その弐拾六
──己の分を弁えぬ者が阿呆と云われるのは、現世であれ、魔界であれ共通認識だと余はそう覚えているのだがなあ
相も変わらず人を小馬鹿にした態度を改めようともせず、この世界のありとあらゆるものを見下すかの様に嘲笑う。
「然ういう考え方は余り好かんな」
仁兵衛は静かに右上段に構えを直した。
──弱者は絶対者の意志に従うのがこの世の理よ。それを知らぬほど愚かでもあるまい
「さて、とんとお偉いさんとは縁の無い人生でねえ。そんな世迷い言、知ったことでは無い!」
瞬時に【刃気一体】を練り直し、ありったけの【竜気】を愛刀に纏わせ、迷い無き一撃を魔王の核目掛けて叩き込む。
核の位置は先程の一撃の時に大体の場所に見当が付いていた為、最短の距離を最速の剣技で仕掛ける事に成功していた。魔王との闘いに慣れるとまではいかなくとも、何度か経験している仁兵衛としては既に人質が三人居る上、これ以上の不測の事態が起きかねない持久戦にだけは持ち込ませたくなかった。故に、怒濤の勢いを以て短期決戦を図ったのだ。
その一撃は正に狙い通りの一撃であり、全てが計算通りにいけば勝負を決したかも知れない。
(明火、【竜気】が足らんぞ! 早く……!)
然う、何時如何なる時も盟約主たる仁兵衛の意志に沿った行動を的確に取ってきた明火の反応が想像以上に悪くなければ、だが。
先程の反応から、明火が何かに気を取られていること自体は理解していたが、常日頃から冷静沈着である存在が上の空で戦いに集中していないなどということ自体、仁兵衛にとっては流石に計算しきれることでは無かった。
明火が正気に戻った時には時既に遅く、勝機を逸していた。




