表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倭国大乱  作者: 明石辰彦
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/95

第二十九話 真意

祖茂さんに伴われ、于吉と宮崇、そして俺は孫堅の待つ幕舎の前までやってきた。

「では、俺はここで」

ここから先は俺たちだけと言うことか。

「于吉殿、俺は……」

祖茂さんが何か言いたげだ。

孫堅はおそらく、于吉の出方次第では、彼を斬るつもりだろう。

黄巾の乱の一件以来、道教の徒は権力者達からその存在自体を警戒されるようになっている。

自分の領分で派手に人心を集め、しかも張角の師とあっては捨て置くことは出来ない。そういった孫堅の心理は分からなくもない。

祖茂さんもそのあたりのことを理解した上で、俺たちをここまで運んできた。そのことに対して罪悪感を抱えているようだ。


「しみったれた顔をするでない祖茂殿。ちょいと将軍殿に挨拶するだけだ。大したことはない」

強がりでもなく、于吉は本当にそう考えているようだ。

「明日には、お主たちの武運を祈り、祈祷を致そう。楽しみにしておれ」

そういって軽い足取りで中へと向かっていく。

宮崇も後へ続く。

「持衰殿、将軍はお主には気を許しているようだ。お主の言葉であれば、将軍に届くかもしれん。俺が言うのもおかしな話だが、于吉殿をお守りしてくれ」

「大丈夫だよ祖茂さん。任せてくれ」

俺は祖茂さんに笑いかけ、幕舎の中へと入っていく。

祖茂さんの言う通り、孫堅は前世の俺と今世の俺を重ね合わせ、情のようなものを抱いてくれているとは思う。

たが、あの眼。

于吉のことを口にした時の、冷酷さと殺意を孕んだあの瞳。


おそらく、孫堅は俺の師匠だからという理由で、于吉を助けたりはしないだろう。

于吉がこの場を無事にやり過ごすには、于吉自身の力で切り抜けるしかない。

俺はどこまでいっても“観測者”でしかないのか……。

自分の無力さが恨めしかった。



奥の幕舎、中央に胡床が据えられ、そこに孫堅が腰掛けていた。

脇には孫策をはじめ、見慣れぬ男たち。魯陽から共に来た面々だ。タケルの話では孫堅の兄弟達ということだったが、誰が誰なのかはわからない。


「はるばるよく来てくれたな、于吉道士」

孫堅の声が響く。

「なんの。会稽の人間が、破虜将軍の招きを拒むはずもない」

「殊勝なことだな」

孫堅の口元には笑みが浮かぶ。だがその眼光は氷のごとく冷えきっていた。


ゆるりと胡床から立ち上がると、孫堅は一歩、于吉の前に進み出る。

その手には一振りの剣。鍔や鞘金具には細工が施され、戦場を幾度も血で染めてきたであろう光が、将軍の威光を象徴していた。


俺の背を冷や汗が伝う。


「太平清領書の編纂者、于吉道士。直接伝えたわけではないとはいえ、道士の広めた教えにより、太平道なる邪教が蔓延り、多くの民が命を落とした。道士はその件について、どう思われているのか。今日はそれを訊いてみたくてな」


返答によっては斬り捨てるということか。

俺の心臓が激しく脈打つ。


「どうもこうも。張角めが儂の“タオ”を、勝手に都合よく利用したに過ぎぬ。儂の預かり知るところではないわ」

「自身の責ではないと?」

「鍛冶師が打った剣が人を殺せば、それは鍛冶師の罪か?」

「剣を振るのは、人それぞれの意思だ。道教は人の意思そのものを操る。貴様が生きている以上、第二、第三の張角が現れぬとも限らん。多くの民を救うためには、お前はやはり処断するべきだ」

孫堅の目が血走っている。本当にすぐにでも于吉を斬ってしまいそうだ。


「孫堅、それは……!」

割って入ろうとしたが、その眼光に射抜かれ、俺の足は杭で打たれたように動かなくなる。


ーー怖い。

視線ひとつで、全身を縫い止められたようだった。


武の才だけでいえば、昨日立ち合った孫策の方に分があるだろう。なのに、動けない。強いとか弱いとかではない。王者としての覇気の差。その圧に当てられ、宮崇ですら汗で衣を濡らしていた。


だが、そんな覇気を前にしても、于吉は一片も怯まず、まるで仙窟で風に身を任せるかのように、自然体であった。


「なるほどそれがそなたの“根”か。なんという優しさであろうか」

「俺を愚弄するか于吉」

「否。むしろ感嘆しておる。乱世において、力ある者は自身の私利私欲、栄誉栄達を貴きとする。弱き者は己と己に近しき者を守るだけで精一杯だ。だが、お主は……、」

「情に訴えかけても無駄だぞ」

孫堅が言葉を遮り、刃を抜く。

切っ先は于吉の喉元に突きつけられている。

「于吉!」

流石に俺は動こうとする。

しかし前から孫策が飛び出してきて牽制される。

「孫策!?」

「父上が話してるんだ!横入りは無礼だろ!?」

そういって微笑む。この場がどう動くか楽しんでいるようだ。

同時に、無理に動けば腕の一本くらい斬り落とす。そんな孫策の“本気”が伝わってくる。

友だちって言った癖に。


于吉は俺達には目も向けずに続ける。

「そなたはこの乱世において、唯一、民のことを憂い、かつ救う力を持つ者だ。こんな所で失うには惜しい人間だ」

「失う?死ぬのはお前だぞ、于吉」

「いや、お主は斬らぬよ。二つの“り”がないからの」

孫堅の片方の眉が、わずかに吊りあがる。

「聞いてやろう。だが、これが最後だ。」


ラストチャンス。ここで孫堅を納得させられなければ、于吉は死ぬ。

于吉、何を言うつもりなんだ?

俺は生唾を飲み込む。


「確かに、張角の太平道は、耳触りのいい言葉と、まやかしの奇跡で民を惑わせた。だが、我が太平清領書は違う。かたりの奇跡ではなく、ただ病を癒す“ことわり”を説くのみ。民を惑わすのではなく、苦しみを鎮めるのだ。儂はなんら罪を犯してはおらぬ。ゆえに、お主に斬られる“道理”はない。これが一つ。」


于吉の声は静かだが、揺るぎがない。


「そして――儂を斬れば、これから救われるはずの命が失われる。悲しみだけではない。領地の民は減り、税も兵も痩せ細る。だが儂を生かせば、病に苦しむ民は立ち直り、領地は富む。儂は害ではなく、生きた薬。斬れば毒となり、生かせば薬となる。これが二つ目の“利”だ」


于吉の静かな眼差しは、孫堅の猛々しさとは真逆だが、それに引けを取らない威厳がこもっている。


「義をもって理を行えば、利は自然とそなたに返る。さて、破虜将軍――如何かな?」


孫堅は微かに笑うと剣を鞘に収めた。

「なるほど。“道理”だな。貴様を斬れば、俺は無実の者の命をいたずらに奪ったことになる。そして、自身の民を救う人間をみすみす手放した愚か者。民衆の信を失うことになろうな」

孫堅の様子を見て、孫策も構えをとく。

宮崇が微かに吐息を漏らす。

「神だ仏だ天罰だと、下らぬ妄言を盾にしてきたら即刻首を落とすつもりだったが……。

流石は持衰の師というだけのことはある」

そう言うと孫堅は胡床に再び腰掛ける。

「だがな、于吉道士。あなたが民に絶大な影響力を持っている事実に変わりはない。今は大人しくしているだけで、その胸の裡に何を秘めているとも知れん。今後、俺の目が常にあなたを見張っていると心得よ。不穏な動きがあれば、今度は躊躇いなく斬る」

「ふむ。肝に銘じておこう」

さらりと于吉は言ってのける。

「して、明日は兵を鼓舞する儀式を行なって頂きたいが、頼めるだろうか?無礼を働いた上に、かような願いは厚かましいと、心得てはいるが」

「将軍のお役に立てるのであれば何なりと」

鷹揚に于吉は拝礼する。


その後于吉と宮崇は返されたが、俺は留まるように孫堅に言われた。

「他の者も外してくれ」

皆は孫堅の言葉にしばし逡巡していたが、彼の言に従い、幕舎を後にした。


中には俺と孫堅の2人だけとなった。

「座って話そう」

そう言うと孫堅は俺の前でどかっと胡座をかいた。

俺も孫堅にならって腰を落とす。


「師匠を試すような真似をして悪かったな」

言葉とは裏腹に、孫堅に悪びれる様子はない。

「最初からそのつもりだったんだろ?こっちも覚悟はしていたさ」

「そうか」


ふっ、と孫堅が笑う。

昔はこんな含みのあるヤツじゃなかったのに。

2人の間に沈黙がおとずれる。

孫堅は俺に何の話があるのだろう。

そもそも、俺の方が孫堅に色々と語りたいことがあったはずなんだ。

だが、先程の于吉とのやり取りが尾を引いて、こちらから話しかけるのが憚られる。


「先代の持衰のことは知っているか?」

ようやく孫堅が口を開く。

「あ、ああ」

なんせ本人だからな。

「アイツは俺の友だちだった。いや、今でもな。自分が殺されそうでも敵を殺せない可笑しなヤツでな、戦場では、それは単なる甘えだと、俺はアイツに言ったよ」

その言葉は今でも俺の胸に突き刺さっている。

自分の手を汚さないために、仲間にそれを肩代わりしてもらっていた。

自分でも自覚していなかったエゴを孫堅に突きつけられた。

「だがな、もし平和な世であれば、それは美徳だ。人を殺すのが当たり前の世が終われば、アイツのような存在が必要となる。だから俺は敢えて突き放した。そもそも軍隊の中にあんな奴がいたら、いくら強くてもかえって足を引っ張ることになるしな」

「孫堅……」

「だが結局、最後には俺はアイツの力を利用して、乱を鎮圧した。持衰という聖なる存在を殺戮者に堕としたのだ」

孫堅はそう言って遠い目をする。

当時のことを思い出しているのだろう。

「最後のアイツの姿は目に焼きついている。信じられない強さだった。何かの行き違いで、倭人たちが許昌に与していたら、コイツは敵になっていたはずだ。そうでなくてよかったと心から思ったよ。俺は恐怖した。身体の芯からぶるぶる慄えた。あんなことは後にも先にもあの時だけだ。それと同時に、とてつもなく惹かれた。あの時の持衰の姿はおそろしいほど美しかった。アイツは本当に神か何かなのだと俺はそう思った」

あの時の俺は文字通り人間に許された限界以上の力を強制的に行使していた。孫堅がそう思うのも無理はないかもしれない。

「人ならざる力を使ったアイツは、もう限界だったのだろう。最後は許昌の息子に刺され、あっけなく死んでいった。俺がそうしたようなもんだ」

「何でそんな話しを俺に?」

「俺はお前が持衰の生まれ変わりだと本気で思っている。そう思いたいだけなのかもしれないがな。虚しいだけだ。だが言わせてくれ。済まなかった」

そう言って孫堅は俺に頭を下げる。

「謝るのは俺の方だ。ずっとお前の側にいて、一緒に戦ってやりたかった」

つい、自分が生まれ変わっていることを忘れ、前世の自分として言葉を発してしまった。

孫堅はそれを俺の思い遣りだと考えたのか、悲しそうに笑った。



「俺からもいいか?」

「ああ」


孫堅が頷く。

タケルに聞いた孫堅の話。

孫堅が変わった理由。なぜ荊州刺史、王叡と南陽太守、張啓ちょうしを殺したのか。

それを確かめたかった。

俺はその疑問を、孫堅にぶつけた。


「ああ、その話か……」


一瞬で孫堅の雰囲気が変わる。冷酷な眼、他を圧倒する王者の風格。

先程までの俺の友達だった孫堅は、もうどこにもいなかった。


「王叡についてはどう聞いている?」

「お前が王叡に侮辱され、その恨みを晴らすため、檄文を理由に復讐した、って」

孫堅は鼻を鳴らす。

「王叡は確かに孫子の末裔を称する我が一族を、出自の定かでない田舎者と公言してやまなかった」

「じゃあ、やっぱり」

「孫子の末裔だと信じ込んでいたのは俺の親父殿だ。俺はその方が箔がつくので、敢えて否定はしなかっただけだ。実際はどうでもいい。俺は俺だからな」

「だったらなんで?」

「王叡も形だけは反董卓連合として、三万の軍を抱えていた。だが、アイツは実際に前に出て戦うつもりなど毛頭なかった。だったら兵は宝の持ち腐れだろ?」

「なら、その兵を奪うために」

「ああ、温毅おんきの檄文を利用した。実際は王叡に恨みを抱く武陵郡太守の曹寅そういんの偽造書だがな。まあ、そんなことはどうでもいい、王叡を討つ大義名分さえあればな」


俺の背筋が寒くなる。

目の前にいるのは、力を得るためなら、かつての戦友を喰い殺すことも厭わない獣。まさしく猛虎だった。


「だったら、張啓のことは?」

「ヤツについては概ね言われている通りだ。兵糧の用意を怠り、俺の進軍を遅らせた。だが、却って好都合。張啓を斬る理由ができたからな。これにより南陽郡は実質この俺に膝を折った。兵糧やその他物資。南陽のものは全て俺の自由になった。まあ、少し強引だったことは認めよう」


孫堅は惨忍な笑みを浮かべた。――いつから、こんな顔をするようになったんだ。


「孫堅。お前らしくない。手段を選ばず、恐怖で人を支配するようなやり方……董卓と変わらないじゃいか」

「俺をあんな愚物と同列にするな」


静かながら、腹の奥に響く重い声。怒鳴ってはいない。それが却って凄味を増していた。

俺は思わず口を噤む。


「ヤツの中にあるのは我欲のみだ。帝さえもそのための道具としか見ていない。董卓だけでない、それまでの宦官や外戚どもも同じだ」

孫堅の凄まじい怒りを感じる。

于吉と対峙していた時以上の迫力が容赦なく俺に襲いかかってくる。

「董卓から帝をお救いし、俺がお支えする。その上で腐った官吏と地方役人どもを一掃し、この漢王朝を建て直す。そのためには力がいる。反董卓連合軍など格好だけだ。盟主の袁紹を含め、全員が漁夫の利を狙う腰抜けどもだ。本気で戦う気など毛頭ないのだ」


孫堅の息がわずかに上がる。


「俺が、俺だけが董卓を倒せる。俺がやらねばならん。でなければ、また黄巾のような反乱が必ず起きる」


黄巾の乱。

于吉が先ほど孫堅に言った言葉。孫堅の“根”

コイツをここまで駆り立てるもの、変えてしまったもの、それが黄巾の乱だと云うのだろうか?


「黄巾の乱で何があったんだ?」

「何があった?――地獄だよ。無辜の民を、際限なく斬り伏せた。俺は大義のための戦は辞さない。漢王朝を、民を救うためなら何だってしよう。だが……なぜだ?なぜ守るべき民を殺さねばならなかった?あれは戦ではない。ただの虐殺だ!」


孫堅は俯き、言葉を絞り出す。

「黄巾の兵を斬るたびに、馬の蹄にかけるたびに、殺せと命じるたびに……俺は頭がおかしくなりそうだった。いや、あの時の俺は狂っていたのだ。黄巾の兵の中には――女子供すらいたのだ……!」


その眼には悲痛が宿り、俺の胸を抉った。


「俺は呪った。張角を。民を死地へ追いやった邪教を。そして、そこまで追い詰めた無能な権力者どもを。――あの地獄を二度と見ぬためなら、今の俺が奪う命など些末なものだと思わないか?」


孫堅が顔を上げ、俺を見つめる。その眼は救いを求めるように縋っていた。

「持衰……あの場にお前がいてくれたら、何か変わったのか?」


「孫堅……」

俺は何も言えない。その場にいても、何も出来なかっただろう。

もし黄巾の乱において、あの超常の力を使えたとしても、何の解決にもならない。より多くの民が死ぬことになっただけだ。

力が何の役にも立たない、それは武人にとって絶望でしかない。


「だから俺は、誰に何と言われようとも覇道を行く。この国を変えるまではな」


並々ならぬ決意を前に、俺はもはや何も言えなかった。言う資格すらない。孫堅と同じ苦しみを背負えなかった俺には。


「見苦しい所を見せたな」

俺の沈黙を答えと受け取ったのか、孫堅は居住まいを正して立ち上がる。

「二代目の、お前は今後どうするつもりなんだ?」

「どうするって……?」

俺も立ち上がりながら声を発する。

「于吉と共にまた会稽に戻るのか、それともこちらに留まるのか?」

あまり考えて、いなかったな。

当初の目的は孫策だ。

だから于吉と離れて、ここで張っていたほうが良いような気がする。

だが、俺はいつの間にかあの爺さんと別れ難いとも感じてしまっている。

情が移ってしまったもんだ……。

けど、

「俺も倭人隊に入る。そして董卓と戦う」

まず俺が一番守りたいのは孫堅だ。

ならば孫堅の側に仕えるのが最良だ。

16年越しに、俺はこいつの力になれるんだ。

「それは出来ん」

「は?」

孫堅に一蹴される。

「な、何でだよ!?俺だって覚悟はある。お前の大義のためなら、俺だって敵を斬れる!」

そう、あの時の甘さは消えた。

救った命が、時に自らの大切な者の命を奪うことを、俺は知っている。

「だからこそだ。祖茂から報告は受けている。お前は先代とは違う。だからこそ戦場には連れていけぬ。またお前にあんなことをさせるわけにはいかん」


言葉を見失う。

正直、孫堅の気持ちは嬉しい。

でも、

「仲間やお前だけに戦わせて、俺だけが安穏としていられるかよ!これが今の俺の大義だ!何言われても勝手に付いていくぞ!?」


「ストーップ!何言ってんのよ?また悪い癖が出てるじゃない!」

沈黙していたナビが堪らず口を挟む。

「キミ、こないだわたしに言ったよね?命の危険があるようなことはしないって!」

「それは于吉と一緒にいる間の話だ。今は状況が変わったんだ!」

「キーーッ、この嘘つき!」

ナビがヒステリーを起こす。

……頼むから今は黙っててくれ。


「懐かしいな、それ。お前も神と会話できるのか」

孫堅が特に驚きもせずに声をかけてくる。

「二代目の。お前の気持ちもわかった。ならこうしよう。兵はでなく、俺の将となれ」

「は?将?」

「昔の首長殿のように倭人隊を率いる者がおらん。今は他の将が指揮を執っているが、やはり倭人は倭人に任せるべきだろう」

「それを俺に?」

「ああ、将であれば先代のように一人で闇雲に突っ込むことも無くなるだろう。できれば将ではなく軍師とか、なんなら兵站係りとかだと良いのだが……」

それは御免だ。後ろで偉そうにしているのは性に合わない。

「ま、それはお前の性格では無理だろうしな」

「で、将になるって、具体的にどうすんだよ?」

「そうだな。まずは馬の扱い。それに軍略を学んでもらわんとな。最低でも孫子兵法、六韜、呉子あたりは読み込んでもらおう」

「おい……それってどれくらいかかるんだ?」

「お前次第だ。長ければ一年か、二年か……」

もしかしてそれって、単なる時間稼ぎ……

「イェーイ、孫堅ナイス!」

ナビが嬉しそうだ。

「これは最大限の折衷案だ。嫌なら大人しく于吉と共に会稽に帰るんだな」

「……ぐぬぬ」


そう言われてしまっては、流石にそれ以上は言い返せなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ