表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『あと一回コンテニューすると、特別アイテムがもらえるぞ』by魔王

作者: 猫星侍
掲載日:2026/03/15

「はぁ……はぁ……っ、強すぎるだろ、理不尽かよ……!」


 俺は膝をつき、目の前にそびえ立つ魔王を睨みつけた。

 仲間たちはすでに床を舐めている。俺のHPも残りわずか、回復アイテムはゼロ。完全な詰みだ。


「フハハハハ! 圧倒的ではないか、我が力は! 無力な勇者よ、貴様はここで終わり……」


 魔王がとどめを刺そうと腕を振り上げた、その瞬間。

 急に魔王の動きがピタッと止まり、BGMが楽しげなポップ調に切り替わった。


「——そうだ。勇者よ。あと一回コンティニューすると、特別アイテムがもらえるぞ」

「は?」

「今ならなんと、神聖石をたったの5個消費するだけで、HP・MP全回復状態でコンテニューが可能だ」

「お前、急に何言ってんの?」


 魔王はどこから取り出したのか、フリップボードのようなものを指さしていた。

 そこには、『勝てないあなたに、コンティニュー特典!』と書かれている。


「いいか勇者よ。まずお前はクソ弱い」

「ごめん、一回だけ本気で殴らせて?」

「そんな貴様にこの特典だ。今魔界では、初心者応援キャンペーンとして試しに行っていてな」


 魔界ってそんな営業みたいなことしてんの?


「な、なにがもらえるんだよ。その、特別アイテムってのは」

「うむ。まずこのチケットが手に入る」


 魔王が懐から出したチケットには、『聖魔剣エクスカリバー・極』と書かれていた。


「これは、排出率0.01%で有名な聖魔剣エクスカリバー・極の確定チケットだ。今なら無料でプレゼントしちゃうぞっ」

「お前やってること集金に必死なソシャゲの運営と同じだからな!? てか自分でそんなもん配ってどうすんだよ! お前はいいのかそれで!」

「フッ、バカめ。ここでコンティニューさせて石を割らせたほうが、月間の売上は上がるのだ」

「うっわ、生々しい……」


 なんだこの魔王最悪すぎる。

「さあどうする勇者。カウントダウンは始まっているぞ! 10、9……」

「あー、うるさいうるさい! 悪いけど俺、神聖石なんて持ってねーよ。生粋の無課金勢なんでな。潔くゲームオーバーになってやるよ」

「……チッ、無課金古事記が。サーバーの負荷にしかならんクソ客め」

「おい今ボソッと本音出たぞ! 聞こえてんぞ!」


「安心しろ無課金! 特別キャンペーン中につき、今なら【短い動画広告】を30秒視聴するだけで、一回だけ無料コンテニューが可能だ!」

「マジで!? じゃあ見るわ」

「見るんかい」


 魔王が指を鳴らすと、空中に巨大な半透明のウインドウが出現した。

【レベル1:スライム レベル30:オーク】


 なんだこの広告。レベル1と表示されたスライムが、レベル30のオークを崖から突き飛ばし、レベルアップしてキングスライムに……


「お前これレベル1のチンピラがマフィアのボスに出世する謎ゲームのパクリじゃねえか! 魔界仕様にしてんじゃねえぞ!」

「いいから黙って見ていろ。広告主からクレームが入るだろうが」

「お前が広告主じゃねえのかよ」


 魔王は腕を組み、広告が終わるのを大人しく待っている。

 俺もぼーっと映像を眺めていた……が、ふとある事に気がついた。

 ……あれ? これ、もしかして「時間」止まってね?

 周囲を見渡す。床に倒れたままの仲間のマントの裾は空中でピタッと静止し、松明の炎すらも微動だにしない。

 そして目の前の魔王も、腕を組んだポーズのまま、ピクリとも動いていなかった。


(ゲームあるあるだ……! 『広告再生中はゲーム内時間が一時停止する』っていう、システム上の仕様!)


 俺の口角が、自然と邪悪な形に吊り上がる。

 広告が終わるまで、あと25秒。

 試しに、俺は魔王の顔面にフルスイングで拳を叩き込んでみた。


 ボゴォッ!!


「!? ひょ、ひょんなふぉおおおお!?(な、なにするんだおおおお!?)」

「うおっ!? 痛覚も判定もあるのかよ! すげぇ、正真正銘のバグじゃんこれ!!」

「ひょ、ひょひはふ!!(ちょ、止まりなさい!)」


 広告中だからか、魔王は口元を歪ませるだけで一切の反撃をしてこない。いや、システムで縛られていて「反撃できない」のだ。

 俺は満面の笑みで、聖剣を力強く握り直した。


「ヒャッハー!! 仕様の穴を見つけた瞬間のゲーマーほど恐ろしいもんはねぇんだよ! 無課金の意地、見せてやるぜぇええ!!」

「ひゃ、ひゃめ……あ、あひょ20ひょうも、ありゅのにぃいいい!!(や、やめ……あ、あと20秒も、あるのにぃいいい!!)」


 残り20秒。

 俺はここぞとばかりにバフ(強化魔法)を全乗せし、一方的に殴る、斬る、蹴るのタコ殴りタイムに突入した。

 反撃してこないサンドバッグ(魔王)をひたすらコンボでタコ殴りにする爽快感。やばい、超気持ちいい。


【スキップまであと3、2、1……】


「これで、トドメだぁああああ!!」


 渾身の力を込めた聖剣が、魔王の急所を深々と貫いた。


【広告の再生が終了しました。無料コンテニューを実行します】


 システム音声が響くと同時に、周囲の時間が動き出す。


「ごふっ……!? ば、バカな……我が、こんな、システムのバグで……っ」

 HPが完全にゼロになった魔王は、ボロボロの状態で崩れ落ちた。


「はっはっは! ざまぁみろ運営! 仕様の穴を突いてノーダメクリアするのが、無課金勢の基本だぜ!」

 俺は高らかに笑いながら、魔王がドロップした『聖魔剣エクスカリバー・極ガチャチケット』をちゃっかりと懐に忍ばせた。

 世界は平和になったし、神アイテムは手に入ったし、最高だ。

 まあ、コンテニュー処理が完了してHPが全回復した仲間たちには、このゲスい勝ち方は一生秘密にしておこう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ