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最終話 情報の奴隷

 修学旅行は滞りなく終了した。最初は、どこか遠慮しているような雰囲気の亜美(あみ)だったが、花音(かのん)にメイクを施してあげたり、アニメのことを教わったりしながら、交流を深めた様子だ。


 そして、最終日前日の深夜。宿泊先の旅館の片隅で(さとし)は見てしまった。花音の胸にすがり付いて泣いている亜美を。花音は亜美を優しく抱き締めながら、ずっと頭を撫でていた。聡には何があったのか分からない。亜美も悩みや苦しみを心に抱え込んでいたのかもしれない。それに気付いてやれなかった自分の不甲斐なさに聡は悔しさを感じた。


 修学旅行の後、花音と亜美は仲良くやっているようだ。


 花音は随分オシャレになった。真面目で地味なイメージがあったが、最近はナチュラルメイクで彼女の魅力がグッと引き上げられた。ただ、自分に自信がないのは相変わらずで、時折亜美が厳しくも愛のある指導をしている様子。


 亜美は一旦SNSから離れることにしたようで、アカウントを予告なくすべて削除。削除する時は震えていたが、削除後はおかしなプレッシャーやたくさんのフォロワーから解放されて、ノビノビと自由に高校生活を楽しんでいるようだ。


 聡は花音と亜美の三人で過ごすことが多くなった。ハーレムなどと揶揄する声も聞くが、根が真面目な聡にすれば気苦労も多い。花音にアプローチしていても「亜美さんをもっと見てあげて」と言われるし、亜美をかまっていると「花音をもっと大切にして」と言われるしで、どうしたものかと困っている状況だ。


 ただ、こんな中途半端な関係が三人にとって心地良いものであることは間違いない。友達以上で恋人未満。それぞれにお互いを信頼し、尊重して、心を磨き合う関係。SNSにはSNSの良さがあるように、こんな小さなコミュニティにも良さがある。これから大人になっていく中で、三人は嫌でも膨大な情報の海に投げ出されることになる。しかし、ここで結んだお互いへの絆は、きっと自分を見失わず、自分を維持するための(いかり)になるだろう。



 ――朝の通学路


「聡♪ おはよっ!」

「おぅ、亜美。おはようさん」

「聡くん、おはようございます」

「花音ちゃん、おはよう!」

「私と花音との態度が全然違うんだけど……」

「……聡くん」

「だぁー、もうそうやってオレを責めるなよ……」


 笑い合う三人。

 そんな三人を追い越していくクラスメイト。


「おぅ、竹田。おはよう」


 聡の言葉を無視して歩いていってしまうクラスメイト。


「なんだよ、アイツ……」

「聡、違うよ。よく見て」


 亜美の言葉にクラスメイトを目で追うと、下を向き、背中を丸めて歩いているのが分かる。手にはスマートフォンを持ち、画面を見つめ、時折タップしている。


「歩きスマホかよ。危ねえなぁ」

「さ、聡くん……」


 どこか怯えたような声を出した花音。

 何かあったのかと、その視線の先に目をやる聡。

 そこには大勢の通学中の高校生がいた。その全員がスマートフォンを見つめて歩いている。聡たちのように友だち同士で通学しているものさえ、会話もなくスマートフォンを見つめ、操作していた。


「私、あんなだったのかなぁ……」

「もう歩きスマホとか、そういう問題じゃないと……」


「情報の奴隷……か」


 聡のつぶやきに、ふたりの言葉もなくなった。

 不安そうな亜美と花音。

 ふたりと手をつないだ聡。

 亜美も、花音も、何も言わずに聡に微笑んだ。


 青空からの爽やかな朝の陽光が大勢の通学中の生徒たちに降り注いでいる。

 通学路には、三人の楽しげな声だけが響いていた。



挿絵(By みてみん)



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