第1章―10
ソラの突き出した剣先に、どこからともなく現れた光の粒子が吸い寄せられていく。刀身がまとう白光が輝きを増し、そのまぶしさに目を背けなければならなくなるほどだ。
光の粒子――フォントと呼ばれる魔法の源。この世界の理の外からやってくるという。
裏の世界とでもいうのであろうか。フォントは常に何処にでも存在し、ある才能をもった者たちだけがそれをこちらの世界に取り出すことができるのだ。
その才をもつ者――彼らは、この世界で「魔導士」あるいは「魔法使い」と尊称されていた。
ソラは目の前に広がる闇を見すえた。数えきれない星々が絨毯のように地面に敷きつめられている。もちろん本当の星であるはずがない。星は天に輝くものだ。現に頭上の天蓋には、さまざまな色合いの星々が瞬いていた。そう、星は瞬くのだ。ゆらめいているのではない。地面に光る星々の群れは、淡く青白く、そして――例外なくゆらめいていたのであった。
アンデッドの群れ――魔王の死の軍団――であった。双眸におさまった光を対ととらえるならば、その数、数百……千はくだらないだろう。
ソラは迫りくる軍勢を見渡す。その間も詠唱がとどこおることはない。
焦りも見られなかった。ソラにとって、スケルトンは身近でありふれたものであったのだ。
そして――いよいよ限界を迎えようとしていた。ソラの突き出した剣はまるでそれ自体が光でできているかのようにまばゆく輝き出し、飽和状態に達したのか、集まったものの行き場を失った光の粒子達は刀身のまわりをただ舞い踊っていた。
ソラは狙いを定める。大地に広がる闇の軍勢の中央。そこに剣の切先を向ける。
そして、この世ならざる理を顕現させるために、あるいは人の手にあまる力を従わせるためにか、「その名」を、この世界に轟かせたのである。
闇夜の隅々にまで響き渡るように――。
「サンクタルーモ!」
聖なる光――それが、その魔法の名前であった……。
剣先から眩い光の筋が三条、闇の軍勢の間を縫うように蛇行しながら広がっていく。その光跡にそって光の粒子が舞い散る。
そして、何が起こったか――。
ただよう光の粒子がスケルトン達に触れるや否や、その白い骨格は一瞬にして粉々に砕け、蒸発していったのである。
光の筋はもれなく大地を覆っていった。そこかしこで、ガシャン、ガシャンと、ドミノ倒しみたいに鎧の崩れ落ちる音が連なっていく。
光はやがて大地に吸い込まれるようにおさまっていき、あとには、骸骨たちの骨の一本も残ってはいなかった……。
――いったい、俺たちは何を見せられているんだ……。
ガルマンやヤミスだけではない。その場に居合わせた者たち全員が――些末な表現の違いはあれど――抱いた心情がそれであった。
同時に――皆は気づいていなかったかもしれないが――ある感情が、音もなく静かにその空間を、人々の身体を掌握していた。
畏怖――。
スケルトンたちの軍勢に襲撃されたとき、あるいはそのとき以上の恐れが――いや、畏れが……皆を支配していたのである。
「僕は剣士になれなかった……」
ソラがぽつんと呟いた。無意識に吐露された心の声であった。それは青年の背中を見つめるミレにだけ届く。
ひどく悲しい響きをおびていた。これだけの偉業を成しとげたというのに――。
「お兄ちゃん……」
思わず、ミレはその寂しげな背中に声をかけていた。
「お兄ちゃんは……魔法も使えて……剣も使えて……。魔法……剣士……? ――魔法剣士さん……だね」
はっとして、ソラは振り向く。ミレが笑っていた。
――魔法……剣士……?
その言葉を何度も何度も頭の中で繰り返す。
――魔法剣士……魔法剣士……。
魔法剣士――!
救われたような気がした。この世界に来て、挫折して、それでもあきらめきれなくて、剣にすがり続けてきた。
それが今、幼い少女のたった一言で報われたような気がしたのだ。胸を張って、そう名乗っていっていいのだと思えたのだ。
「魔法……剣士……?」
「お兄ちゃん……魔法の剣士さん。かっこいいね――」
ソラは目頭が熱くなるのを感じた。でも、ここで涙を流すわけにはいかない。
――だって、泣いたらかっこ悪いじゃないか……。
この少女の前では、ソラは勇者でありたかったのだ。




