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倭国大乱 観測者は全ての歴史を見届ける  作者: 明石
第一章

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第二十二話 再びの目覚め

俺は今、眠っている。

朦朧とした意識の中、少しずつ音が聞こえてくる。

横たわった床の感触がわかる。手足の感覚が戻ってくる。

覚醒の予感が迫る。

目が覚める。

ここは……、


完全に目が開く。そうだ、俺は。

何を寝ているんだ。

戦は?首長が――


首長が死んだ。


直前の状況を思い出す。

許昌を討って、腹を刺されて。

あの状況で生きているなんてことがあるのか?

でも、現にこうして……。


「あ、起きたね」


「ナビ!?」


そこには俺を見下ろすナビの姿があった。


「ナビ、あの後どうなったんだ!? 許昌の軍は? 俺はどのくらい眠ってたんだ!?」


起き上がろうとするが、体が重くてうまくできない。まだ傷の影響があるのか?


「んー……あの後すぐ、許昌の残兵は投降するか逃亡。逃げた人のほとんどは捕まっちゃったかな? 素直に投降した人の一部は孫堅の兵として組み込まれてたよ。キミが許昌を倒したおかげで戦意喪失しちゃったんだろうね。それ以上の犠牲者は出さずに済んだみたい」


被害を最小限に留める為の、早期決着。

そのために孫堅に命じられた単身での許昌襲撃。

無駄にならずに済んだようだ。


「そうか……。あのまま戦は終わったのか。良かった」


ここで、ナビの顔が強張る。一見冷静な顔を保ってるがこめかみに青筋が浮かんでいる。


「よ・かっ・た〜?何が良かったのかな?」


「あ、いや」


顔は笑顔だが、表情筋が痙攣している。ナビがキレる予兆だ。


「良いことなんて1つも無いよ!!あんな無茶して!!わたし止めたよね!?止めたよね!?なんで、いつもいつもいつもいつも、ゆうこと聞かないのよ!!リミッターまで外しちゃうし!!」


「リ、リミッター?」


「聞いたことくらいあるでしょ!?人間の脳は普段、本気の力を出し切らないように制御してるってやつ!あれを解除したらどうなるか、分かってるの!?」


「……いや、ちょっと待て。俺そんなことした覚えないぞ?」


「無意識にでも、もう限界突破してたの!筋肉も神経も血管も、もうブチブチのボロボロのズタズタになってたんだから!!」


「ご、ごめん。でもこうして生きてたんだから……」


「生きてた!?何言ってんの?キミあの時に死んだから!!」


は?そっちこそ何言ってんだ?

俺は今こうしてここにいるじゃないか?


「自分の体をよく見てみなよ!!」


「からだ?」


そう言われて両手を上げて眺めてみる。

小さい。

足。

短い。

覚えがある。この感覚。


「お、おれ、もしかして、また……」


「はい、せいかーい!!三度目の転生おめでとうございまーす!!」


ナビが自棄っぱちになったように叫ぶ。


「たまたま転生できたから良かったけど、あのまま消えててもおかしく無かったんだからね!?歴史の強制力が、許昌討伐までで、ひとまずイベント終了って見なしてくれたみたいだから良かったけど、中途半端なタイミングで死んだら観測失敗で」


そこで言葉を切る。興奮しすぎて肩でぜいぜいと息を弾ませている。


「……観測失敗で?」


ナビが半泣き、マジギレの声で続けた


「歴史という流れの中に、泡ぶくみたいになって消えちゃうんだよ!!これ前も言ったよ!?言ったよね!?」


「そ、そうでした……。すみません」


「謝るくらいなら最初から無茶しないでよ!!歴史の流れは決まってるんだから、孫堅が勝つことは最初から分かってたんだから!!キミが何かする必要なんて無かったんだよ!余計なことしなければもしかしたら首長だって……。あ」


その言葉であの時の映像がフラッシュバックする。

首長。親父。あの目。

堪らず俺は叫びだした。

ぎゃんぎゃん泣き叫ぶ。

赤ん坊に戻ったせいだろうか?

全く感情に歯止めが効かない。


「あわわわ、ごめん、言い過ぎた。はいはい、ほらほらよしよ〜し。泣かないよ~。ほら、いないないば〜」


ナビが両手を顔の横で広げて変顔をするが、俺の泣き声は止まらない。むしろ増幅するかのように声が張り上がり、喉が裂けそうになる。涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃだ。


「うわ〜、どうしよ、どうしよ。も〜、泣かないでよ~」


俺につられてナビもベソをかく。

そこへ、


「ぼうや、どうしたの?」


倭人の女性が入ってくる。

あ、この子。

見覚えがある。倭人の村にいた、俺より少し年下の女性。


「お腹がすいたんだね」


そして衣をずらして、乳房を露わにする。


お、おぱおぱおぱおぱぱぱぱぱ。

このシチュエーションは。


そして、俺の口元をその膨らみへと誘う。


ダメダメ、ダメだって!顔見知りの、それも歳下の女性に授乳されるなんて!


屈辱と背徳感が一瞬悲しみを上回る。

俺は必死に抵抗を試みる。

だが悲しいかな体は赤ん坊。

理性と肉体はまるで別物。

差し出された温もりに、本能が勝手に――


「んぐっ……」

ふわぁ。


恐るべしおっぱい。

おっぱいで無理矢理落ち着いてしまった俺は、とにかく今置かれている状況を確認する。

おんぶされながら。

襲いかかる睡魔と必死に戦う。


「まず、俺が死んでからどれくらい経ったんだ?」


「1年ちょいだね。今は西暦175年の夏」


「孫堅は?どうしてる?」


「会稽郡はかなり平和になったからね。孫堅は塩瀆県の丞に転任したよ。丞っていうのは県令補佐ね」


「ってことは軍じゃなくて役所仕事?」


なんか、普通に働いてる孫堅の姿ってあんまり想像できないな。

馬で駆けたり、兵をしごいている方がお似合いな気がする。


「孫堅のことはわかった。あと確認だけど、この子がいるってことは、ここは俺がいた句章の倭人の村で間違いないよな?」


「そうだよ」


「良かった……。倭国に飛ばされてたらどうしようかと思った。句章の倭人たちをほっとけないからな」


「今の姿じゃ何もできないけどね」


「ふん、すぐデカくなってやる」


その後もナビから色々と話をきいてみるが、現状それ以外で特に変わったことはないようだ。

とにかく今は、早く大きくならないとな。

女性の腕の中、心地よい揺れに身を任せ、俺はまた深い眠りについた。

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