66年目-2 次代を担う大器達
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
アラン・エルミード(27)
神谷美穂(36)
サウダーデ・風間(25)
日本は山形県にてアランとの再会を果たしたサウダーデではあったが、思わぬ随伴者の存在とその正体にいきなり面食らうこととなった。
ダンジョン聖教司祭、神谷美穂。聞けば第五次、第六次と二つのモンスターハザードにおいて前線を戦い抜いた歴戦の強者だという。
アランが弟子ともども今回のモンスターハザードに参戦していたのは知っていたが、彼らの仲間達については詳しく知らなかったため余計に驚かされたのだ。
動揺を押し殺しつつも挨拶し名乗るサウダーデだが、一方で神谷のほうも見た目の落ち着きよう以上に内心では驚き、そして彼をまじまじと見つめていた。
何よりもまず衝撃的なのはその外見。なぜ修行僧のような道着を着ているのかという疑問以前に体格が良すぎる。
2m近い身長にすさまじい筋肉量。探査者として、戦士として彼女には当然それが見抜けていた……見掛け倒しではない、尋常ならざる鍛錬の果てに得られるか否かというほどに見事な肉体。
そして放つ雰囲気、空気のなんと質実剛健たることか!
古馴染みのグェン・サン・スーンが褒めるだけのことはある。目の前の大男は間違いなくアラン同様にいずれ、マリアベールやヴァール、あるいは敬愛して止まない初代聖女エリス・モリガナにまで届き得る存在だ。
後のS級探査者最強格たるサウダーデ・風間と、後の五代目聖女である神谷美穂。
互いに大ダンジョン時代100年を数える現代にあっては大成したと言える名高い探査者だが、その初対面はこの通り、駅前の小さな公園で双方、面食らい合う中でのどこかコミカルなものであった。
再会した以上いつまでもいい歳の大人が3人、さして大きくもない公園に屯するのもあまりよろしくないだろう。
というわけで最寄りの喫茶店に入り、軽くコーヒーや軽食を注文しつつ改めて落ち着いたサウダーデとアラン、そして神谷。
外国人二人、それも片割れはいろいろ特徴的な出で立ちであり加えて妙齢の美女という、目立たぬはずもないトリオでの入店は否応なしに衆目を浴びる。
好奇の視線に苦笑いして、アランがサウダーデと神谷に話しかけた。
「いやあ……なんていうか目立ってるみたいだね、僕達。神谷さんは美人さんだし、クリストフも男前だからねえ」
「お世辞をどうも、アランくん。あなたこそ最近流行りのイケメンというやつでしょう? 道すがらも年頃の女子高生の視線を独り占めしていましたものね」
「さすがにこんな厳めしい男の容姿を褒められてもな……野暮な姿は承知の上だ、アラン。気にしてくれるな、気遣い感謝する」
「は、ははは……」
フォローしようとした結果、逆に神谷にはからかいの言葉を向けられサウダーデからは感謝されてしまった。ますます苦笑いが深まる。
実際のところ神谷は本当に美しく道行く男達の視線を集めていたし、サウダーデも厳めしい姿が頼もしく映るようで年配の方々から好印象を抱かれたりもしていたのだが……
人間、自分自身のことは分からないものか、などと。
かくいう自身も神谷の言う通り、端麗な面立ちからうら若き乙女達のハートを射抜いているというのに気づかず終いのアランはやがて、コホンと咳ばらいして本題に入った。
「ええと、改めて久しぶりだねクリストフ。元気だったかい?」
「うむ。ご覧の通り心身ともに問題ない。アランのほうも元気そうで良かった、第六次モンスターハザードは激戦だったと思うのだが、さすがだな」
「いやあ、僕には頼れる仲間がたくさんいたから。こちらの美穂さんを筆頭にね」
互いに互いのこれまでの道のりをねぎらう。
サウダーデはイギリスから各地を巡ってこの日本にまで武者修行の旅を続けてきたし、アランは言わずもがな六度目のモンスターハザードを解決すべくこれまた世界を巡っていた。つまり形は違えど、揃ってそれぞれ苦難の連続だったのだ。
けれどサウダーデとアランの差をあえて言うならばやはり、苦楽をともにした仲間の有無だろう。
隣に座る神谷を誇るように示せば、そんな彼女はいたずらっぽく笑って彼をからかった。
「あら、良いの? そこはしっかりエミリアさんにしておかないと後であの子、拗ねるわよ?」
「…………いや、まあ。彼女は実際、戦闘には参加はしてませんでしたし……ああでも、道中の炊事洗濯とかを担ってくれたのは言うまでもなく影のMVPでしょうけど。ていうかチクらないでくださいよ? あの子は拗ねると本当に大変なんですから!」
「恋人っていうのはみんな拗ねさせると大変なものなのよ、アランくん? ふふふ、言わないけどねもちろん」
からかいの対象はもちろんこの湯治の旅の最中、ついに結ばれたアランの恋人エミリアについてだ。
彼女は探査者としては未熟ゆえ、モンスターハザードを巡る戦いにあっては補助的な身の回りの世話を担当してくれていた。そんな彼女も立派に頼れる仲間なのだし、何より愛しの彼女なのだから真っ先に名を挙げるべきではと茶目っ気めかして告げたのだ。
エミリアが頼れる仲間なのは言うまでもないが、さりとてジャンルが違いはしないかと悩むアラン。
万一こんな話が後で当人の耳に入ったら面倒なことになると頭を抱えていると、にわかに置いてけぼりだったサウダーデが話の流れから察したのか、柔らかな笑みを浮かべて彼を祝福した。
「恋人……愛する者ができたのだな! 素晴らしい、実にめでたいことじゃないか、友よ!」
「あ、ありがとうクリストフ。あの、恥ずかしいからもうちょっと音量抑えてもらっても……」
「む、失礼。しかし本当に良いことだ、君は女性から人気な割に奥ゆかしいものだから、なかなか好い人を見つけられないのではないかと実のところ心配していたんだ。安心したよ……これはマリアベール先生にも伝えなくてはな」
「なんで!? いやそりゃ、あの人にも散々奥手だ初だ言われてきたから分かんなくもないけども!」
心から喜んでくれているのは嬉しいものの、行き過ぎてまさかよサウダーデの師、マリアベールにまで話が飛びつつある。アランは慌てて止めに入った。
こんな話の顛末が彼女に知れたらどれだけからかわれるやら知れたものではない。せめて籍を入れるまでは内緒にしていてほしいと、さり気なくエミリアと添い遂げるつもり満々のアランだ。
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人。親友だからこそ、こうして会うと気兼ねないやり取りを見せ合うことができる。
そんな彼らの姿を見て、神谷は呆れながらも微笑ましいものを見るように、目を細めて優しい表情を浮かべるのであった。
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