その四
「成程成程、よく分かりましたよ」
背筋が寒くなるような笑みを浮かべると、「東大公家の盟約違反により、我、クラウス・ヴァシュタールの名において、今より【冒険者互助組合】を南大公家の支配下に治める。異存のある者はありやなしや!」と、大音声で宣言した。
その言葉を聞いた全ての冒険者は右足を踏み鳴らし、得物を掲げた。
「き、貴様ら、何をしているのか分かっているのか!」
使者の男は声を荒げ抗議をしたが、その場にいる全ての者の殺気を篭めた視線に晒され、「ひぃぃぃぃっ」と、情けない声を上げて腰を抜かす。
むしろ、それだけですんだ事を誉めても良いだろう。
扶桑人街側にある【冒険者互助組合】の店はただの組合の店ではない。
入店条件は厳しく巨人殺し、龍殺し、悪魔殺し、幻獣殺しといった冒険者の中でもそれ相応の腕前であろうとも滅多なことでは到達できない境地に至った特別な存在が集っている店なのである。
言葉も知らず巨人の里に迷い込んだ者が平和裏に戻ってこれるだろうか? 龍の巣穴に何も知らずに入った者が生きて帰れるだろうか? 言葉巧みに心の隙間に入り込んでくる悪魔の甘言に耐えきる事が出来るだろうか? 伝承すらあやふやな人類が初めて相対する幻の魔獣を初見で封殺出来るだろうか?
少なくとも、この場にいる者たちは、それが出来るのだ。
使者の男も芸達者にのみ与えられる小太刀の柄巻が黒である以上、達人と呼ばれても問題ない腕前であろう。しかしながら、天災にも例えられるような人外の存在を討った者たちが人の範疇に含まれる者であろうか?
敢えて答えるならば、否、であろう。
この人類の極北にいる冒険者達は、間違いなく既に人の形をとった人ではなくなった者ばかりである。
ならばその眼光はその気になれば人をも殺すであろうし、彼らの殺意を一身に受ければ息が詰まって悶絶することとなる。
だからこそ、ここにいる冒険者達は隔離されているのだ。ただの人では解決できない依頼を事件を危機をこの酒場で待ち受けているのだ。