その弐拾壱
槍を携え、帯刀と対面していた男はぎょっとした顔付きで振り返った。
「父上ッ!」
仁兵衛は奥に父親が居るのを確認し、まずは胸を撫で下ろした。
「よくぞ参った、仁兵衛」
満面の笑みを浮かべ、帯刀は厳かに告げた。
「上様、お下がりを」
彦三郎は前に出ようとする帯刀を制す。
「……致し方あるまいな」
不承不承と言った顔付きで、帯刀は床机に腰を掛けた。
そのまま、彦三郎は帯刀と槍を構えた男の間に入り、牽制を掛けた。
「うむ。又三郎、余は手を出さん。まずは仁兵衛を打ち破るのだな」
帯刀は男にそう宣言すると、太刀を鞘に納め、柄頭に両手を乗せて足と足の間に立てた。
仁兵衛は事の成り行きを見守り、又三郎と呼ばれた男の間合いを計る。
「我は降魔牙穿流当主、山下又三郎。いざ、尋常に勝負せん」
高らかに宣言し、槍を仁兵衛相手に向けた。
「綺堂仁兵衛、推して参る」
短く名乗り上げると、見に回ると思われた仁兵衛は意外にも一気に間合いを詰めた。
多少意外そうな表情を浮かべながらも、又三郎は慌てずに大身槍を振り回し、踏み込もうとしていた場を制圧する。
仁兵衛は何事もなかったかの様に元の位置に戻り、静かに構えを取り直す。
(慶一郎の槍捌きより速くて強い、か。見積もりが甘かった。世の中上には上が居る。高を括ると俺が死ぬな)
仁兵衛は一人反省する。




