第4話 どうか、弟子にしてください
「助けていただいたのに……とんだ失礼をしてしまい、すみません!!!!」
僕は地面に頭をこすり付けながら、アントニオさんに謝罪をした。
アントニオさんは無言で顔をゴシゴシとタオルで拭いている。
やばい、めっちゃ怒ってる……!
「アントニオさんが、僕らの手当てをしてくれたんだ」
僕が倒れた後、エレンさんたちは目的地である職人の家を訪れていた。
深手を負っていたエレンさんを手際よく手当し、MPを使い果たした僕の看病をしてくれてたらしい。
さっき僕が吐き散らしたのは、わざわざすり下ろしてくれたMP回復の薬草だった。
「あ、あの……僕は、あなたに弟子入りしたくてここに来ました」
この状況で言うのもどうかと思うけど、もう頼むしかない……!
「どうか、弟子にしてください!!」
「弟子はとらん。動けるならとっとと帰れ」
僕の土下座に構うことなく、ぴしゃりと即答されてしまった。
見た目通り、頑固そうな人だ。
「弟子にしていただけるまで帰りません! 僕は人生を懸けて、ここに来たんです!!」
「知らん。作業の邪魔じゃ、帰れ」
アントニオさんは僕に背を向けたまま、淡々と言い放った。
僕は意地でも帰らない。
殴られても、蹴られても、絶対に帰らない。
ここからは、粘り勝負だ!
「師匠、作業なら僕も手伝います!」
「誰が師匠だ! 帰れと言っとるじゃろ!!!」
ブンッっと飛んできた金槌が、僕の頬を掠めて壁に突き刺さった。
思わず喉からひゅっと音が出る。
どうやら僕のバンド人生は、どこまでも命懸けのようだ。
その様子を見ていたエレンさんは苦笑いを浮かべていた。
「アルバートくん、君に渡したいものがあるんだ」
エレンさんが、目線を机の上にある大きな袋へと向けた。
「それは、君のものだよ」
僕はその袋を開いてみた。
「これは……?」
中には、大きな牙のようなものが入っていた。
ひんやりと冷たく、とても硬い材質だ。
「それは、紅焔竜の牙だよ。君の魔法で暴れた時に落としたんだ」
「紅焔竜の牙だと……!?」
目の色を変えたアントニオさんが勢いよく立ち上がり、飛びつくように牙へと近寄った。
「逃げる時に、仲間がアイテムボックスというアイテムを格納できるスキルで咄嗟に拾ったんだ。パーティーを救ってくれたお礼になるといいんだけど」
「エレンさん……! ありがとうございます!!」
あのドラゴンの牙といったら、相当の価値があるんじゃないか?
チラリと視線を横に向けると、アントニオさんは物欲しそうに手を震わせながら、紅焔竜の牙を見つめていた。
僕は、にやりと口角をあげた。
「僕を弟子にしてくれたら、この牙は差し上げます」
「なにっ……!!!」
僕の言葉に、アントニオさんはぎょっとした表情を浮かべた。
職人であれば、貴重な素材は喉から手が出るほど欲しいものだろう。
アントニオさんは、ニヤニヤと笑う僕を恨めしそうに睨みながら、唇を震わせている。
側から見たら僕は完全に悪人だが、今はなりふり構っていられない。
「お前も……どうせ、すぐに根を上げるだろう!? どいつもこいつも腑抜けばかりじゃ!!」
アントニオさんが、勢いよく机を叩く。
「僕は絶対に、途中で投げ出しません!! この傷跡が僕の覚悟です。あなたを探すために何度死にかけたか……。命懸けで、やっとここに来れたんです!!」
僕は服を脱ぎ捨て、上半身を露わにした。
ここまで傷だらけになったのは、僕が弱すぎるせいなんだけど……
それでも、命を懸けてきたのは嘘じゃない。
アントニオさんは、僕の傷跡を見ながら苦い表情を浮かべた。
「…………薪を持ってこい!」
そう吐き捨てると、アントニオさんは部屋のドアを乱暴に閉めて、出て行ってしまった。
「任せてください! 師匠っ!!」
満面の笑みを浮かべながらチラリとエレンさんの方を見ると、エレンさんもにこりと微笑みを浮かべていた。
こうして僕は、念願だった伝説の武器職人への弟子入りを果たした。




