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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
間章 陥陣営
122/185

その弐

 代々武士の家系ならば兎も角、そうではない庶民や、平和に暮らしている領民を抱えている大名からしてみれば、態々自分から火中の栗を拾いに行こうとは思わないのである。

 兵法者も、町道場出身者は武家もいるがやっとうに興味があった町民や子供の頃に筋の良さを見出された農村出身者も多い。成り上がる為に兵法を学んだ者にとって、自分の利益にならない(まつりごと)など二の次であるし、何よりも、自分だけでは無く実家や地元まで影響のある事に乗り出す事は流石に二の足を踏む。

 そんな【義挙】に対して正当性を見いだせない門下生がそこそこいる中、扶桑人同士の争いに対する士気が高かろうはずも無く、なるべく襲いかかってこないようにと心中で祈っている始末である。

 ただ、誰しもが金剛製の門を突破出来るとは信じていなかった。

 この大門の中に居れば安全だと考えていた。

 それは間違いなく油断と言えたが、相手が人間である以上、その考えは尤もな話であった。ただの金剛ならば兎も角、厚さ一尺はあろうかという見上げるばかりの門扉を力尽くでどうにかしてしまうという考えに並の人間ならば及ばないのは仕方が無いし、実際の処出来る訳が無い。

 その上、既に東大公家が致し方なく皇国の内乱に介入していた時代からは多少離れており、現役時代の兵四郎を知る者がほとんど居なくなっていた。

 もし仮に、兵四郎を良く知る者がこの場に居たのならば、そんな無謀な真似はさせず、素直に宮城に篭もらせただろう。

 流石の兵四郎と言えど、宮城に攻め込む事は本来ならば如何なる大義名分があれども躊躇したと思われる。

 そこまで計算した上で、宮城に篭もり目的を達するまで粘れば勝ち目はあった。

 しかしながら、新左衛門は打算から宮城近くにいる事を怖れた。

 むしろ、中に篭もっていた場合、間接的に弑虐を容認したと思われても仕方ない。

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