その参拾四
「……こっちも手短にやらねばなあ」
慶一郎が数に押されているのを見て、仁兵衛は一度太刀を鞘に納める。(明火、何があった?)
(主様。申し訳ありません。取り乱しました)
明火は悄気込んだ意志を仁兵衛に伝える。
(気に病むな。確認を取らずに勝負に行った俺の責だ。それで、何があった?)
慰めるかの様に優しい口調で明火に語りかける。
(……敵の正体を見極めました)
(ああ、六大魔王であろう、あれは)
事も無げに仁兵衛は答えを先読みした。
(主様?! お気づきだったので?)
仁兵衛の予想外の回答に、明火は思わず驚きの声を上げた。
(いや、親父様に云われるまでは確証を持てなかったが、ただの魔王で無いのは数合斬り込んだ際に気が付いていた。俺の人生の中でも一二を争う最高の出来と云っても過言では無い一撃を幾度受けてもびくりともしないとなれば、流石に己の腕を疑うより前に敵の強さを悟るさ。魔王を屠った技が効かない魔王とは何者か、とな)
鋭い目付きを魔王に向け、仁兵衛は静かに推し量る。(魔王を越えたる魔王とは何者か、と。後は、あの眷属召喚。いくら何でも数が多すぎる。今まで相手をしてきた魔王もそれなりの相手であったが、限度も無く呼び直すとなればただ者ではあるまい)
仁兵衛の疑問も尤もなことである。
眷属召喚とは魔王の切り札の一つである。己の身、もしくは混沌を媒介として魔界との【門】を開くことで、己と近しい魔族を呼び寄せる大技である。当然、それ相応の代償を払うこととなる為、そう何度も気軽に行える術では無い。それも、大群を何度もとなれば、異常なことであった。




