その壱
手にした小太刀を彦三郎に投げつけ、
「まだ、この身体を失う訳にはいかぬ」
と、帯刀はかなり無理を押して牽制を掛けたが、彦三郎はいとも簡単にその小太刀を手刀で払い落とし、反対の手で再び必殺の一撃を繰り出した。
「させん!」
【竜気】を全力で身に纏い、後先考えずに仁兵衛は割り込むと、容赦なく彦三郎の左手を切り落とした。
「紛い物の拾ってきた浮浪児輩が邪魔立ていたすなあッ!」
激昂した彦三郎が、鋭い蹴りを放ってくるも、仁兵衛は難なく見切って反撃する。
「ならば、その浮浪児輩に斬り殺されるが良い」
冥い、それこそ深淵の闇の奥底から響く冷たい殺気だった抑揚のない声で仁兵衛は答えると、躊躇なく彦三郎の右半身に斬り付けた。
いつもの感覚で見切ろうとした彦三郎だったが、左手が切り落とされた所為で僅かにずれていた重心に気が付かず、致命傷とまではいかないがこのまま闘い続ける事は不可能と誰しもが分かる重傷を負う。
「死ね」
そのまま蹲った彦三郎に止めの一撃を仁兵衛は冷静に繰り放った。
彦三郎はその一撃を見ようとも避けようともせずに蹲ったままなにやら異様な気配を漂わせていた。
なにやら背筋に寒いものを感じた仁兵衛は瞬時に【竜気】を用いて父親を担ぐと部屋の入り口まで飛び退った。
彦三郎が放つ異様な気配に仁兵衛は覚えがあった。
「……流石は俺の倅。この気配に気が付いたか」
咳き込みながら、帯刀は嬉しそうに笑う。




