その弐拾七
──余の危険性を認識し、何かをされる前に討ち倒さんとする意志、誠に見事。されど、詰めが甘かったのお。まあ、よい。余を楽しませた褒美よ。受け取るが良い。汝の考える最悪の事態を、なあ
辺り一帯に響き渡るほどの哄笑と瘴気を垂れ流し、生の混沌より導き出した仁兵衛の怖れる未来を現出させる。
「父上、光!」
魔王の狙いを瞬時に覚り、仁兵衛は絶望の叫びを上げた。
「ク、おのれ……!」
傷を庇って動いているためか、帯刀の動きは明らかに鈍く、魔王の振りまく混沌より現れた得体の知れない触手らしきものに刺し貫かれる。
「と、父様? 父様が……ま、また死んじゃう……」
それを見た光は、譫言の様に呟くと、気を失う。
追い討ちとばかりに、帯刀の止めを刺そうと今一度触手の槍衾を魔王が呼び出す。
「させぬわッ!」
間に合わないと思った時から父親に駆け寄っていた仁兵衛が咆吼とともに止めを刺しに来た触手を全て切り捨てた。
──愚かよの、既に死んでいる者を助けに向かうとはなあ
魔王が気になることを口にしたが、仁兵衛はそれを気にする余裕は無かった。
「抜かったわ、この姿で光の前で不覚を取るとは……」
血反吐を吐きながら、【鵺斬り】で己の身に喰らい付いている触手を断ち切り、帯刀は片膝を突く。「俺のことを気にせず、光を! 俺の方は陽動だ!」
帯刀の言を聞き、はたと魔王の狙いに気が付くが、既に光と沙月の周りには触手の槍が取り囲んでいた。




