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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
間章 陥陣営
132/185

その壱拾弐

「と、仰有いますと?」

「最初の一撃は打ち付ける位置を後続に教える為。次の一撃は閂を破壊する為の道作り。どちらの一撃も気を充満させる事で、気を拡散させにくい金剛の特質を逆に利用し、濃密な気の道を閂までに到達させていた。後は、その道に奥義を叩き込むだけという話よ。まあ、金剛製の閂を一人で破壊したということ自体は化け物じみているとも云えるがな」

 クラウスは淡々と大門で起こっていた事を解説する。「もし恐れるべきものがあるとすれば、平崎兵四郎が金剛に対する対策を練っていたという一点よ。一体どこの誰があれを真正面から破壊する事を考える? 全く以て狂気の沙汰、呆れるを通り越して尊敬の念を抱くな」

「陥陣営の二つ名は伊達では無い、と」

「然り。別にその名に固執しているようでは無いが、西中原(アルスラント)に於ける流派の祖が背負っていた名だ。彼の流派ではその名の重さは我らが考える以上のものであろう。それこそ、虹の小太刀よりも重かろうよ」

 あっと言う間に宮城に辿り着き、悩む素振りすらなく突入していった兵四郎を見て、クラウスは初めて首を傾げた。

「我が君、如何為されましたか?」

「……扶桑人にとり尊皇の想いというものは、我ら西中原人には想像も付かぬ重さだという。事実、僕が目を掛けてきた東大公家の兵法者達は誰しもが皇尊に対し、尊崇の念を抱いていた。平崎兵四郎も又然り。……なのに、何故宮城に攻め入る?」

 男が声を掛けてきたのにも気が付かず、クラウスはじっと宮城を見据えた。

 暫し後、

「後を任せる。何かあれば僕の名で帯刀殿の側に立つ者に便宜を図るように」

 と、言い残すと口早に呪文を唱え、その場から姿を消した。

 男は片膝を付き、「御意」と既に消え去った己の主君に答えた後、梯子を伝って下に降りていくのだった。

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