その九
「それこそ俺の言よ。帯刀とは竹馬の友たる俺の目を誤魔化すような真似など誰にも出来ぬ。それこそ、その贋物ですら、な」
彦三郎は自信満々に啖呵を切る。
「竹馬の友、だと?」
流石にその話は仁兵衛にとっても初耳であった。
「そうよ。帯刀と俺は生まれる前からの付き合いでな。幼き日に我らで東大公家を支えていこうと誓い合ったものよ」
過ぎ去った日々を思い出すかのように、遠い目で追憶に浸る。
「それがこの様とは皮肉なものだな、謀反人」
大きく溜息を付き、仁兵衛は態とらしく処置無しとばかりに首を大きく振って見せた。
「何処の馬の骨とも分からん浮浪児が囀るな! 帯刀が東大公となり、俺が帯刀を守る。そして、二人の意志で東大公家を変える。そう、この旧弊に囚われし東大公家に革命を起こすのだ!」
ある種の熱に浮かされた狂信的な瞳で彦三郎は熱く語る。「そうだ、我ら扶桑人の末裔こそ、この優れた力を持つからこそ、世界に平和を与えなくてはならないのだ。それこそ、貴種の務めなのだ!」
「……成程。よく分かった」
彦三郎とは対照的に仁兵衛は冷めた目で吐き捨てた。
「小僧、何が分かるというのだ」
重みも何も無い軽く吐き捨てられた事に対し、彦三郎は心底胆が冷える口調で詰問する。
「あんたが救いようのない阿呆だと云う事だけが。何故、親父様があんたを重用しなかった理由が。そして、仮に親父様があんたの云うところの贋者で無かったとしても、あんたが信用されなかった原因が」
仁兵衛は負けじと彦三郎を睨み付ける。「あんたは何一つとして理解していない。何故、雷文公が法度を定めたのかも、何故代々の東大公が野心を抱かずに信用を貯め続けていたのかも、西中原の民が我ら扶桑人に何を期待しているのかも。だからこそ、あんたは信用も信頼もされず、重用されなかったのだ」




