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倭国大乱 〜『観測者』は転生し、全ての歴史を見届ける〜  作者: 明石
第ニ章

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第百十三話 迦夜

約束通り集落を訪れ、迦夜の屋敷へと向かった。

王族の住まいは、集落の奥にある。

そこは更に囲いで覆われ、民たちの住居とは隔てられている。


そこまでは分かる。

だがその中の何処に、迦夜がいるのかは知らなかった。

初めてなのだから当然だ。


門兵に話しかけ、迦夜の住居まで案内させた。

屋敷の前で訪いを告げると、中から侍女が出てきた。

彼女に招じ入れられ、中へと入った。


「遅かったな」


「時間通りだと思いますが」


日没の直前に訪うと告げた。

今は完全に日は沈んでいない。


「わたしが遅いと言ったら遅いんだ」


「そうですか」


中を見渡す。いつの間にか侍女の姿は消えていて、迦夜と二人きりになっていた。


石を磨いた小物や、土を焼いて作った調度品などがある。

北は青銅の装身具などが豊富で、絹で編んだ衣も少なくは無かった。

だが狗奴国にはそんな物はかなり希少で、迦夜の住まいも小ぢんまりとしていた。

民たちと比べれば、幾分豪奢ではあるが。


「迦夜様」


「な、なんだ」


迦夜がびくりと身体を震わす。

最初に憎まれ口を叩いただけで、迦夜はずっと黙っていた。


「これから貴女を抱く前に、言っておきたいことがある」


「だ、抱く。抱くってお前、そんなあからさまな」


迦夜が慌てふためく。

何を今更。

男をここへ呼ぶという事は、最初からそういう意味だろう。

いくら餓鬼でもそれくらいは分かっているはずだ。


「今夜のことで、王への面目は立つはずです。今後も時間があれば、貴女の元へ通いましょう。ですから、今までのように頻繁に使者を遣わせたり、直接我らの元を訪れて、調練の邪魔をするのはお止め頂きたい」


「な、何だと」


「どうせお互い、無理矢理結ばされた政略結婚だ。形だけ取り繕えば十分でしょう。もし男が欲しくなったら、適当な者に相手をさせれば宜しい。夜に来させれば、俺かどうかなど判らない。何なら、兵の中から適当に……」


「ふざけるな貴様っ」


迦夜が手元にあった盃を乱暴に投げつけた。

タケルはそれを軽く躱した。

背後の壁にぶつかり、乾いた音を立てて砕け散る。


「何なんだその言い草は。邪馬壹国でどんな地位だったか知らないが、今やお前は、この国の臣下でしかないんだ。勘違いするな。お前如きが、わたしを軽く扱っていいわけがないんだ。お前が、お前が一番優先しなければならないのはわたしだ。わたしが来いと言えば、戦の最中だろうが、お前は犬のように尻尾を振って、ここまで走って駆けつけてこい」


「確かに、俺は狗奴国王の臣下だ。だが、迦夜様が主君なわけではない。たまたま貴女がその娘だから、礼を取っているに過ぎない。そしてお父上が貴女を俺に与えたのは、俺の戦の腕を買われたからです。ならば俺が成すべきは戦うことだ。貴女の我儘に付き合うことではない」


「お前っ」


迦夜が傍らにあった小剣で斬りつけてきた。

本気の殺意が、そこに宿っていた。


タケルは迦夜の手を取り、それを防いだ。


「だったらタケル。お前の大事な主君である父上に、お前のことを話そう。お前の言う通りこの婚姻は、父上の意思によるものだ。なら、わたしを大切にしないお前は、父上の意に反するということだ」


ぎりぎりと、小剣を握る迦夜の手に、力が込められていく。


「お前が父上にどう見られるか、それはわたし次第だということを忘れるな。今夜のことは父上にお伝えする。やはりお前は父上に従順ではないと。お前から兵を取り上げ、後方に移して頂く。そうすれば、お前は大好きな戦も――」


言い切る前に、迦夜が弾かれたように飛んだ。

床に倒れ込み、それからすぐに頬を押さえながらタケルを睨みつけた。


右頬が赤くなっている。

タケルが拳の裏で、頬を打ったのだ。


「いい加減にしろ、迦夜」


「迦夜。迦夜だと?お前、わたしを呼び捨てにしたのか」


怒りと驚きで、迦夜が顔を歪ませた。


「勘違いしているのはお前だ、迦夜。お前は王が俺に下賜された女だ。お前はもう俺の物なんだよ」


「ふざけるな。何でわたしがお前なんかの……」


言葉の途中でタケルは素早く迦夜の手から小剣を取り上げ、上に覆い被さった。

抵抗しようとするが、両手を押さえつけて動きを封じる。

迦夜が抵抗して身をよじるが、それ以上の力を込めて阻止した。

タケルが力を入れる度に、迦夜が苦痛で顔を顰める。


それでも怯んだり、慄くことなく、必死の形相でタケルを睨み続けている。

決して、泣き叫ぶような真似はしない。


その点においてのみ、タケルは初めて、迦夜に好感に似た感情を抱いた。


「お前も分かっているんだろう。正妻の子でもないお前のことなんて、狗奴国王は大して気にかけちゃいない。父に愛されてなんていないってな」


触れられたくない部分だったのだろう。

迦夜の瞳が激しく揺れた。


「お前はていの良いくさびだ。単なる道具なんだよ。王や他の兄弟にとってはな」


「黙れ、黙れ黙れ」


迦夜の瞳に、みるみる涙が溜まっていく。

だが、唇を懸命に引き結び、それを溢れさせないようにしている。


そして、

迦夜の衣に手をかけ、

一息に剥ぎ取った。


麻布は無残に裂かれ、その間から、迦夜の肢体が露わとなった。


十七歳の若さに相応しい、瑞々しく、張りのある肌だ。

そして、武術の嗜みがあるだけに、無駄のない引き締まった身体つきだった。


だが、それだけだ。


華奢な身体は見ようによっては貧相で、色気のようなものは感じなかった。

月明かりに照らされた、日御子の姿が脳裏をよぎる。

あの妖しさ、艶かしさ。


思わず吸い込まれそうな、溶け合いたいという衝動に激しく駆られる、あの時の日御子の姿とは、比ぶべくもない。


タケルの男は激しく反応しているが、心は至って平静だった。


迦夜の方も、羞恥心からか顔を赤く染めているが、裸体を見られても取り乱すことは無かった。

それよりも先刻のタケルの言葉の方が、深く胸を抉っていた。


獰猛な獣のように、タケルを真っ直ぐに見据えている。

タケルは静かに、その目を受け止めた。


そのまま迦夜に顔を寄せ、小さな顎を掴み、唇を吸った。


タケルが、迦夜の口の中をまさぐる。

そして突如、鋭い痛みがタケルを襲った。


口中に、鉄の味が広がる。

吐き出すと、赤い汚れが床についた。


「生娘だとは分かっていたが……侍女か誰かに、ねやの作法も教えられなかったようだな」


「ふん、わざとだ。バーカ」


同じく口許に血を滲ませながら、迦夜は不敵に笑った。


「少しだけ気に入ったよ。お前のこと」


タケルのその言葉の直後、初めて味わう衝撃が、迦夜を襲った。



その後も十日十晩、タケルは迦夜に通った。

迦夜に溺れたわけではない。


中途半端なことをすれば、迦夜が何を仕出かすか判らない。

彼女との関係性を、完全にタケルが優位なものに変えたかった。

その為だった。


初めの数日は、迦夜は痛みに呻いていた。

それでも何故か、タケルを拒むことは無かった。


五日目には、甘い吐息を漏らすようになり、最後には、悦楽に哭くようになった。


それを認めて、タケルは迦夜の元に通うのを、一時止めた。


迦夜のタケルに対する態度は、完全に変わっていた。



――などという事は一切無かった。

少なくとも、タケルが意図した変化ではない。


「来てやったぞ。タケル」


タケルはため息をついた。


「見て分からないか?調練中だ……」


「分かってる。いつもみたいに横で見てるだけだ。それなら文句ないだろ」


「勝手にしろ」


迦夜はタケルの隣に立ち、黙って眺め続けた。


あれからも、迦夜の勝気な態度は一切改まらなかった。

そして相変わらず、いや寧ろ今まで以上にタケルの元に足繁くやって来る。


だが、今までのように駄々を捏ねてタケルたちの邪魔をすることはなくなった。

今のようにタケルの手が空くまで傍にいるか、いつの間にか建てさせた自分の屋敷で時間を潰す。


迦夜と婚姻してから、タケルは私民や奴隷を抱えることを許された。

その中には当然女もいて、兵たちの妻になった者もいる。


迦夜は屋敷で、そんな女たちにあれこれと世話を焼かせたりもする。

調練の邪魔にならないので、タケルはそれを黙認していた。


寧ろ女たちの方が、あれこれと迦夜を構いたがるのだ。迦夜の我儘を聞くのが楽しくて仕方がないという様子だった。

稀に迦夜がやって来ない日などは、明らかに物寂しそうにしている。


兵たちも迦夜が見ている時の方が、気合いが入っているような気がした。


タケルには全く分からないが、迦夜には迦夜で、人を惹きつける何かがあるのかも知れない。


タケルは手を上げ、終わりの合図を送った。

今日はこれで切り上げだった。


兵たちが整列し、タケルと迦夜の前に並ぶ。


「迦夜様、お疲れ様です」

「迦夜様、良くぞお越し下さいました」

「迦夜様、今日の調練の出来は如何でしたか」


口々に、迦夜に声をかける。


「おい、ちょっと待てお前ら。何で先に迦夜に挨拶するんだ」


「お前たち、最後は動きが悪かったぞ。弛んでるんじゃないのか?今から集落一周してこい」


「いや、お前も待て。今日はもう終い……」


「わかりました、迦夜様」


止める間もなく、兵たちが駆け去っていった。


「タケル、兵を甘やかし過ぎじゃないか?わたしの方が、将に向いているかもな」


腰に手を当て、迦夜が得意そうにふんぞり返った。


俺は、この女を軽く見過ぎていたのかも知れない。


何となく、タケルは迦夜に負けたような気がした。


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