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御前試合騒動顛末  作者: 高橋太郎
第五章 師弟
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その弐拾壱

 槍を携え、帯刀と対面していた男はぎょっとした顔付きで振り返った。

「父上ッ!」

 仁兵衛は奥に父親が居るのを確認し、まずは胸を撫で下ろした。

「よくぞ参った、仁兵衛」

 満面の笑みを浮かべ、帯刀は厳かに告げた。

「上様、お下がりを」

 彦三郎は前に出ようとする帯刀を制す。

「……致し方あるまいな」

 不承不承と言った顔付きで、帯刀は床机に腰を掛けた。

 そのまま、彦三郎は帯刀と槍を構えた男の間に入り、牽制を掛けた。

「うむ。又三郎(またさぶろう)、余は手を出さん。まずは仁兵衛を打ち破るのだな」

 帯刀は男にそう宣言すると、太刀を鞘に納め、柄頭に両手を乗せて足と足の間に立てた。

 仁兵衛は事の成り行きを見守り、又三郎と呼ばれた男の間合いを計る。

「我は降魔牙穿流当主、山下又三郎。いざ、尋常に勝負せん」

 高らかに宣言し、槍を仁兵衛相手に向けた。

「綺堂仁兵衛、推して参る」

 短く名乗り上げると、見に回ると思われた仁兵衛は意外にも一気に間合いを詰めた。

 多少意外そうな表情を浮かべながらも、又三郎は慌てずに大身槍を振り回し、踏み込もうとしていた場を制圧する。

 仁兵衛は何事もなかったかの様に元の位置に戻り、静かに構えを取り直す。

(慶一郎の槍捌きより速くて強い、か。見積もりが甘かった。世の中上には上が居る。高を括ると俺が死ぬな)

 仁兵衛は一人反省する。

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