その参拾九
「ま、かなりきついが、やれない事は無い。ただ、余り期待はするなよ?」
仁兵衛にそう答えると、再び慶一郎は魔王の眷属相手に雷獣を飛ばす。「扶桑武士を舐めるなよ、魔王がッ!」
獅子奮迅の働きをする慶一郎を眺めながら、仁兵衛は今一度気を練り直す。
(……さて、啖呵を切ったは良いが、どうしたものかね)
魔王が構築した肉体を観察するに、並の一撃ではもう一つ残っているだろう核に到達し、尚且つ破壊せしめることが出来るか怪しいと見立てた。
先程の一撃と同じものならば、何とかなるやも知れないが、奇襲に近い初撃と同じ効果を期待するには難しいものがあろうし、完全に肉体を構築された後では核までの通り道を作る一撃と止めの一撃の二段構えが必要と想定した。
(まず無理か)
仁兵衛は甘い考えをさっさと捨てた。
先程でさえ、二撃目を放つ余裕が無かったのに、来ると分かっている今度の攻撃で同じ場所に二回も斬り掛かる隙を作るほど敵は愚かしいと期待出来ない。
「主様」
沈思黙考を続ける仁兵衛に、明火は怖ず怖ずと声を掛ける。
「どうした、明火」
「今のままでは勝てませぬ」
「……そうか」
はっきりとした物言いに、仁兵衛は溜息を付いた。
「お気付きだったので?」
「薄々とは、な」
気遣うかの様な口調の明火に、仁兵衛は静かに答える。「並の相手ならば、右太刀で後れを取るとは思っていないが、本来の利き腕たる左よりも力が落ちるのは明らか。その上、此度の敵は並の相手ではない。勝つ為の算段なり、細工でもあれば話は別だろうが、こうも真っ向勝負ではそうも云ってられまい」




