その弐拾八
「光! 遠藤の姫さん!」
やられたとばかりに顔を顰め、仁兵衛は慌てて仕掛けようとするが、
──良いのかの、動いても
と、魔王に脅され、その場で凍り付く。
──人とは愚かで脆い者よ。守らずに良い者を守り、守りたい者を見捨てる。死人など、守る価値があるまいに
「先程から何を云っている? 父上が死人、だと?」
嘲笑う魔王に対し仁兵衛は思わず反問する。
それこそ、魔王の思う壺だと分かってはいたが、現状打開するための手が何も無い為、時間稼ぎをするにも相手の手の内で踊るしか無かった。
──然り。そやつは死人よ。余が殺したのだからなあ
「殺した、だと?」
仁兵衛は胡乱な目付きで魔王を見る。「戯言も大概にせよ」
──哀れよ。真実を知ろうともそれに目を向けようともせぬ。……そのお陰で余は生き延びたとも云えるのだがのお
嘲笑の波動を撒き散らし、魔王は悦に入る。
「何が云いたい?」
意味深な言葉を手を替え品を替え矢継ぎ早に投げかけてくる魔王に対し、仁兵衛は苛つきを隠すので精一杯となっていた。明らかにこちらの動揺を誘うための手練手管だと分かっているのに、心のざらつきを増してくるのは魔王の真骨頂と言えよう。
──余があの様な器の内で恥辱に堪える羽目に陥ったのは、貴様らの先祖の行いよ。あの迷宮での余の計画を邪魔しただけでは飽き足らず、討ち滅ぼそうとする増上慢。余の魂が逃れ得るほどの器があの場になければ、危うく滅びるところであったわ
我を忘れるほど怒り狂っているのか、徒人ならばそれだけで死んでしまうだろう殺気を魔王は振りまく。
「それが金剛の鉄扇だったという事か」
何事もないかの様に殺気を受け流し、仁兵衛は冷静に魔王の言葉の内容を素早く解析する。




