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倭国大乱 〜『観測者』は転生し、全ての歴史を見届ける〜  作者: 明石
第ニ章

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第百八話 残された者たち

気づいた時には、竪穴の家屋の中で横になっていた。


痛みに呻きながら上体を起こして傷を確認すると、綺麗に処置されていた。

タケルに斬られた傷は塞がってはいなかったが、完全に血は止まり、薬草で消毒された痕が見られた。


「持衰様、お気づきになられたのですね」


傍には巫女がいて、驚いた様子で声を上げた。

俺が寝ている間、ずっと見ていてくれたようだった。


「ここは……」


「巫女たちの住居です。すぐに、女王をお呼びいたします」


そう言って、慌てて飛び出していった。

程なくして、日御子と於登が中に入ってきた。

外には、他にも何人も人がいる気配がする。


日御子、良かった。

まだ、ここにいてくれた。


「女王、お怪我はございませんか……?」


「わたしは、大丈夫……」


「そうですか……。ご無事で何よりです……」


俺は思わず、安堵のため息を漏らした。

あの時のタケルの様子であれば、日御子を無理矢理連れ去るくらいのことがあっても、不思議ではなかった。


「申し訳ございません。大率を、止めることができませんでした……。女王の御身おんみを、危険に晒してしまいました。処分は、如何様にも受ける所存です」


筵の上でなんとか居住まいを正し、日御子の前で平伏した。

身体を動かすと、斬られた傷の部分に激痛が走った。


「大率タケルに加え、あなたまで失えば、この国の損失は、計り知れません……」


「ですが……」


巫女長みこのおさ以外は、外して下さい……」


日御子の言葉に従い、家の周りを取り囲んでいた巫女たちが去っていく気配がした。

なんだか同じようなことが、前にもあったような気がする。


「サイ……。タケルを止められなかったのは、わたしも同じ。あなたが責任を感じる必要はない……」


於登以外の者が居なくなったことで、日御子の口調が普段に戻った。


「日御子……」


「私は許さないけどね。日御子様を危険な目に遭わせるなんてさ。マジであり得ない」


「於登、サイは……」


「相手は狗邪韓国を救った英雄のタケルくんだよ?屋敷の奥に引っ込んで、あれこれ指図するだけの持衰くんが、勝てるわけないじゃない。格好つけて一人で何とかしようとしちゃってさ。浅はかにも程があるよ」


於登が眉を吊り上げて俺をなじる。

返す言葉もない。

彼女の批判は、甘んじて受け入れるしかない。

俺は傷の痛みに耐えながら、正座で於登の話しを聞いていた。


「於登、ありがとう……。でも、それくらいにしてあげて……」


日御子が少し笑いながら、於登をたしなめた。

於登の言葉に、完全な悪意は感じられなかったのだろう。


「サイは、誰にも傷ついて欲しくなかった。タケルに、仲間を傷つけさせたくなかった。わたしは、サイがぜんぶ間違っていたとは、思わない……」


「まあ、日御子様がそう仰るのなら、私はこれ以上何も言いませんけど」


フンと鼻を鳴らして、於登は引き下がった。


「サイ、今は傷を癒すことだけに、専念して……」


「……わかった」



傷の手当ては、日御子自身が行ってくれたのだろう。

的確な処置のお陰で、俺は3日ほどで、立って歩くぐらいは出来るようになった。


そして、今回の件の後処理に奔走した。

不幸中の幸いは、タケルの出奔がまだ多くの者には伝わっていないことだ。

大率だいそつという、国の最高官が消えたことを、いつまでも隠し通せるものでは無いが、時系列は改竄した。


秋の収穫祭は予定通り行い、タケルの出奔はその後に起こったものとした。

持衰を斬り、日御子の神殿にまで押し入ったことも隠した。

日御子が危害を加えられなかったとはいえ、女王に直接危険が及んだという事実は、人々に与えるショックが大き過ぎる。

北部九州連合の根幹が揺らぎかねない。


そして、天照軍てんしょうぐんだ。

出ていった者はタケル以外では、全て朝鮮からやってきた新参者だった。

そのため、内外の衝撃は思ったほど大きくはなかった。


天照軍の兵たちは、敬愛するタケルが国を捨てたことに、当然動揺はしている。

だが、彼らを支えている根本にあるものは、女王に対しての信仰心だ。

その確立したアイデンティティのお陰で、自分たちの立場を揺るがすことはなかった。


天照軍の新たな長には、タケルの副官に当たる者を据えた。


更に大率の位には、諸国の中から別の者を任命した。

これにより女王の守護と交易管理は、それぞれ切り離されたものとなった。



事後処理はこのようになされ、大きな混乱もなく、連合国は日常を取り戻した。


だが、割り切れない思いを抱いているものは、少なからずいる。


「タケルと、最後に会ったんだってな。都市牛利としごり


「はい……」


タケルが神殿から去った翌日。近くの森の中で倒れている都市牛利を、巫女の一人が発見した。

動けるようになり、その報告を受けた俺は、自分の館に都市牛利を呼び寄せた。


「あいつを、止めようとしたのか」


「結果的にはそうなりました。けど、私は……。初めは将軍に、いえ、タケルについて行こうとしました」


「そうか」


何とか顔を上げているが、都市牛利は俺と目を合わせることは出来ないようだった。

言わなければわからない事なのに、都市牛利は真相を打ち明けた。

俺はこの少年のことをよくは知らないが、あの馬鹿正直なタケルが傍に置いていた理由が、何となくわかった気がした。


「タケルは、何て言っていた」


「私のような子供は足手まといだと。お前を傍に置いていたのは、利用価値があったからで、今はそんなものはないと」


「そうか」


「持衰様。私は女王の元を離れようとした裏切り者です。私に罰をお与え下さい」


「俺にお前を罰する資格はないよ。それに、お前は女王を裏切ったんじゃない。ただ、タケルの傍にいたかった。それだけだ」


都市牛利は強く拳を握り締めている。

俺の言葉だけでは、自分を許す気にはなれないようだった。


「あの人に挑んで、私はあっさり敗れました。いや、あれは勝負にさえなっていなかった。タケルは、私を殺しませんでした……。それが、私は悔しい。でも……」


情けをかけられたことに、都市牛利のプライドは傷つけられたのだろう。

一人前の男として、タケルに扱ってもらいたかったのかもしれない。


俺は黙って、都市牛利の言葉に耳を傾けた。


「でも、あの人に組み敷かれたとき、私は恐かった。あの人が恐くて、死ぬのが恐くて堪らなかった。殺すことも、死ぬことも覚悟して、将軍の前に立ったはずなのに……。それを、将軍も見抜いていた。俺は本当は、甘えていただけだったんだ。あの優しかった将軍なら、最後には俺の言うことを聞き入れてくれると。だからあの人は俺を殺さなかった。殺す価値もないと、考えたんだ」


恥じることはない。

誰だって死ぬのは恐い。

誰だって、今のタケルと戦ったら、恐怖で身が竦む。

13歳の少年が、1人でタケルを止めるために戦った。アイツの前で剣を抜いた。

それだけで驚嘆に値することだ。


けど、それを都市牛利に言ったところで、何の慰めにもならないだろう。


「持衰様、ですからどうか、私をお裁き下さい。でなければ私は、あまりにも惨めだ……」


少年は涙を流し、肩を丸めた。


「都市牛利、裁かれて楽になろうとするな。お前如きの罪悪感を解消する為に、わざわざ付き合うつもりはない」


だから俺は、敢えて突き放す言葉を口にした。

今の都市牛利に必要なのは、優しさよりも厳しさだ。


「今日お前を呼んだのは、タケルの最後の姿を聞くためだ。そして、お前に仕事を与えるためでもあった」


「仕事、ですか…」


「そうだ。新たな大率だいそつは今の仕事に不慣れだ。お前はその副官として、これまで通り交易管理の手助けをしろ。お前の経験と、船の知識は貴重だからな」


都市牛利は、ぽかんと口を開けたまま黙っている。


「聴こえていないのか」


「いえ、失礼しました。畏まりました、持衰様」


都市牛利は慌てて頭を下げた。


「天照軍の任からは一旦外すが、鍛錬は欠かすな。ゆくゆくはお前が天照軍を率いるんだ」


「私が、ですか」


「タケルの穴を埋めろ。あいつ以上に、この国を支えられるおとこになれ。それが今のお前がやるべきことだ。ウジウジ下らないことを考えることじゃない。いいな?分かったか?分かったらとっとと出てって、剣でも振ってろ」


「は、はい。持衰様」


一度拝礼して、都市牛利はバタバタと外に出ていった。


「成長したじゃん」


「うるさい」


ナビが現れ、ニヤつきながら俺の顔を眺めてくる。


「ナビ。タケルが日御子に、最後に伝えたって言葉。それは本当に起こるんだろうな」


「いずれここへ帰ってきて、この国を滅ぼす。日御子ちゃんを、手に入れる為に。ってやつ?」


「ああ」


「確証はない。この時代は、本当に未知数な部分が多いから。でも、あのタケルならきっと……」


「そうだよな。俺もそう思う」


都市牛利は、自分の甘い考えを責めていた。

それを俺は諫めた。

一番甘かったのは、俺なのだから。


タケルへの情を、最後まで捨てきれなかった。

もしかしたら、踏み止まってくれるかも知れないと、期待していた。


こんなことは、もう最後だ。



次にアイツに会う時、俺は一切の甘さを捨てる。

俺の招いた結果に対しての、責任を果たす。


その覚悟を、深く心に刻んだ。


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