『あと一回コンテニューすると、特別アイテムがもらえるぞ』by魔王
「はぁ……はぁ……っ、強すぎるだろ、理不尽かよ……!」
俺は膝をつき、目の前にそびえ立つ魔王を睨みつけた。
仲間たちはすでに床を舐めている。俺のHPも残りわずか、回復アイテムはゼロ。完全な詰みだ。
「フハハハハ! 圧倒的ではないか、我が力は! 無力な勇者よ、貴様はここで終わり……」
魔王がとどめを刺そうと腕を振り上げた、その瞬間。
急に魔王の動きがピタッと止まり、BGMが楽しげなポップ調に切り替わった。
「——そうだ。勇者よ。あと一回コンティニューすると、特別アイテムがもらえるぞ」
「は?」
「今ならなんと、神聖石をたったの5個消費するだけで、HP・MP全回復状態でコンテニューが可能だ」
「お前、急に何言ってんの?」
魔王はどこから取り出したのか、フリップボードのようなものを指さしていた。
そこには、『勝てないあなたに、コンティニュー特典!』と書かれている。
「いいか勇者よ。まずお前はクソ弱い」
「ごめん、一回だけ本気で殴らせて?」
「そんな貴様にこの特典だ。今魔界では、初心者応援キャンペーンとして試しに行っていてな」
魔界ってそんな営業みたいなことしてんの?
「な、なにがもらえるんだよ。その、特別アイテムってのは」
「うむ。まずこのチケットが手に入る」
魔王が懐から出したチケットには、『聖魔剣エクスカリバー・極』と書かれていた。
「これは、排出率0.01%で有名な聖魔剣エクスカリバー・極の確定チケットだ。今なら無料でプレゼントしちゃうぞっ」
「お前やってること集金に必死なソシャゲの運営と同じだからな!? てか自分でそんなもん配ってどうすんだよ! お前はいいのかそれで!」
「フッ、バカめ。ここでコンティニューさせて石を割らせたほうが、月間の売上は上がるのだ」
「うっわ、生々しい……」
なんだこの魔王最悪すぎる。
「さあどうする勇者。カウントダウンは始まっているぞ! 10、9……」
「あー、うるさいうるさい! 悪いけど俺、神聖石なんて持ってねーよ。生粋の無課金勢なんでな。潔くゲームオーバーになってやるよ」
「……チッ、無課金古事記が。サーバーの負荷にしかならんクソ客め」
「おい今ボソッと本音出たぞ! 聞こえてんぞ!」
「安心しろ無課金! 特別キャンペーン中につき、今なら【短い動画広告】を30秒視聴するだけで、一回だけ無料コンテニューが可能だ!」
「マジで!? じゃあ見るわ」
「見るんかい」
魔王が指を鳴らすと、空中に巨大な半透明のウインドウが出現した。
【レベル1:スライム レベル30:オーク】
なんだこの広告。レベル1と表示されたスライムが、レベル30のオークを崖から突き飛ばし、レベルアップしてキングスライムに……
「お前これレベル1のチンピラがマフィアのボスに出世する謎ゲームのパクリじゃねえか! 魔界仕様にしてんじゃねえぞ!」
「いいから黙って見ていろ。広告主からクレームが入るだろうが」
「お前が広告主じゃねえのかよ」
魔王は腕を組み、広告が終わるのを大人しく待っている。
俺もぼーっと映像を眺めていた……が、ふとある事に気がついた。
……あれ? これ、もしかして「時間」止まってね?
周囲を見渡す。床に倒れたままの仲間のマントの裾は空中でピタッと静止し、松明の炎すらも微動だにしない。
そして目の前の魔王も、腕を組んだポーズのまま、ピクリとも動いていなかった。
(ゲームあるあるだ……! 『広告再生中はゲーム内時間が一時停止する』っていう、システム上の仕様!)
俺の口角が、自然と邪悪な形に吊り上がる。
広告が終わるまで、あと25秒。
試しに、俺は魔王の顔面にフルスイングで拳を叩き込んでみた。
ボゴォッ!!
「!? ひょ、ひょんなふぉおおおお!?(な、なにするんだおおおお!?)」
「うおっ!? 痛覚も判定もあるのかよ! すげぇ、正真正銘のバグじゃんこれ!!」
「ひょ、ひょひはふ!!(ちょ、止まりなさい!)」
広告中だからか、魔王は口元を歪ませるだけで一切の反撃をしてこない。いや、システムで縛られていて「反撃できない」のだ。
俺は満面の笑みで、聖剣を力強く握り直した。
「ヒャッハー!! 仕様の穴を見つけた瞬間のゲーマーほど恐ろしいもんはねぇんだよ! 無課金の意地、見せてやるぜぇええ!!」
「ひゃ、ひゃめ……あ、あひょ20ひょうも、ありゅのにぃいいい!!(や、やめ……あ、あと20秒も、あるのにぃいいい!!)」
残り20秒。
俺はここぞとばかりにバフ(強化魔法)を全乗せし、一方的に殴る、斬る、蹴るのタコ殴りタイムに突入した。
反撃してこないサンドバッグ(魔王)をひたすらコンボでタコ殴りにする爽快感。やばい、超気持ちいい。
【スキップまであと3、2、1……】
「これで、トドメだぁああああ!!」
渾身の力を込めた聖剣が、魔王の急所を深々と貫いた。
【広告の再生が終了しました。無料コンテニューを実行します】
システム音声が響くと同時に、周囲の時間が動き出す。
「ごふっ……!? ば、バカな……我が、こんな、システムのバグで……っ」
HPが完全にゼロになった魔王は、ボロボロの状態で崩れ落ちた。
「はっはっは! ざまぁみろ運営! 仕様の穴を突いてノーダメクリアするのが、無課金勢の基本だぜ!」
俺は高らかに笑いながら、魔王がドロップした『聖魔剣エクスカリバー・極ガチャチケット』をちゃっかりと懐に忍ばせた。
世界は平和になったし、神アイテムは手に入ったし、最高だ。
まあ、コンテニュー処理が完了してHPが全回復した仲間たちには、このゲスい勝ち方は一生秘密にしておこう。




