第3話 VS紅焔竜(ヴルカヌス)!!
「ここまでの道のりなら……B級の冒険者がおすすめです」
護衛を頼むために訪ねた冒険者ギルドで、受付のお姉さんが笑顔で教えてくれた。
まさかお姉さんも、伝説の魔物が出るとは思わなかったよな……
「全員逃げろ! アルバートくんを守るんだ!!」
エレンさんの指示で、僕を庇いながら皆が走り出した。
「ヴォォォォーーーー!!!」
紅焔竜のしっぽが動くたび、砕けた岩が飛んでくる。
「くそっ! なんて力だ……!」
殿を務めるエレンさんのガード魔法が、ガラスのように一瞬で砕け散る。
飛んできた岩ごと、壁に体を叩き尽けられてしまった。
「エレン!!」
エマさんの叫び声が響く。
「エレンだけじゃ無理だ! 俺も援護にまわる!!」
「ダメだ! 逃げろ!! 止まったら全員死ぬぞ!!」
倒れるエレンさんが、必死の形相で僕たちに逃げるよう叫ぶ。
いや、無理だ。逃げられない――
この場にいる全員が、内心悟っていた。
紅焔竜の咆哮に、絶望の表情を浮かべながらその場に立ち尽くす。
あぁ、僕が護衛を頼んだせいで、みんなが死んでしまう……
なにか、なにかしないと……!
僕は荒くなった呼吸を整えようと、ゆっくり息を吸い込んだ。
いちか、ばちか。
僕がこの五年で培ったスキル――
「皆さん!! 耳を思いっきり塞いでください!!!」
震える声で僕が叫ぶと、皆戸惑った表情を浮かべながらも、ぎゅっと耳に手を押し当てた。
今まで魔物から逃げ回ってこれたのは、この力のおかげだ――
「すぅーーーー……っ」
僕は耳を塞ぎながら、限界まで大きく息を吸い込んだ。
「サン、ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーン!!!!!!
小さな光とともに、凄まじい落雷音が響き渡った。
音で地面が揺れている。耳を塞いでいたのにキーンッと耳鳴りがする。
威力は静電気程度。しかし、音だけは紅焔竜の咆哮の5倍はあった。
僕の雷魔法は、声を張り上げるほど、音だけが異様に増幅されるらしい。
「ギィヤヤオオオオォォォォォォーーーーー!!!」
紅焔竜が、その場で激しく暴れ始めた。
よほど不快だったのか、ギリギリと歯軋りをしだすと、牙が数本砕け落ちた。
そして、砕けたそばから新しい牙がメキメキと生え始めていた。
そのおぞましい姿に、僕の体は震えあがった。
「エレン!!」
咄嗟に冒険者の人たちが、倒れるエレンさんに肩を貸しながら走り出した。
「今のうちに逃げるぞ!!!」
僕たちは、崖沿いの一本道を、死に物狂いで駆け下りた。
足がもつれ、ほぼ転がり落ちるようにしながら必死に下山した。
「はぁ……はぁっ」
視界がどんどん薄暗くなっていく……息が苦しい……息がっ……
「アルバートくん!!」
エマさんが僕を呼ぶ声が聞こえたけれど、意識がどんどん遠のいていく。
あぁ、僕はまだ死ぬわけにはいかないんだ。
今度こそ、バンドを……!
「アル、大丈夫よ」
気が付くとベッドの上で寝ていた。
母さんが優しい表情を浮かべながら、僕の髪をそっと撫でる。
幼い頃、僕が熱を出した時は、母さんがこうして付きっきりで看病してくれたな。
母さんが、すりおろした甘い果実をそっと口に運んでくれる。
グイッ!!
あ、あれ……母さんこんな乱暴だったけ?
無理やり口の中に流し込まれて、むせ返りそうになる。
それに、なんか口の中がしびれて……
「ブフォオオッ!!! 不味っ!!!」
僕はベッドから飛び起きた。
それと同時に、口の中に広がる酷い苦みに、思わず噴き出してしまった。
目の前に広がるのは、見たことのない部屋の景色――
ここはどこだ?
辺りをゆっくり見渡すと、僕が寝ていたベッドの横には、白いひげを蓄えた年配のドワーフが座っていた。
その人の顔には、僕が吐き散らしたものが、ぽたぽたと流れ落ちていた。
「「……」」
ま、まさか……
「ア、アルバートくん、気が付いたかい……?」
声の方を見ると、包帯を巻かれたエレンさんが別のベッドに横たわっていた。
「……アルバートくん……この方は……」
エレンさんが気まずい表情を浮かべている。
「も、もしかして……あなたが、伝説の武器職人アントニオさんですか……?」
恐る恐る視線を向けると、険しい表情がゆっくりとこちらを向いた。
や、やってしまった……
僕が命懸けで目指してきた弟子入りは、第一印象最悪の出会いとなってしまった。




