第9話 旅立ちの理由
「…………」
僕とアリアは旅の準備のため、回復アイテムや装備品の買い出しに来ていた。
しかし、アリアは朝からずっとムスッとしていて、ほとんど口を聞いてくれない。
恐らく、昨夜の出来事が原因だろう。
アリアは、フード付きのケープを被っており、余計に表情が読み取りにくい。
念願のパーティー結成から一日目にして崩壊の危機である。
何とかしなければ……!
「ア、アリア……結構歩いたし、ちょっと休憩でもしない?」
「……別に、いいけど」
僕が恐る恐る尋ねると、アリアはそっぽを向いたまま、ぽつりと返事をした。
「ん〜〜幸せ〜〜〜!!」
苺がたっぷり乗ったケーキを頬張りながら、アリアは顔を輝かせた。
僕はアリアをおしゃれなカフェに案内し、一緒にケーキを食べることにした。
そのおかげか、アリアの顔に笑顔が戻っていた。
「このお店のケーキは、王都一なのよ! よく知ってたわね」
「さっきのお店の人に教えてもらったんだ」
「女性の機嫌を直すには、甘いものだよ」と父さんに教わった経験が役に立ったようだ。
ありがとう……父さん!!
ケーキを口に運ぶたび、幸せそうな表情を浮かべるアリアに、僕はふぅっと息を吐いた。
「アリア……昨日は強引な誘い方しちゃって、本当にごめん」
アリアのフォークを持つ手が、ぴたりと止まる。
「でも……君の歌声に、本当に感動したんだ」
僕はぎゅっと拳を握りしめた。
「僕はたくさんの歌を聞いてきたけど、その中でも君の歌声が一番だ。嘘じゃない、本当だよ」
ケーキを見つめたまま黙っているアリアを僕はまっすぐ見つめた。
「僕と……バンドを組んでくれないかな?」
アリアは眉をひそめた。
そして、少しの間を置いてから再びケーキを食べ始めた。
「わかったってば……やってやるわよ」
アリアの頬は、ほんのり染まっていた。
それを誤魔化すかのように、ぱくぱくとケーキを食べ進めている。
「本当に!? やったーーー!! ありがとうアリア!!」
僕は思わず立ち上がり、両手を天へと伸ばした。
「だから、大きな声出すのやめてよね! 目立ちたくないの!」
「ご、ごめん……」
アリアはフードを深く被り直し、ちらちらと周りの様子を窺った。
周りの反応をやたらと気にするけど、なんか意外だな……
僕は彼女の反応に、どこか違和感を感じていた。
「それで、これからのことなんだけど」
アリアはナプキンで口周りを拭くと、改まった様子でこちらを見た。
「私の目的は、魔王を倒すこと。そのためには二つのことが必要なの」
アリアは静かに人差し指を立てた。
「一つ目は、強い武器と装備が欲しい。だから、それを作るための素材を集めたいの」
続けて、二本目の指をそっと立てる。
「二つ目は、レベルを最大限上げること。私のレベルは82。今のままだと99までしか上げられない」
「今のままだと……? レベルって99までしか上がらないんじゃないの?」
僕の問いかけに、アリアは小さくため息を付いた。
「やっぱり知らないのね………最難関と言われてるダンジョン『フォルツァンド』にいる精霊から、上限解放のスキルを授かることができれば、能力の最大値を上げられると言われてるのよ」
「精霊なんていたんだ……」
僕がぽつりとつぶやくと、アリアは目を細めながらこちらを見ていた。
「……フォルツァンドに行けばレア素材も手に入るし、精霊から力も授かれる。だから、フォルツァンドに行きましょ」
僕は目を目を大きく見開いた。
「い、いきなり最難関に!? アリアが強いとはいえ、いくら何でも無謀すぎるんじゃ……」
Lv.5の僕なんか一撃くらっただけで死んでしまうだろう。
「平気よ。ちゃんとあなたのことも守るから安心して。それに、あなたのレベル上げもそこなら手っ取り早いでしょ」
「そうかもだけど……」
アリアの自信に、どこか違和感を感じる。
彼女は、何か焦っているような……
僕はちらりとアリアに視線を向けた。
「上限解放ができたらレベル上げが必要になるし、そしたらバンドメンバー探しも兼ねた旅に出ましょ」
アリアの言葉に、僕は思わず立ち上がった。
「アリア………! バンドのこと、考えてくれてたんだね!」
アリアは照れくさそうに「当たり前でしょ」とそっぽを向いた。
僕は嬉しさのあまり、先ほどまで感じていた不安のことなど、すっかり忘れてしまっていた。
この時の僕が、彼女の違和感にちゃんと気付いていれば……
あんなことには、ならなかったのかもしれない。




