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第1章―8

「みんな、早く馬車に乗るんだよ! 荷物なんか、ほっとくんだ! まずは自分の命を守るんだよ!」

 ヤミスが野営地を隅から隅まで、それこそ物陰の闇にまで目を凝らし、居残っている者がいないかと見渡しながら、声がつぶれるのもお構いなしに叫びあげた。

「私がしんがりをつとめる。ヤミス、動かせる馬車から発車させていけ!」

 ヤミスは出かかった言葉を飲みこんだ。ガルマンの顔を正面に見据え無言でうなずく。

 だが、事態は彼らの思惑を待ってくれはしなかった。直後、円陣を組んだ馬車の間、魔王軍の死の軍団が押し寄せてきている漆黒の闇の中から、押し出されるように傭兵団の兵士の一人が野営地の内側に倒れこんできたのだった。

 ――!

 続いて、その闇の中から現れたものがいた……。

「アンデッド……スケルトンか――!」

 それは武者のような鎧を全身にまとっていた。兜からのぞく白い面様は、ごっそりと肉がそげ落ち、闇より深い二つの眼窩の奥には青白い光が目のごとく、ぼうっと淡く揺れていた。紛れもない、白き骸、スケルトン――骸骨であった。

 ――こんな奴が何体もいるというのか……。

 ガルマンは自分たちの置かれている状況が最悪を通り越して絶望的なものであることを悟る。

 骨格だけの存在であるスケルトンを、その見た目だけで侮ってはいけない。華奢な体躯ゆえに、誰もが最初は雑魚のようなイメージを持ちがちだ。だが、それは致命的な判断になるだろう。彼らは骨だけの存在で筋肉を持たない。それならば、なぜ彼らは動くことができるのか? 彼らは死霊遣い――ネクロマンサーと呼ばれる最高位の魔導士によって使役されているのだ。つまり、スケルトンは魔力で駆動させられている。その力は、彼らを生み出したネクロマンサーの技量に左右される。そして、すべからくネクロマンサーの魔力は甚大であった……。

 その証拠に、目の前に躍り出てきたスケルトンは厚手のフルプレートの鎧を着用し、右手には大剣、左手には堅牢な盾を装備し、それでもなお動きは俊敏さを失ってはいなかった。

「うわあああ――!」

 スケルトンが現れた側の馬車から、何人もの人夫が飛び出してきた。

「奴ら、もうそこまで来てる!」

「向こう側は奴らで埋めつくされてるぞ!」

 ――奴は斥候か……。

「早く出発させろ!」

 ガルマンは背後の馬車に命じた。

「走れ! 待機している馬車に飛び乗るのだ!」

 ガルマンとヤミスは剣を引き抜いた。闇から現れたスケルトンを見すえる。

 そのとき――。

「ああっ……!」

 どさっと、スケルトンの背後に落ちたものがあった。馬車の荷台から、せめぎ合う人々によって押し出され落下してしまったようであった。

 人だった――。

 幼き少女であった……。

「ミレ――!」

 ヤミスが叫んだ。

 荷台からはサルトが体を乗り出して手を伸ばそうとしている姿が見える。

 やけに時間が遅く流れているように感じた……。

 スケルトンが振り向く。

 地面を見下ろす。

 そこに怯えた少女の姿を認める。

 スケルトンは剣を振り上げた……。

 ヤミスは走った。だが、もう間に合わないの明らかだ。

 ――絶対に許さない……!

 あいつら、絶対に許さない!

 何度も何度も粉々に打ち砕いてやる!

 ヤミスの目の前で、アンデッドの凶刃が振り下ろされる――。

「やめろ――!」

 思わず目を背けたくなった。

 だが、そのとき――。

 ヤミスの視界をよぎる影があった……。

「な……?」

 グワシャンッ――!

 スケルトンの鎧武者が何かに押され勢いよく倒れた。何者かが体当たりでスケルトンにぶつかっていったのだ。

 その何者かは、地面に伏すミレと骸骨の間に割って入り、自らを少女を守る壁として立ちふさがったのである。ミレは自分を助けにきたその人物を――青年を見上げた。

「お兄ちゃん……」

「大丈夫? 走れるかい?」

 ソラは腰に帯びた剣の柄に手をかけた。そこにヤミスの声がかかる。

「ソラ! やめるんだ! ミレを連れて早く逃げろ――!」

 スケルトンがゆっくりと上体を起こす。そのくぼんだ眼窩は、はっきりとソラの姿を捉えていた。

 ソラが剣柄を握る手に力をこめる。

「やめるんだ、ソラ! 相手にするんじゃない! 奴らは……奴らには……普通の剣は効かないんだ――!」

 ヤミスの声が悲痛なものに変わっていく。

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