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倭国大乱 〜『観測者』は転生し、全ての歴史を見届ける〜  作者: 明石
第ニ章

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第百十一話 贈り物

破竹というべき勢いだった。

タケルは騎馬隊を駆使して小部落を一気に併呑。

捕らえた奴隷たちを兵に仕立てた。

そして、規模を増した軍勢により、中小国も瞬く間に狗奴国くなこくの支配下へと組み込んでいった。


タケルの戦は容赦が無かった。

抵抗を示した国は略奪の限りを尽くし、男は殺して女は奪い去った。

だが、素直に帰順した国に手荒な真似はしなかったため、戦になる前に降伏する国も増えていった。


夏になる頃には、筑紫島つくしのしま南東部は、その多くが狗奴国の領土となっていた。


「狗奴国王からの召集だと?」


「はい、直ちに王の集落へお越しになるようにと」


奴隷たちで混成された部隊の調練を行っていた。

殆どの者が、率先して調練に励んでいる。

手柄を立てれば自由民として解放する。

そう約束した。

自由になりたければ、強くなるしかない。


その単純な理屈が、彼らの士気を高めていた。


「なんの用だ?」


忌々しげに口を開いた。

時が惜しい。

日々強大になっていく狗奴国を、隣国にあたる投馬国つまこくがいつまでも放って置くわけがない。


タケルの騎馬隊の精強さは、南の国々には知れ渡っている。

それを警戒して無闇に手出しはしてこないが、それもいつまで続くか分からない。


だがタケルの焦る一番の理由は、一日でも早く日御子と再会したいという想いから来ている。

今のタケルの全ては、そこに繋がっている。


「周辺諸国のことごとくを支配せし将軍の功に報いるためと、聞き及んでおります」


「いい迷惑だな……」


ようやく迦夜かやの束縛から解放されたと思ったらこれだ。

現在タケルとその部下たちは、はじめに占領した集落を、自分たちの住処にした。

王に許しは得ている。その代わり他の手に入れた領地は、歯向かった所は略奪こそ行ったものの、後は手をつけずに狗奴国に献上し、褒賞を求めることは無かった。


場所が離れた分、さすがの迦夜の足も遠のいていたが、今度は王からの呼び出しに悩まされた。

新参でありながら、狗奴国内で確たる地位を築きつつあるタケルを、有益であると認めつつも、危険視もしている。そう言ったところだろう。

常に監視していないと落ち着かないらしい。


そして王の集落を訪れれば、そこには迦夜もいる。

タケルの姿を認めては、また憎まれ口を叩いてくるのだ。

そのことも、タケルを辟易させた。


「よう来たな、タケル」


わざとらしく、王が歓待の意を表した。


「此度は、如何なご用向きでしょうか」


頭を下げながら、タケルは単刀直入に問うた。

少しだけ王は鼻白んだが、いつものことだ。

すぐに気を取り直して本題に入る。


「うむ、そうだの。……入って参れ」


王が声をかけると、タケルの背後の出入口から、迦夜が姿を現した。


「迦夜様…?」


迦夜はタケルに一瞥だけくれ、仏頂面で王の前に座った。


「のう、タケルよ。迦夜と随分親しいようではないか」


「いえ、全く」


「はあ?アンタね」


何やら隣で、迦夜が不服を申し立てようとしたようだが、「まあまあ」と王がなだめた。


「タケル、迦夜をどう思う?」


「どう、と言われましても……」


口が悪くてやかましく、大した国でもないくせに、王族の誇りと見栄だけが肥大した、愚かな女としか思っていないが。


それを言えばまた騒がしくなりそうなので、タケルはぐっと言葉を呑み込んだ。


「特に何も」


「お前はさっきから……」


ぎりぎりと歯を食いしばり、迦夜がタケルを睨めつける。

何を怒っているのか理解できなかった。

父親の前で貶されなかっただけ、感謝してほしいくらいだ。


「やはり仲の良いことだな」


目が腐っているのだろうかこの男は。


「タケルよ、迦夜を妻に迎えろ」


「は…?」


流石にタケルも虚を突かれた。

迦夜の方に目を向けると、頬を紅くして俯いている。

反応を見るに、この話は事前に聞かされていたようだった。


となると、疑問が一つ浮かぶ。


「迦夜様は、それで宜しいので?」


「でなければ、このような話しは持って来ぬ」


「勘違いするな。別にわたしは、お前なんかと夫婦になりたいわけじゃない」


その声は僅かに上ずっていた。

それを隠すように、腕を組んでふんぞり返っている。


「……でも、わたしは狗奴国の王女だ。父上の、王の命とあっては断るわけにはいかない。ただそれだけなんだから」


その言葉を聞いて、王が満足そうに頷いた。


タケルは誰にも悟られぬよう小さく息を吐いた。


「話しは理解できました……」


「おお、そうか」


「慎んで、お断り申し上げます」


「なに?」


空気が凍りついた。


「……はあ?」


王が何か声を出すより早く、迦夜が立ち上がった。


「断る? このわたしを?」


その一言には、怒りと困惑と、言いようのない屈辱が滲んでいた。


「はい」


タケルは淡々と答える。


「今はいつ大戦おおいくさになるやも知れぬ状況です。雑事にかかずらわっている場合ではありません」


迦夜の顔が、かっと赤くなる。


「ふざけないで。誰が雑事よ。誰が」


拳を握り締め、声を震わせる。


「分かってる?これは王命よ。あんたが選べる立場だと思ってるの?わたしが狗奴国の為に、お前の妻になってやろうって言ってるのよ。お前ももう少し、国のことを考えなさい」


「だからこそです。真に国を思うのであれば、俺が何よりも重視すべきは、戦に勝つこと。そして、そのための力を蓄えることです」


タケルは堂々と言い放った。


「……この、戦狂いが」


迦夜は唇をひくつかせている。


迦夜が憎々しげにタケルを睨めつけるが、タケルは動じる様子もなく、その視線を受け止めている。

険悪な空気が、屋敷内を包んでいく。


「まあ、待て待て。迦夜、一度座るのだ」


盛大に鼻を鳴らして、迦夜が腰を降ろした。


「タケルよ、お主の言も尤もだ。だがな、戦に集中したいと言うのなら、尚のこと迦夜との婚姻は成したほうがいい」


「どういう事でしょう?」


「お主らの働きには文句の付けようもない。だからこそ、その力を危ぶむ者が少なからずおるのだ」


それはお前だろうと、タケルは心の内で呟いた。


「そこで迦夜との縁組みだ。迦夜と夫婦めおとになれば、お主は王族に列することになる。そうすれば、お主の二心を疑う者は、おらぬようになるだろう」


人の心はそう単純なのだろうか。

迦夜と形だけの婚姻をしたところで、タケルへの見方が変わるとは思えなかった。


「だが、逆にこの話しを断るようであれば……」


そこで、王の目が光った。

態度の裏に、刃を隠しているような。そんな目だ。

都萬彦つまひこも、よくこんな目をしていた。


「お主への疑念は高まることになるだろう。前線から遠ざけ、後方に追いやられることになりかねん。無論儂は止めるが、王とは言え、周りの反発を全て抑え込むことは難しい」


白々しい。

王はタケルを測っている。

自分の命に、タケルが素直に従うかどうかを。


タケルは考える。

どうするべきか。


いっそ国を出るか。

いや、狗奴国は大きくなりすぎてしまった。

一から中小国を盛り立てようとしても、皮肉なことにこの狗奴国が最も弊害となるだろう。


ならば、反旗を翻すか。


「……まだその時ではないか」


タケルは肚を決めた。


「わかりました。そうまで仰って頂けるなら、迦夜様との婚姻の儀、喜んでお受け致します」


「受けてくれるか」


「なに?結局ビビったってこと?ダッサ」


小馬鹿にするような言い方だが、顔の綻びを隠しきれていない。


「確かに、初めはそうだったかも知れません。俺如きが迦夜様を妻に迎える。余りにも畏れ多く、戦を理由に固辞してしまいました」


「え…?」


迦夜の表情が固まる。


「俺のような余所者を、迦夜様は日頃から目にかけて下さいました。憎からず思うのは当然ですが、突然のことに動転し、このような態度を取ってしまいました。お許しください……」


「何言い出すの突然……。まあ、そういうことなら仕方ない、許して上げる……」


今度は頬を染めている。

タケルが受け入れてくれたことが嬉しいのだが、そんな気持ちを彼が理解できるわけが無かった。

自尊心が保たれ、満足しているのだとしか思わなかった。


そして、立場を保つため、心にも無いことを並べ立てる自分に、タケルは虫酸が走った。


「では、婚姻の儀を近々執り行わなければな」


狗奴国王は機嫌が良さそうだった。


これでタケルを手懐けることが出来る。そう思っているのか。

少なくとも、迦夜と言う監視の目を、タケルの傍に置くことができた。

しかも使い道が無いと考え、持て余していた娘の、丁度いい受け入れ先が見つかったのだ。

王からすれば一石二鳥だろう。


「こいつも、憐れな女だ」


タケルは横目で、迦夜の顔を見つめた。


偶然目が合ってしまい、彼女は照れ臭そうに俯いた。

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