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倭国大乱 〜『観測者』は転生し、全ての歴史を見届ける〜  作者: 明石
第三章

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第百二十三話 辛勝

狗奴国の兵は、やはり精強だ。

不意を突いた一撃をまともに喰らっても、大きく崩れない。

だが、確実に押している。


騎馬隊の攻撃も防いでいるようだ。

東側に配置した盾兵たちが、上手く機能している。

だが、敵の攻撃が軽すぎはしないか。


卑弥弓呼がいて、こうも思い通りに事が運ぶのか。

騎馬殺しの陣。兵たちの練度には、絶対の自信がある。

それでも違和感は残る。

それがはっきりとした予感になったのは、もうしばらく経ってからだ。

予感だが、無視するべきではないと、私は判断した。


「前線を入れ替えつつ、攻撃を続けろ。私は東の隊に合流する」


副官にそう告げると、私は戦線を離れた。


遅い。天照軍の到着が。

まだ、誤差の範囲かもしれない。

それでも、確信に変わってからでは手遅れになる。


狗奴国の騎馬隊は攻撃を繰り返していた。

だが、気迫がない。

形だけ攻めかかる格好を見せている。

そんな印象を受ける。


卑弥弓呼がいて、そんなことがありえるのか。


防御隊に合流した。

観測者補正。

騎馬の速度に乗っていても、騎兵一人一人の顔を確認できる。


いない。卑弥弓呼がいない。

何処だ。


考えると同時に、私は一人で盾の外に飛び出した。


背後の盾兵が、慌てて私の周囲を固めようとする。


「卑弥弓呼出てこい。持衰がここにいるぞ」


いないと分かっている。

挑発だ。

何かが起こる前に、目の前の騎馬隊を少しでも減らしたい。

私の首を餌にしてでも。


騎馬隊に闘気が宿った。

本気で、突撃してきている。


ぽつんと前に出た私と、僅かな兵が、騎馬の激流にぶつかる。

兵は盾で抑えつつも、盾ごと踏み倒される。

後ろで支える者がいなければ、馬の衝撃に耐えられない。


私はぶつかる直前に、一歩下がっていた。

衝撃は兵が肩代わりしてくれた。

踏みつけられている兵が絶息する前に、馬の脚を斬った。

悲鳴を上げ、馬が横倒しになる。


下敷きになりかけた兵を引き摺った。

落ちてきた敵兵は、刺し殺した。

もう一頭の馬の喉も貫いた。

今度は兵が落下する前に、首を斬った。


騎馬が反転する。


「伏せろ」


後方から、矢の雨が飛ぶ。

勢いがあった分、反転が遅れている。

三騎倒した。

こちらの犠牲は無かったが、賭けのようなやり取りだった。


兵に引き戻され、盾隊の後方に追いやられた。


右前方に、集団の影を見た。

天照軍。遂に来た。

だが、六騎の騎馬が、彼らに纏わりついている。

無視して走り続けるが、少しずつ削られていっている。


「騎馬隊を分散さていたのか」


驚愕する間もなく、また正面の騎馬隊が迫ってくる。

先ほど同様、いや、それ以上の気迫がこもっている。


先頭の男。

卑弥弓呼だった。


別働隊にいたのか。


なぜだ。

私はこれまで、伏兵など一度も行わなかった。

山を砦として閉じ籠もり、危険を冒さずに戦ってきた。

私にはそれしかないと、二十年以上かけて擦り込んできたのだ。


なぜ読めた。

なぜ今回に限って、私がこんな策を講じると分かった。


卑弥弓呼が、真っ直ぐこちらに向かってくる。

盾兵。

構える。

蹄を受け止める。仲間が支える。

止めた。完全に。


引いたところを、弓で射抜く。

騎馬が後退していく。

今だ。


違う。残ってる。

一騎だけ。


「古い手だな。持衰」


卑弥弓呼が叫んだ。


右腰に提げた皮袋に手を入れた。

そう思った瞬間、飛礫つぶてが放たれた。


卑弥弓呼を抑えていた、盾兵の頭部が弾かれた。

私には視えた。

卑弥弓呼が兵に向かって投げた飛礫が。

だが、兵たちは何が起こったか分からなかっただろう。


倒れた兵を踏み越え、強引に陣に侵入してきた。

弧を描くように陣を駆け抜け、また味方と合流した。


卑弥弓呼、そうかお前は。

読んでいたんじゃない。

警戒し続けていたのか。この私を。


私が。持衰がこのまま何もせぬわけがないと。


信じ続けていたのか。二十年以上に渡って。


「私を、信頼しやがったな。タケル」


泣かせるじゃないか卑弥弓呼。

嬉しいよ。殺したい程にな。


「鉦を鳴らせ。全力で押すぞ」


各隊には、鉦を持った兵が一人いる。

私が何処に行こうと、いつでも合図を送れるようになっている。


余力を残しながら戦うのは止めだ。

力の限り攻め込む。


「防御隊、騎馬隊に警戒しつつ前に進め」


本隊の前進に合わせて、我々も動く。

その間にも、卑弥弓呼の騎馬隊は攻撃を続ける。

卑弥弓呼がぶつかった所だけ、盾兵を厚くする。

陣への侵入は阻止しているが、薄皮を剥がすように、守りの殻は削られていく。


天照軍が、近づいてきている。

もう少しで、敵の側面に届く。

だが騎馬隊の攻撃で、確実に数を減らしている。


突如、天照軍が二つに分かれた。

騎馬隊も三騎ずつに分かれる。

しかし天照軍がまた二つずつ、四つの塊に分裂した。

騎馬の標的がブレる。


振り切った二つの塊が、遂に届いた。


都市牛利の指揮だろうか。

分かれるのが早すぎれば、各個撃破されていた。

秀逸な機の見計らい方だった。


抵抗が減る。

敵の歩兵部隊が崩れていく。

側面の天照軍とも合流した。


夥しい量の敵の血が、戦場に舞い続ける。


敵陣から鉦が鳴る。

撤退を始めた。

殿しんがりだけが残り、本隊が遠ざかっていく。

狗奴国の騎馬隊が殿を守る動きを取ったので、私も軍を下げ、守りの陣形を取った。


被害状況の報告が、私の元に届いた。

正確ではないが、防御隊は三十名、本隊からは百名ほどの被害。

天照軍の損耗が著しく、三百だったのが一七〇名にまで減っていた。そして、指揮官の都市牛利の生死は不明。

騎馬隊を引きつけるため、一人残ったとのことだった。


だが、狗奴国の被害はその比ではない。

二千の歩兵隊のうち、山での戦闘を合わせ、九百は討ち取っていた。

騎馬隊の総数も四十騎だったと言うことになるが、報告と合わせれば、二十七騎にまで数を減らしているはずだった。


戦闘継続は微妙なところだ。

数は逆転したが、まだあちらも戦えない程ではない。


向かい合う。

また山に伏そうかとも考えたが、その判断は打ち消した。

ここは、弱い部分を微塵も見せてはならない。

敵にも、味方にも。


やがて狗奴国軍は、兵を返していった。

卑弥弓呼の騎馬隊が、それを守るように、最後まで佇んでいた。


追撃は出来ない。

私たちは、狗奴国軍の背中を、見守り続けるしかなかった。


「何を黙っている。我々は勝ったのだ。鬨の声を上げろ」


私は剣を高々に、頭上へと掲げた。

方々から声が上がり、やがて大気を震わす大音声となった。


想定通りにはいかなかった。

だが、勝った。

勝ったのだ。

今は、それで満足するしかなかった。

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