その弐拾壱
「お気を確かに。父上を越えてもいないのに、その二つは頂けません」
仁兵衛は確固たる意志で返事をした。
【鵺斬り】と【青嵐】。
どちらも柴原神刀流の当主たる証の品にして、初代東大公雷文公の残せし遺産である。
【鵺斬り】は扶桑の王朝伝来の神器であり、大王が最も信頼した兄弟に軍権と共に預けたとされる陽緋色金製の小太刀である。並の使い手でさえこの小太刀にて【刃気一体】を用いたならば、魔王をも屠ると言われている。柴原神刀流の当主が用いれば、六大魔王すらこの世から退散せざるを得ないとまで謳われる伝説の品である。
一方【青嵐】は柴原神刀流の開祖たる武幻斉刃雅が愛用した鉄扇で、そのまま孫の雷文公に授け、自らは狂王と相打ちになったと言われている。ただ、今柴原神刀流に伝えられている【青嵐】はそのものではなく、山小人が作った金剛製の鉄扇である。
どちらもその性質上、東大公が代々伝えてきているものであり、東大公の代名詞とまで言っても過言では無い国宝である。
「……俺を気遣うのは別に構わん。だが、【刃気一体】の応用で傷を塞いでいるとは云え、そうは長く保たんぞ。どちらにしろ、策に溺れた俺の責よ。お前が気にすることは無い」
帯刀は諦念した意志を淡々とした口調で語った。
「父上がなんと云われましょうと、俺は家族を見捨てない。また、失うために腕を磨いてきたわけでは無い」
仁兵衛は決意を定める。(明火、【竜気】を。勝負を掛ける!)
(……それが主様の決断なれば、私はどこまでもお供致しますわ)
明火もまた、仁兵衛の決意を知りそれを後押しする。
右手で小太刀を抜き放つと同時に気を篭めると一気に【刃気一体】を練り上げ、気合一閃、魔王の理への干渉する力を一気に断つ。




