その四拾弐
「相棒! 血路を開いてくれ。勝負を決める!」
強い決意を込め、仁兵衛は叫んだ。
「分かった。先駆けは任せろ!」
二つ返事で引き受けると、慶一郎は真っ正面から魔王に向けて斬り込んでいった。
群がる眷属や何処からともなく現れる触手や骨の槍を叩き落とし、見る見る間に道を作り出す。
「流石は騎突星馳流。多対一に良く慣れている」
右手に太刀を構えたまま、慶一郎が作り出した道を仁兵衛は頓駆ける。
「主様、逆風では……」
「多少賭けになるが、手はある。後は、俺次第だ」
明火の懸念を仁兵衛はばっさりと切り捨てた。
「賭け、ですか?」
胡乱な計画だとばかりに、明火は怪訝な口調で問い返す。
「まあ、小細工に近いが、足りない部分は慶一郎の機転に任せるさ」
先行する慶一郎の大暴れを眺めながら、仁兵衛は淡々と呟く。
「ならば御随意に。私は私の務めを果たすだけですわ」
「頼りにしている」
仁兵衛は屈託の無い笑顔を浮かべ、「我、父より与えられた仁の心を捨て、今一度悪しきを討つ刃とならん。綺堂刃兵衛、推して参るッ!!」と、一転気合声を上げて吶喊した。
気配を察した慶一郎は魔王の間合い寸前で雷獣の脇を蹴り、一気に離脱する。
突如狙っていた獲物が姿を消したことで、魔王は一瞬だけ虚を突かれる。
その一瞬に、仁兵衛は全てを懸けた。
素早く左足を大きく引いた右半身、下段に構えた刃を身体の後ろに隠し、間合いを詰める。




