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第2章―3

 ――あれ? ここ、どこだろう……。

 盗賊が支配するこの物騒な町で、人気のない路地にひとり――この状況はすごくまずいのではないか……。

 ――道、戻るかな……。

 それとも探索の魔法を使い、辺りの地形を探ってみるべきだろうか……。

 ――町中で探索の魔法を使う?

 そんなに自分は方向音痴だったかな……。

 ソラは少し、しょんぼりとする。そんなときのことだ。

「おい、あっちだ!」

「お前は向こうから回れ!」

 何か騒々しい、そして、この町にふさわしくはあるが、あからさまに物騒な内容の怒号が、遠くから、しかも確実にこちらに近づいてきていた。

 ――なんだ……?

 そう注意を向けたのも束の間、路地の角から、突如ひとりの少女の姿が現れる。いきせき切って駆ける彼女のすぐ後ろには、先ほどの叫び声をあげた主たちであろう男三名が必死の形相で追いすがっていた。

 ――すばしっこい娘だな……。

 抱いた第一印象はそんな呑気なものであった。確かに幼い少女を大の大人が複数名で追いかけている状況は尋常なものではない。何かしらのアクションを取らなければと、ソラも当然のように考える。だが、正直なところ、心のどこかでは自分とは関わり合いのないことだと、所詮は他人事だと思っていたのも事実であった。

『いい大人がよってたかって、こんな小さな娘を追いかけるんですか? 何か事情があるなら聞かせてください』

 自分が間に入って娘をかばう姿を思い浮かべる。

 ――うーん……勇者っぽい!

 ただ、追いかけられている娘の方が何か悪さをした可能性もあるにはある。

 ――何かを盗んだとか……。

 それに、ここは盗賊の町だ。もしかすると、あの娘は何か悪いグループに属していて、そこから足抜けしようと逃げているのかもしれない。

 ソラは心の中で苦笑した。こんな短時間で、よくもまあそんなにいろいろと想像できるものだと。小さい頃から空想にばかりふけってきたからかもしれない。

 ――いや、それしか自分にはできなかった……。

 空想癖は自分が生きていくための、もはや半身といってもよかっただろう。

 ――ともかく、必要なら互いの事情を聞いたり、誤解をといたり、関係を修復する手伝いもできるかもしれない。

 ただし、深入りは禁物だ。あの追いかけている男たちがギルドと縁がある者ならば――この町なら、その可能性はおおいにある――ギルドに助力を請うている身としては印象を悪くするのは好ましくない。そうでなくとも、犯罪に手を染めるようなグループと敵対するのも避けたいところだ。

「あの……」

 呼びかけようとして、我ながら頼りない声だなと思った。これから彼女を助けようとしているのに、こんな情けない声しか出せないとは。これでは声も届かないのではないか。ソラは自嘲した。

 意を決して、大声を出そうと息を大きく吸う。

 そのときであった――。

 声をかけるまでもなく、少女はソラに気づいたのか、こちらに進行方向を変え、走るスピードをさらに上げたのだ。

 ――なんだ、よかった……。

 あっちから助けを求めて近づいてきてくれる。

 ――まず、自分の後ろにあの娘をかばって、それから……。

 ソラはこの後の救助シミュレーションを組み立てようとした。だが、微かな違和感に気づく。それは少女が近づくにつれ、よりはっきりと形を成していった。

 ――あの娘の服装……。

 やけに活発な格好をしている――。

 まず目についたのはスカートではなかったことだ。ソラが勝手にイメージする――古くさい価値観ではあるが――助けを求めるような女性の服装はスカート姿と決まっていた。それがどうだろう、少女は革製のホットパンツに膝上までの黒いオーバーニーソックスと、やけに健康的な太ももが強調された格好をしている。よく観察してみれば、上半身も革製の胸当てを着用していた。町娘というよりは冒険者と呼ぶのがふさわしい。

 ソラは理解した。

 ――ああ、この娘も盗賊なんだろう……。

 少女はソラの目前まで迫ってきていた。彼女の表情がうかがえた。とても助けを求めているような顔ではなかった。むしろ自分を利用しようと考えている、したたかな目をしていた。止まる気配は、ない――。

 駆けてくる勢いに、ソラがぶつかると構えたその瞬間、少女は大地を蹴って飛んだのだった。

 ソラの肩にふわりとした感触がふれた。かと思うや――少女の体は宙を舞い上がり、一瞬にして、その姿は建物の屋根の向こうへと消えていったのである。


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