第5話 師匠と僕
「できた!」
師匠に弟子入りしてから一年。
教えてもらった技術を活かして、ついにアコスティックギターを完成させた。
本命のエレキギターを作るには、まだまだ技術不足だ。
「見てください師匠! ギターができました!」
「お前はサボって何をしとるんだ!」
ごつんと頭を殴られながらも、ギターを作れた喜びで胸がいっぱいだ。
何年振りのギターだろう……!
コードを忘れてしまわないように木の板に紐を付けて練習はしていたけど、さすがに鈍っているだろう。
ジャララン――
「うおおお……!!」
やばい、感動で涙が出てきた。
久々のギターの感触に、僕は胸の高まりが止まらなかった。
「うるさいぞ! 次鳴らしたら叩き壊すからな!」
「師匠、聞いてください! この音色、素晴らしいでしょう!?」
僕は、手癖で覚えている曲を弾き始めた。
師匠に合いそうなラテン音楽だ。
師匠は黙ったまましばらく聞いてると「勝手にしろ!」と作業を再開した。
どうやら気に入ってくれたようだ。
「お前さん……雷魔法の音がやたら大きくなると言っておったな」
ぼそりと師匠がつぶやいた。
「え? は、はい……声量に合わせて音が大きくなるみたいなんです」
師匠は手元に視線を向けたまま、話しを続けた。
「使用できる魔法は、その生物の魂の波長によって変わると言われとる。基本は、火・水・風・土・雷の五つの属性のどれかじゃ」
「全部使える人もいるんですよね?」
師匠が無言で頷く。
「じゃが、稀に特殊な波長を持った者には、異属性の魔法が発生する」
「異属性?」
「あぁ。例えば、HPの回復や状態異常を治す『白魔法』がそうじゃ」
そう言えば、以前魔物から毒攻撃受けてしまい、教会のシスターに白魔法で治してもらったことがあった。
アイテムでも回復はできるけど、魔法だと白魔法だけだったのか。
「お前も異属性を持っとるんじゃないか」
「え?」
思わずギターを弾く手が止まった。
「わしのステータスを見てみろ」
師匠がステータスオープンのスキルで、ステータス画面を見せてくれた。
「精神力にバフがかかってる……?」
師匠の精神力の数値が、わずかながら上昇していた。
「お前のギターとやらを聴いた効果じゃろう。お前は『音属性』を持ってるんじゃないか?」
「音属性……!?」
なんだそれ、カッコ良い……!
「雷魔法の音が大きくなるのは、その『音属性』が干渉しとるんじゃろう」
僕は目を見開いた。
「な、なるほど……雷魔法に音属性の魔法効果がプラスされてたから、音だけ大きくなってたんですね!?」
言われてみれば、電撃の力は弱いのに、音だけが大きくなる雷魔法なんておかしな話だ。
「恐らく、能力が開花しきっとらんから、無意識に音魔法の効果が出てしまっておるんじゃろう」
「じゃあ、僕がギターを弾くと、師匠のステータスにバフがかかるのも音魔法の効果……?」
師匠が小さく頷いた。
「お前さんが作ったギターとやらは楽器のつもりだろうが、わしが教えたのはあくまで武器の作成じゃ。どうしたって魔力は宿る。自分のステータスも確認してみろ」
師匠に言われた通り自分のステータスを開いてみると、MPが消費されていた。
「えっ!? まさか……ギターを弾くのに魔力が必要なの!?」
僕のMP最大値はとんでもなく低い。
これじゃあ、全然弾けないじゃないか!
「レベル上げするしかないじゃろ」
「そんなー! 僕の力じゃ魔物なんか倒せないですよ!」
レベルを上げるには、魔物を倒した時のみ得られる経験値が必要になる。
なんとか修行して攻撃力をあげるか?
いや、無理だ……
スライム相手でもボコボコにされてきた僕が、戦えるわけがない。
ようやくギターを作れたのに、またもや壁にぶち当たってしまった。
その日の夕方、師匠の指示で染料となる素材を探しに森を歩いていた。
きれいな夕日も、いまは心に沁みてくる。
僕はその場にそっと座りこんだ。
「僕に、バンドは無理なのかな……」
あまりの障害の多さに『お前には無理だ』と突きつけられている気がしてくる。
「師匠との暮らしは楽しいし……たまにギターが弾ければ十分かな……」
ぽつりぽつりと独り言を漏らしながら、夕日をぼんやりと見つめていた。
パチンッ!!!
僕は自分の両頬を思い切り叩いた。
「くそっ、諦められるわけないだろ! 弱気になるな!!」
僕の叫び声で、近くの鳥たちが一斉に飛び去っていく。
「『音属性』の魔法を使えば、戦闘のサポートはできるじゃないか! どこかのパーティーにいれてもらって、経験値をあげればいい。武器のメンテナンスもできるし、役立てるさ!」
ぐっと握りしめた拳を天に向かって突き上げた。
「神様見てろよ!! どんなに邪魔されても、絶対バンド組んでやるからな!!!」
僕の叫び声が森の中に響き渡る。
「そうと決まれば……よし、一つ夢を叶えるぞ!」
僕は持っていた染料の素材を見て、ひとり笑みを浮かべた。
「師匠、戻りましたー! これ、見てください!!」
「遅いぞ! またサボっておったのか!?」
師匠が怒鳴りながら振り向くと、顔をさらに歪めた。
「なんじゃ、その髪は!」
転生した僕の髪色は、前世と変わらず黒のまま。ちなみに瞳は金色だ。
そこに、憧れだった赤のメッシュを入れてみた。
前世の容姿じゃどうしたって似合わなかったけど、今の僕ならイケてるんじゃないか!?
「師匠、どうですか!?」
「くだらんことするな! いますぐ落としてこい!!」
今にも金槌を投げてきそうな剣幕だが、僕のテンションは止められない。
「どうしてです!? おしゃれじゃないですか!? あ、師匠もやりましょうよ! 絶対似合いますって」
その言葉に、師匠がぴたりと固まった。
あ、やばい。調子に乗り過ぎたか……
「わかりました……落としてきます」
僕は肩を落としながらくるりと振り向き、お風呂場へ向かおうとした。
「……何色じゃ」
「え?」
師匠がぼそりとつぶやく。
「わしには、何色が似合うかと聞いとるんじゃ」
チラリとこちらを見ながらつぶやく師匠に、僕は顔を輝かせた。
「師匠~~っ……!!!」
その日、師匠は僕とお揃いのメッシュを入れた。




