その八
「長命の人類種なら挑めそうだが、そんな物好きはおるまいな」
楽しそうに笑い飛ばし、「私とて流石にやる気にはならないしな。例え、英雄を間近に見続けることが出来る環境だと分かっていてもな」と、肩を竦めた。
「文官なら兎も角、武官の方は扶桑人と中原人の体内の【気】の蓄えに雲泥の差がありますから、二代三代と扶桑人の血を混ぜていかないとどうにもならない事実がありますからねえ」
「扱いにもな。結局のところ、扶桑人が伝来の兵法を惜しげもなく伝えたところで、中原人が扶桑人ほど扱いきれなかったという事も扶桑人の存在価値を高めた訳だ。逆を云えば、初代と二代目の方針がなければ、彼らの危惧通り排斥され、滅ぼされていた可能性が高かろうな。律儀者で、自分たちの争いには介入せず、世界を守り抜くことしか興味を有さない自分たちの盾となってくれる信用出来る隣人を滅ぼす馬鹿は余程でもない限り顕れまい」
「千年近く経った今を見て見れば、実に達見だったことがよく分かりますね。本当に、僕は助かります」
「これからも斯くあって欲しいモノだが……さて、どうなるモノかな」
真面目な顔で考え込むアルの洋杯に、親爺は黙って酒を注ぐ。
「僕はそれなりに肩入れする予定ですがね。小父さんはどうしますか?」
「私か? 私は、間近で英雄譚が見られればそれで良い。国家の行く末など興味はないよ。世界と人類種が滅びなければそれで良い」
確固とした信念をその瞳に宿し、つまらなそうに嘯いた。
「ははあん。だからこそ、今、ここにいる訳ですか。成程、成程。納得いきましたよ」
したり顔のクラウスを後目に、アルは洋杯を静かに乾した。