第1話 神様に同情された日
「う~む……お主の人生、あんまりじゃのぅ……」
真っ白い光の空間にぽつりと浮かぶ老人が、僕に憐みの目を向けながらつぶやいた。
十四歳になったばかりのある日、どうやら僕は死んでしまったらしい。
ドームツアーの千秋楽。
ラストは僕ら最大のヒット曲。
静まり返るステージに、僕はギター音を響かせた。
観客ひとりひとりの心臓にぶち当てるよう、魂を込めて。
その瞬間、会場は観客の激しい歓声に包まれた――
そんな妄想をしながら自室で気持ちよくギターを弾いていたら、足にコードが引っかかり、その拍子に転倒。
運悪くベッドの角に頭を強打してしまったらしい。
「お主は見た目が残念な分、そこそこ良い家庭の生まれにしたんじゃが……上手くいかなかったようじゃのぅ」
分厚い本をめくりながら、老人が眉をひそめる。
どうやら僕の見た目があれで、コミュ障陰キャだったのは、目の前にいる『神様』が設定したらしい。
「コミュ障陰キャはわしのせいではないぞ。お主の生き方の問題じゃ」
やばい、心読まれてる……
「最近の人間界はルッキズムが激しいせいで、見た目が悪いとハードモードになってしまうのぅ~」
僕を置いてけぼりに、神様はぶつぶつとつぶやいている。
簡単に言うと、僕は失敗作だったのか。
それならもう、この人生に未練はない。
ただ一つを除いて――
「神様……僕はどうしてもバンドがやりたいんです。それ以外は何もいらない。また、ブサイクでコミュ障の陰キャでもいいんです。ただ、バンドを組んで、誰かと音楽を一緒に楽しみたいんです」
「よし、可哀想じゃから今度は異世界に転生させてやろう」
「えっ? あの、僕の話聞いて……」
神様、耳遠いのか?
全然話がかみ合ってない気がする。
「次は見た目は良いが、貧しくて能力のない人間にしてみるとしよう」
「あの~! 僕の話を聞いて……」
声を張り上げるが、神様はお構いなしに話を続けた。
「決まりじゃ! 次の人生では、もう少し器用に生きるんじゃぞ~」
神様は長いひげを撫でながら、僕に手を振った。
すると、足元に穴が開いたかのように急に落下し始めた。
「待っ!! うわああーーー!!」
意識がゆっくりと遠のいていく。
前世の記憶が走馬灯のように頭を駆け巡った。
「あいつ、ギターやってるらしいよ」
「あの顔で?」
見た目が悪いだけで音楽をやることすら笑われた。
それでも、実力さえあれば報われると思ってた。
「上手い奴より、一緒にやってて楽しい仲間探してるんだよね」
スキルよりも人間性が大事だった。
仕方がないからひとりで全楽器をマスターして、演奏の様子を録画して編集で合わせた。
そして、それを動画投稿サイトにアップしてみた。
「すごいけど、バンドって誰かとやるから楽しいんじゃん」
そんなことわかってるよ!!
どんなに頑張っても掴むことができなかった夢。
仲間と一緒に、心から音楽を楽しみたい――
ただ、それだけ。
神様は、やっぱり僕の話を聞いてなかった。
転生した世界に『バンド』の概念はなかった。
多くの勇者たちが、魔王討伐のため命を懸けた旅に出る――
そんな冒険ファンタジーな世界だった。




