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倭国大乱 観測者は全ての歴史を見届ける  作者: 明石
第ニ章

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第八十六話 愚かな戦

細島の港に寄港し、補給と整備、負傷者の搬送を行った。

それらが終わったあとに再び船を出し、糸島近海に船隊を布陣させるように指示を出した。


一旦は退かせたものの、いつまた出雲と吉備の船が襲ってくるかも分からない。

警戒は怠るわけにはいかなかった。


「陸の戦いはどうなっている」


海上の防備を整えさせつつ、港に残っていた部下に戦況を確認する。


「はっ、筑紫島つくしのしま側で敵を迎え撃っております。海上からの支援がないため、敵軍の兵站は繋がらず、勢いがありません」


やはり、あちら側は船隊の支援ありきでの戦だったようだ。


そうであるなら、俺の戦いも意味があったことになる。

海で散った仲間たちの命が、無駄にならずに済んだ。


「よし、移送用の構造船を出せ。細島の防備兵の一部を援護に回す」


そう指示を出し、兵が動き出した直後だ。

王都にいる穂北彦ほきたひこから報せが届いた。


「王都から?穂北彦殿は投馬国との国境沿いのはずだろ」


出雲、吉備からの攻撃において、最も怖いのが投馬国つまこくだ。

最近は北に対しては大人しかったが、出雲国たちに呼応して、南からの挟撃を行う可能性もある。

そのために穂北彦は、南の国境警備隊の指揮を都萬彦から任されていたはずだ。

なのになぜ。


「穂北彦様は、王都に呼び戻され、代わりに王自らが国境に向われました」

「なんでそんなことに」

「投馬国が、北の戦いに合わせ、邪馬壹国やまいこく領への侵攻を開始しました」


やはりそうなったか。

好戦的な投馬国なら、この機を逃すわけはない。


「だが、そのための穂北彦殿だろう。何故、彼を呼び戻し、王自らが戦場いくさばに赴かなければならないんだ」

「それが、穂北彦様が王の命を拒んだためだと」


穂北彦が?

俺はそれに対して違和感を感じた。


あいつはタケルや俺と共に戦い、王弟とはいえ立派な軍人になりつつある。

そのあいつが命令違反を犯すなんて考え辛い。


「何かの間違いではないのか」

「……いえ、穂北彦様御自(おんみずか)らの報せである以上、事実だと思われます」


伝令が縮こまりながらも、はっきりと答える。

だとしたら、都萬彦のことだ。よほど無茶な命令を下したに違いない。


「穂北彦殿が拒んだという命令内容は何だ」


その答えを聞いた瞬間。


頭の中が真っ白になった。

電流が全身を駆け巡るような錯覚に陥り、思考が一瞬で吹き飛ぶ。


気がつけば俺は走っていた。


援護に回すはずだった船団に飛び乗り、

指揮官と船頭を怒鳴りつけ、投馬国方面へと針路を全力で取らせていた。


一刻も早く、止めなければならない。


都萬彦を。


このままでは、取り返しのつかないことになる。



2年前。

九州中央西部の小国群を巡り、覇権を狙う国々が互いに攻め合う、いわゆる“西の動乱”が勃発した。


北部九州の諸国は、邪馬壹国を中心とする連合形成を優先するため、この争いから一斉に手を引いた。


競合相手が消えたことで、空白となった西部の勢力圏を、投馬国が一気にさらってしまったのだ。


かつては、鹿児島西部を主な影響下に収める程度だったこの国が、いまでは葦北・球磨のあたりまで牙を伸ばしている。

そのため、現在の国境ラインは球磨川を南北で挟んだあたりまで北上している。


だが、今回はそれが優位に働いている。

戦線が北に近づいた分、ここからの距離も多少短くなる。


戦場は宇土うとの辺りらしい。


糸島を発ち、唐津湾を抜けた俺たちは、玄界灘の外洋へ船を出した。

佐賀と長崎に塞がれるため、ここから西に大きく迂回する。


荒れやすい外海を、天草を目指してひたすら南下する。

長崎の岬を大きく回り込むと、海は次第に穏やかになり、やがて天草北の入り江が見えた。


そこから八代海やつしろかいへ滑り込み、宇土の陸影が近づいてくる。

1日半をかけ、ようやく戦場へと到達した。


急いで船を降り、連れてきた60名の兵とともに自軍へと駆ける。


「間に合わなかったか」


連合軍と投馬国軍は既に向かい合っている。

両軍の中間は丘と山が左右に聳えており、そこだけ少し狭くなっている。


連合軍はおよそ1000。

200が邪馬壹国軍の主力軍で、残りが諸国から徴兵した寡兵だ。


邪馬壹国軍がやはり少ない。

本来はまだ動員できるはずなのに。


そして、邪馬壹国兵で組織された主力軍は、何やら外套のような物を纏い、他の兵とは差別化されている。

いかにも都萬彦のやりそうなことだ。



自軍に対して投馬国軍は600ほどか。

これだけを見れば、数では圧倒的にこちらが有利だ。


都萬彦が先に軍を前に出した。


およそ100。

相手も同数で迎え撃つ。

徐々にこちら側が押され始める。


ある程度調練を積んだ軍ではあるが、やはり南の兵は勇猛果敢だ。

まともなぶつかり合いでは分が悪い。

都萬彦は更に100名を前に出す。

これで互角。

更に100。

3倍の兵で、ようやく少し押し返し始めた。


「どけ。俺だ、持衰だ。王に用がある」


布陣していたを掻き分け、都萬彦のいる本陣に辿り着いた。


「都萬彦」


王への敬称を忘れ、以前と同じ呼び方をしてしまう。

特に驚きもせず、都萬彦がこちらを見やる。


「持衰、何をしにきた。貴様は北の戦線の海軍総指揮官のはずだろ」

「あちらは大方片付いた。今は南に向かえという穂北彦の命に従っている」

「やはり、そんな所だとは思ったが」


都萬彦は舌打ちをした。


「命令拒否に加えて、独断で指揮官を動かしおって。どこまでも愚かな義母弟おとうとだ」


都萬彦が戦場を見つめながら、苛立ちを露わにする。

だが、俺は構わずに言葉を続ける。


「すぐに軍を下げろ。左右の山と丘が見えないのか。伏兵を配するなら絶好の場所だぞ」


少しずつ下がりながら、投馬国軍は山と丘に挟まれた狭い地点まで近づいてきている。

押されたふりをして、敢えて敵を引き込んでいる。

そんな動きにも見える。


「見くびるなよ、持衰。分かっている」


都萬彦が楽しそうに笑う。

その表情に、俺は背筋に悪寒が走るのを覚えた。


そして、丁度軍が山と丘に挟まれた時、予想通り左右から伏兵が駆け下りてきた。

両側から100名。

これでお互い300ずつ。


だが、逆落としの勢いと、元々の練度が違う。

形勢は既に決している。


「軍を下げろ。都萬彦」

「まだだ」


都萬彦が腕を振る。

今度は200の味方兵が突撃する。

隊列も何も無い。

一塊で遮二無二突っ込ませている。


前線に200の後続隊が介入してきたことで、完全なる乱戦となっている。

陣形も何も無い。


見かねた投馬国が兵を下げ、陣形を整えようとする。


「よし、追撃しろ」


鉦が鳴る。

敵は乱れた前線部隊を整えるため、入れ違いに後続部隊を放った。


およそ300か。

500の連合軍と、300の投馬国軍がぶつかる。

だが、バラバラな軍と、ある程度統率の取れた陣形を組んだ相手とでは勝負にならない。


固い岩にぶつかる果実のように、どんどん味方が潰されていく。


一旦下がった300の先鋒隊も、隊列を整え反転してきた。

「これ以上はないか……。全て吐き出させたな」


そこでようやく都萬彦が退却の鉦を鳴らさせる。


前線の味方が撤退してくる。

500だった軍は、既に半数近くにまで減っている。


「よし、そこで止まれ」


やや本陣の近くまで下がってきたところで、味方の退却を止め、再び敵を迎撃させる。

追撃してきた敵と戦闘になる。


「都萬彦、援軍を出せ。このままでは全滅だ」

「だが、敵にも確実に被害は出ている」


確かに、600だった敵も500を下回る程には減っている。

それでも、先に壊滅するのは明らかにこちらの方だ。


「これ以上は無理だ」


俺は駆け出そうとする。

せめて連れてきた60名と援護に回らなければ。

直接前線部隊に指示を出せば、彼らを退かせることもできる。


「取り押さえろ」


いつの間にか左右に回っていた兵に腕を掴まれた。

観測者補正を使えば無理に引き離すこともできるが、下手したら味方同士の殺し合いになってしまう。


「都萬彦、頼む。行かせてくれ」

「だめだ。ここからが面白いんだ」


兵が次々と死んでいく。

もう数人しか残っていない。


「邪魔な壁は無くなったな。ここだ行け」


連合軍300と、邪馬壹国本隊の200が全て駆け出す。


500の犠牲と引き換えに、前方の敵は300ほどにまで減っている。

投馬国軍も、まさか全滅するまで戦い続けるとは思っていなかったのだろう。泥仕合に引き込まれ、敵も想定以上の被害を出している。


200の邪馬壹国本隊がぶつかる。

だが、残り300の連合軍は素通りし、後方に控える敵本隊に突き進んでいく。


「都萬彦、何をやらせているんだ」

「見てわからんか。敵本隊の足止めだよ。目の前の三百を撃退したら、次は後方の二百だ。一兵も逃がすつもりはない」


だが、同数の敵ならこちらに勝ち目がないことは分かっているはずだ。

無理に敵を殲滅するより、倒せる敵だけ倒して、被害を抑えるほうが得策だ。


前方の戦いに目をやる。

せめて、目の前の敵を迅速に破ることができれば。


だが俺は、そこで更なる衝撃を受けることになった。

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