その壱拾四
(纏っている気や混沌の量からすると……妙に大きいな。今までの前例から水晶玉か何かに封印されているものかと思っていたが)
怪訝そうな意志を乗せ、仁兵衛は明火に尋ね返す。(間違いないのだな?)
(この私が生の混沌や魔王の気配を間違えるとでも? 主様とは云え、許しがたき侮辱ですわ)
強い憤慨の意を明火は仁兵衛に飛ばす。
(ああ、すまん、云い方が悪かったな。その点は謝罪する。俺が云いたいのは魔王を封じている物の典型は術者が封印しやすい物だな? 少なくとも俺はそう聞いてきた。今目の前にある物は、おそらく俺が知りうる限り然ういう類の物ではなさそうだ。その様な物に魔王を封じられるのか?)
明火の強い意志に慌てて弁解している間も、仁兵衛は相手の隙を狙いながら、再び胸元を斬ろうと摺り足で左にじりじりと移動する。
(……私もそこまで詳しい訳では無いので分かりかねますわ。天敵である魔王の気配を感じる事に関しては間違いないと云えるのですけれど)
本来の意図を知り、申し訳なさそうに明火は仁兵衛に返事をした。
(そうか。お前さんの観察眼を疑ってはいないから狙いが定まったのは確かだが、謎が深まったな。どうやら、一筋縄ではいかないかも知れん)
仁兵衛の仕掛けに焦る事なく応じてきている彦三郎を眺めながら、今後の組み立てを冷静に思考する。(何であれ、お前さんの力を借りれば核は斬れるのだな?)
(主様の腕と、私の【竜気】ならば断てぬものはありませんわ)
自信満々に明火は太鼓判を押した。
(そうか……。ならば、押すまで!)
仁兵衛は決断するや否や、真っ正面から突っ込んだ。
迷い無く突っ込んでくる仁兵衛に多少虚を突かれたものの、既に狙いが何かを理解している彦三郎にとって、後の先を取る事は容易かった。




