は読んでいる!」
高らかに啖呵を切り、慶一郎は仁兵衛の後ろから襲いかかろうとしている眷属を一刀のもとに斬り捨てる。「背中は任せろ、相棒!」
声を掛けられた仁兵衛は最初から慶一郎を信じていた。
上手く虚を付けたところで、一度見せている遣り口の対策ぐらい立てられているのは承知の上での突撃だったのだ。伏兵の手当ぐらいは間違いなく慶一郎ならば何とでもすると踏んでいた。
故に、仁兵衛の賭はこの後の一手である。
「主様、意志の力が足りませぬ!」
兵法者を疑似竜と為す最大の肝である意志の力が魔王のそれよりも劣っていれば、余程の幸運が無い限り浅い一撃となる。
それも当然、仁兵衛の計算の内である。
明火の悲鳴を無視するかの様に太刀を振り上げ、返す刃で右上段に構えを取る。
「右太刀では……?!」
今の一撃から明火は既に右太刀で止めを刺すことは不可能と見切っていた。




