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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
間章 陥陣営
128/185

その八

 上手く逃げ出した者達も後に続く教導団の兵達に駆逐されていった。

 先日の仁兵衛と慶一郎の突破が蹂躙(じゅうりん)だとすれば、兵四郎率いる教導隊の攻撃は(ちり)(あくた)を吹き飛ばす、正に鎧袖一触。反撃も攻撃も逃げる事も許さず、唯々散らしていく。

 征くも地獄、退くも地獄。【義挙】に荷担した者にとって、どこにも逃げ場は無かった。

 多嶋新左衛門が本陣を置いた門と宮城の間へあっと言う間に兵四郎は辿り着くと、陣幕を斬り破り新左衛門の前へと推参する。

「この逆賊が! あの世で雷文公に詫びるが良い!」

 触れただけでも相手を殺しそうな殺気を四方八方に放ち、真っ直ぐ新左衛門へ踊り懸った。

「殿、お退き下さいッ!」

 新左衛門の近習が命懸けで兵四郎の行く手を阻み、馬蹄に潰される者、鉞で吹き飛ばされる者が多数出るなど被害は甚大であったが、兵四郎の馬の歩みは止まった。

 そこに教導団の兵と東や北を守っていた玉光明鏡流の門下生が雪崩れ込み乱戦となる。

「邪魔だ、退かぬか、小童(こわっぱ)が!」

 敵わぬなりに兵四郎の邪魔を的確にしてくる新左衛門の近習や門下生に手を焼きながらも、荒れ狂う颶風もかくやとばかり縦横無尽に鉞を振り回し、神業としか言えない手際で殺さずに相手を戦線離脱させていく。この場に居る誰しもが達人と呼ばれてもおかしくない腕の持ち主なのだが、その中でも兵四郎は飛び抜けていた。

 それは新左衛門にも言える事なのだが、誰よりも腕が優れているが故に、彼は恐怖していた。自分の腕では到底平崎兵四郎に及ばないと見極めてしまったのだ。

 近習が逃げろと言っているのは再起を図れという意味でであるが、新左衛門は何も()もを捨ててでも逃げ出したかった。それほど、兵四郎に恐怖した。

 別に甘く見ていた訳では無い。自分が東大公家の中でも指折りの実力者であるという自負に間違いが無い事も知っている。騎突星馳流だろうが今の鷹揚真貫流の当主だろうが勝てぬまでも負ける事は無いと言い切れた。

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