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バンドマンになりたいコミュ障陰キャの転生先は、『バンド』の概念がない世界でした ~戦闘力0だけど、ギターで魔王に挑みます~  作者: 小雨☂


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第6話 旅立ちの日

「出かけるぞ」


 師匠に弟子入りしてから二年が経った頃、

 完成した武器を依頼主に届けるため、師匠と近くの港町に行くことになった。


 道中では、もちろん魔物にも遭遇する。


「グオォォォ!!」


「ひぃっ!! オークだぁ!!!」


 巨大な斧を持ったオークが三体も現れた。

 見た目があまりにも厳つすぎる。て言うか、怖すぎる!!


「おい、ギターを弾いとれ」


「えっ!?」


「いいから早くしろ」


 言われた通り僕は急いでギターを構える。

 気持ちを少しでも高めるため、師匠の好きなフラメンコの曲を弾いた。


 師匠のステータスにバフがかかる。

 すると、師匠は腰に差していた剣を抜いた。


 突進してきたオークの斧が、師匠に振り降ろされる。


「師匠!!」


 キーンッ――


 師匠は、一瞬にしてオーク三体を切り裂いた。


「グアァァ……!」


「えええぇ! 師匠!?」


 オーク三体を一撃で!?

 師匠、戦闘も出来るの……!?


 僕がぽかんとした表情を浮かべていると、

 師匠は何食わぬ顔で「いくぞ」と一言つぶやいた。


 すると、僕のステータス画面に経験値付与の表示がされ、レベルが1から5に一気に上がった。

 支援魔法として戦闘に参加したことになってたようだ。


 師匠は、このために弾けって言ったのか……!


「し、師匠〜〜〜っ!!」


 思わず師匠に抱き着こうとしたら、頭をごつんと殴られた。




 港町に付くと、師匠に連れられてある店を訪ねた。


「やぁ、アントニオじゃないか。久しぶりだな」


 店主と思われるふくよかな男性が僕たちを出迎えた。

 店にはバイオリンやトランペットなどの楽器がズラリと並んでいる。


「わぁ……! 楽器がこんなに!」


 美しい楽器たちに囲まれた空間に、僕は思わず感嘆の声を上げた。


「悪いが、数時間こいつを置いてやってくれないか」


 そう言いながら、師匠が親指で僕を差す。


「構わないよ、お弟子さんかい?」


 店主は汗を拭きながら、にこりと微笑んだ。


「うちの雑用だ。俺は依頼主のところに行ってくる」


「え、僕も一緒に……」


「ガキが一緒じゃ、信用を落とす。お前はここにいろ」


 そう言うと、バタンとひとり店を出て行ってしまった。


「アントニオが人を連れてくるなんて初めてだよ。君も武器職人を目指してるのかい?」


「いえ……僕は、その……」


 店主に事情を説明すると、納得したように頷いた。


「君、面白いことを考えるね。なるほど、アントニオは、それでうちに連れてきたのか」


 ふと笑みを溢すと、店主が店の奥に案内してくれた。


「うちの工房を見ていかないかい? 楽器作りの参考になるかもしれないよ」


「いいんですか!?」


 師匠のおかげで、武器はだいぶ作れるようになってきたけど、肝心の楽器作りは難航していた。


 見た目は楽器でも、音の出方がしっくりこない。


「アントニオは、そのために君をここに連れて来たんだと思うよ」


「え……!」


 店主がにこりと微笑んだ。


 『武器を届ける』なんて珍しいと思ったら、僕のためだったのか……!

 思わず僕は、涙ぐんでしまった。


「あいつは不器用だからな、本当は誰かといるのが好きなのさ。だから君がいてくれて嬉しいんだよ」


「一緒に飲みに行くと中々帰らせてくれないんだよ」と店主は笑った。



 その日は、日が暮れるまで楽器作りについて学ばせてもらった。

 戻ってきた師匠に抱き着こうとしたら、頭をごつんと殴られた。


 だけど、師匠はその後も、この街に度々僕を連れて来てくれた。



 * * *



 師匠に弟子入りして五年。

 僕は十九歳になった。


 まだまだ師匠の技術には到底追いつかないけど、ついに、エレキギター・ベース・ドラム・キーボードとなる武器を作ることができた。


 ただ、持ち運ぶスキルがないため、今は小屋に眠っている。


「師匠のおかげで、夢に近づけました……!」


 師匠は、本気で僕に指導をしてくれた。


 武器を作る技術を楽器に利用するなんて、本気で武器を作ってきた師匠に失礼なことだとは自覚はしていた。だけど、


「人が命懸けてることに、文句言うわけないだろ」


 師匠はそう言って、いつも全力で教えてくれた。


「本当に、ありがとうございました」


 エレキギターとまとめた荷物を背負いながら、僕は深く頭を下げた。


 頭を上げると、師匠は何も言わずに背を向けたまま作業を進めていた。


 僕はにこりと微笑み、ドアに手を掛ける。


「アルバート」


 初めて呼ばれた名前に、僕は思わず振り返る。


「死ぬんじゃねぇぞ」


 師匠は、そう一言だけつぶやいた。


「……仲間ができたら、紹介しに帰ってきますね!」


 僕が笑って言うと、師匠は黙ったまま軽く片手をあげた。



 僕は師匠の家を出た。


 十九歳にしてようやく、バンドメンバー探しの旅が始まった。

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