それはまるで『よだかの星』のような
物語をきかせてあげよう。
これはとある男の子の物語。
どこにも居場所がなくて、
だれからも受け入れられなくて、
ずっとひとりで生きてきた。
でも、"たからもの"を手に入れて、
幸せになった。
そして、そのいのちは今も
"あの人"の心の中、
きらきらと輝きつづけているんだ。
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敬愛する宮沢賢治先生の童話
『よだかの星』のオマージュ作品です。
(青空文庫さまにて数分で読める短編ですので、
よければぜひ併せてお楽しみください。)
【冬童話2026『きらきら』参加作品】
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――それはまるで『よだかの星』のような――
たくさんの仲間が暮らす森で、
生まれたのは、"とくべつ"な男の子だった。
みどりと青に、きらきら輝くひとみ。
その美しさをだれもが羨んだ。
その心はまるでガラス細工のように繊細で、
光を虹色に屈折させる、不思議なプリズムのよう。
刺激を受け止めるのでいっぱいで、
反応を返せない男の子に人々は眉をひそめた。
世界はさわがしくて、まぶしくて、せわしなくて、
男の子が1を考えるあいだに、10進む。
ことばを覚えて使うのは、むずかしかった。
だれかが言う。この子は"ふつう"じゃない。
だれかが言う。この子は"まとも"じゃない。
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やがて、男の子はひっそりと旅に出た。
出逢う人はみな、男の子を捕まえようとした。
わけもわからず逃げて、うす暗い場所に隠れた。
いつものどが渇いて、おなかが空いていた。
まるで"よだか"のように、
どこにも落ち着ける居場所はなくて、
男の子はたぶん、愛をさがしていた。
けれど愛をさがすのは大変だった。
正しくことばを使わないと、
心を伝えることができなかった。
それなのに、男の子は
まず、自分の心を知らなかった。
いつもあたまの中はチカチカ、ピカピカ
なにか考えようとすると、疲れてしまう。
だからとてもむずかしかった。
正しいことばを見つけて口にするなんて。
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だれかが、男の子をひっぱった。
――ここにいちゃいけない。
その声はきびしかったけど、あたたかかった。
ずっと、はげしい流れの川の中で
溺れていたような気持ちだった。
ようやく水面にかおを出して、
大きく息をすいこめたような気がした。
明るい場所にたどり着いた。
男の子ははじめて、あたまの中が静かになった。
きみが、すき。
そんなようなことを考えた。
それを表すことばを知らなかった。
ことばが無くても、ふたりは親友だった。
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でも穏やかな日々はつづかなかった。
何かおそろしいことが起きて、
気がつけば、男の子はひとりになっていた。
手を引いてくれた人は、いなくなった。
気がつけば辺りは壊れた街だった。
ああ、ここで、いのちが終わるんだと思った。
もう疲れた。もうたくさんだ。
その時、まただれかが現れた。
――ここにいさせてくれ。
その声はぶっきらぼうで、あたたかかった。
男の子はあたたかさにホッとして、
心をことばにしてみようと思った。
嬉しいこと、悲しかったこと、
その人は、ただ黙って聞いてくれた。
男の子が泣くと、抱きしめてくれた。
優しい声で、もう大丈夫と言った。
だから男の子は大丈夫になった。
悲しいことは起きなくなって、
まるで夢のような日々が過ぎた。
あなたを、あいしてる。
そう伝えると、愛してると返ってきた。
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秋になった。
本当に幸せな毎日だった。
生まれてきたこと、
苦しみの中で生きたこと、
居場所を探しつづけたこと、
親友に出会えたこと、
あの人に出会えたこと。
――ありがとう。
さいごまで、幸せだった。
ふたり、手をつないでいた。
男の子は柔らかくてあたたかい光を放つ
オレンジ色の美しい星になった。
今でも夜空を見上げれば、
きらきら、淡く輝いている。
【おわり】
▼著者の作曲したイメージソングがあります。
(画面下部のリンクより飛んでいただけます。)




