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倭国大乱 〜『観測者』は転生し、全ての歴史を見届ける〜  作者: 明石
第ニ章

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第百七話 売り込み

途中で一度夜営を挟み、タケルは目星をつけていた場所に辿り着いた。

一時は邪馬壹国の領域でもあった、油津の近辺である。


徒歩なら三日はかかるところだが、馬であればこれだけの日数で来ることができる。


「一旦、腰を落ち着ける」


そう兵たちに伝え、馬を降りた。


野営の準備に入る前に、まずは馬の手入れを行う。


汗を拭き取り、馬銜はみを外す。

水を飲ませて草を与えてから、風を避けられる場所に馬を繋いだ。


兵たちもタケルに倣い、同じように手入れをしていた。


野営地は簡素なものだった。

長く留まるわけでもない。


火を起こす場所だけをいくつか作り、兵は五人ずつに分かれて固まった。


タケルだけが、一人離れた場所にいる。


食糧は獣を狩ったり、川魚を獲ってそれに充てた。


連合国にいれば、こんなことをしなくても済んだ。

屋根のある家で寝起きし、蓄えからその日その日の食い物を用意できる。


だが、兵は誰一人として、不満を口にする者も、そんな態度を見せる者もいなかった。


「始まりました、将軍」


「早かったな」


油津に到着してから、タケルは交代で物見を放っていた。

その人間から、報告が入った。四日が経ってからのことだった。


タケルは野営地を払い、兵全員に騎乗を命じた。


油津からいくつか山を越えてすぐ、更に平地が見えてくる。

その場所で中規模な集落同士での戦が始まっていた。


筑紫島つくしのしまの南部は投馬国つまこくの勢力が大部分を占めている。

南東部の残された範囲に、中小国がひしめき合っているという状態だった。


だが、彼らは互いに手を取り合い、大国に抗しよういう考えはない。

投馬国の触手が伸びていない土地を巡って、頻繁に争い合っている。

南の民族は、昔から好戦的な傾向がある。


馬から降り、タケルは戦の趨勢を見守る。


五十人ほどの集団同士の戦だった。

それは軍というより、まさに群れと言うべきものであった。

陣形も戦略もなく、ただ真正面からぶつかり合う、原初的な戦いがそこにあった。


「稚拙だな。だが、戦はこうあるべきだ」


人の争いは、長い歴史の中で進化してきた。

それを否定するつもりはない。

しかし、タケルが最も好む戦いは、単純な力と力の比べ合いだった。


「決したな」


戦いの均衡が崩れ始めた。

このままいけばどちらが勝つのか。タケルからすれば、それは明白だった。


タケルは馬に跨り直した。

兵もそれに続こうとする。


「俺一人でいい。合図を出すまで待機していろ」


馬腹を蹴り、単騎で駆け出した。

勝っている方の集団に向けて、真っ直ぐ馬を走らせる。

その中の一人、明らかに頭と見られる男に、タケルは狙いを定めていた。


何人かの者たちがこちらに気づき始める。

だが、動揺が波及する前に、タケルは群れの中に突っ込んでいた。


蹄にかかった者たちの、何人かの悲鳴が上がる。

そして間もなく、タケルが何事も無かったように、一団の反対側から飛び出してくる。


馬を止め、その場に留まる。

その手には、何かがぶら下がっていた。


優勢だったはずの集団が、喚き声を上げながら、散を乱して駆け去っていった。


窮地を救われた者たちは、突然現れたタケルを、どう判別するべきか決めあぐねている。


警戒しながら、少しずつにじり寄る。


その足下に、突然何かの塊が飛んできた。

わずかに跳ね、地に転がる。

タケルが手に持っていたものを放り投げたのだ。


それは戦っていた敵の、かしらと思しき男の首だった。


タケルに近付いてきていた者たちは、おどろいて咄嗟に身を引く。


「あんたらの首長に会わせてくれ」


タケルは馬から降り、声をかけた。

男たちは顔を見合わせ、ざわつき始める。

そのうち一人の男が、一歩前に出てきた。


「あんたは何者だ。その獣は何だ」


恐る恐るといった様子で、言葉を発する。

倭国には馬はいない。

話に聞いたことがあっても、実際に見るのは初めてなのだろう。


「俺は北から来た。こいつは馬と呼ばれる獣だ」


「馬だと……。これが」


「俺が敵ではないことは、証明できたはずだ。俺はあんたらの首長に用がある。会わせてくれ」


男が、地に転がった敵の首級を見下ろす。


「なぜ、我らの王に会おうとするのだ」


「俺の力を、必要とする者を探している」


「それは何故だ」


「くどいな。それはあんたらの首長に伝えるべき事だ。同じことを何度も説明する趣味はない」


タケルの纏う空気が変わった。

微かな苛立ちと殺意が、男たちに放たれた。


「わ、わかった。案内する。だが、首長というのはやめてくれ。我らが住まう地は国なのだ」


「ああ、いいだろう」


内心は鼻で笑った。

倭国内の中小国など、漢の国からすれば行政単位の下から二番目、“県”ぐらいの規模かそれ以下だ。

漢の小役人ほどの力もないくせに。

そんな者が王を名乗るなど、なんとも滑稽な話しだった。


タケルは指笛を鳴らした。

山中に潜んでいた騎馬たちが、駆け下りてきた。


男達がまた動揺する。


「心配するな。ただついてこさせるだけだ。危害は加えない。あんたらの国に入るのも俺一人だ」


男たちはなんとか落ち着き、タケルの先導をはじめた。


「そういえば、あんたらの国は何て名前なんだ?」

「……狗奴国くなこくだ」



山の台地に築かれ、木柵と環濠に守られた、典型的な高地性集落。

それが狗奴国の中心地だった。


他にもいくつか集落を持っているようだが、投馬国つまこく筑紫島つくしのしま北部連合の主要国と比べれば、小さな国であることには変わらない。


その狗奴国と、タケルは九年前に戦った。

あの時タケルは、自身を見失っていた時期だった。

そのため狗奴国を必要以上に叩いてしまい、邪馬壹国に不利益を被らせてしまった。

その尻拭いをしたのは持衰だった。


何故そうなってしまったのか。

その原因もまた日御子だった。


だが、あの時とは違う。

タケルはもう、自分の感情が理解できず、戸惑い、振り回されてしまう若者ではない。


自分が何を求め、その為に何を成すべきか。

今ははっきりと見えているのだ。


王の館の前で、見張りの者に剣を預け、タケルは一人で中に招じ入れられた。

部下たちは集落の外に待機させてある。


「危うきところを救われたそうだな。王として、礼を言おう」


それが狗奴国王だった。

南の人間の王らしく、武人気質な雰囲気を漂わせている。

だが、高座たかくらの上から発せられる王としての威圧感は、そう見せようとする虚勢のようなものも感じられた。


「目論見あってのことです。礼には及びません」


タケルの口調は丁寧だが、拝礼もせず、態度は不遜だった。

王はわずかに眉根を寄せるが、特に咎めはしなかった。


「目論見とは?自身の力を必要とする国を探しておると聞いたが」


「その通りです。俺は、俺の力を存分に振るえる国を探しています」


「それは何故だ」


「倭国を創り変えるためです。そのためには、小さな国から始めるのがいい」


「小さいか、狗奴国が」


王の目が据わる。今度は不快感を隠そうとはしなかった。


「はい。だが俺の力があれば、どの国よりも強くなれる」


「随分と傲慢だな。一体お前は何者なんだ」


「女王日御子が治める北部連合国。その大率だいそつという位だった者。名をタケルと申します」


王が唸った。


「まさかとは思ったが、やはり日御子とか言う女王の国の者か。あそことは以前、戦ったことがある。信じられない強さだった。形の上では、向こうが頭を下げたという格好だったがな。本気でこちらを潰す気になれば、どうなっていたか分からん」


その戦った軍の中に、タケルもいたと言えばどう反応するだろうか。

少しだけ、タケルの中に好奇心が芽生えた。

無論、それを口に出すつもりはないが。


「なぜ、強国を捨てた。しかも、それなりの身分でありながらだ」


「女が上に立つ国を、男が許せると思いますか?」


「確かにな。女に国を預けるなど、我らからしても考えられぬことだ」


王が破顔した。

天を仰いで笑い声を上げる。


「だがな、大率殿よ。お主の話しをどこまで信用できる?素直に、お主らを受け入れられると思うか?」


「無論、信じてもらおうなどとは思っていません。だからこそ、力を示したのです。俺の力は、疑いようの無いもののはずだ」


タケルは、一切の焦りも見せず、淡々と言い放った。


「この力を手放すと言うのなら、お好きになされるが良い」


「ほう、随分と潔が良いな。お主たちは今は流浪の身。受け入れてくれる土地が、是が非でも必要なのではないか?」


意地の悪そうな目を、タケルに向けた。

タケルの力は欲しい。

だが、優位に立った上でだ。

タケルの方から頭を下げさせたい。

そんな所だろうと、タケルは考えた。


「南の国々は争いが絶えない。力を必要とする者たちは、吐いて捨てるほどいる。狗奴国が我らを受け入れぬのなら、別の国を探すまで。ですが……」


わざとらしく、タケルは言葉を切った。


「だが、なんだ?」


狗奴国王が、後を促す。


「ですがその場合、俺が次に首を刎ねる相手は、あなた達になるかもしれない。それだけの話です」


狗奴国王が忌々しげに、拳を強く握りしめた。

勝負あったと、タケルは確信した。

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