66年目-1 親友との再会
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
アラン・エルミード(27)
神谷美穂(36)
サウダーデ・風間(25)
イギリスを出発してもうそろそろ3年を数える頃。新年を迎え、サウダーデは母方の故郷である日本は秋田県を発ち、一路山形県へと向かっていた。
久方ぶりに親友であるアラン・エルミードから連絡があったのだ……なんとこの頃彼も日本におり、温泉宿にて湯治がてら年を越したと言うのだ。
先年の第六次モンスターハザードにあたっては事件解決の主要メンバーとして戦いに参戦した後、パーティメンバーに連れられて半ば打ち上げめいた感覚で日本にやって来るのだという。
その際にふと、アランもサウダーデの武者修行の目的地の一つが日本であることを思い出したようでそれで連絡したのである。
結果としてお互い、日本国内にあってもそう遠くない地点にそれぞれいることが発覚。
せっかくだからということで頃合いを見て、山形県の都市部にて久方ぶりに再会する約束を交わしたのであった。
親友と会うのももう二年ぶりになるだろうか。アランは期待で胸が踊るのを自覚してそれを自重し、約束の場所である山形県、都市部の駅前公園にてサウダーデを待っていた。
彼の傍らには一人の女性。現在のパーティメンバーの一員であるダンジョン聖教司祭の神谷美穂がいて、そわそわするアランを見てはクスクスと愉快そうに笑っている。
見かねたアランが唇を尖らせた。
「何を笑ってるんですか? 美穂さん」
「ああ、ごめんなさい。ですが久しぶりにお友達と出会うのだもの、気持ちは分かるけど少しは落ち着いてくださいな。ふふ……普段は冷静沈着な天才も、やっぱりこういうところは普通の子なのですね」
「まるきり子供扱いだ、参るなあ。ていうかそもそも、なんで神谷さんまでクリストフに会いたがるんです? 知り合いなんですか?」
からかわれて拗ねたように、困ったように頭を掻くアランだが、ついでとばかりに続けて気になっていたことを質問してみる。
神谷含めた仲間達に、アランがこの日親友たるクリストフ……サウダーデに会う旨を告げたところ、だったら同行したいと申し出てきたのだ。
それも理由は現地で話すの一点張りだ。
まあ滅多なことはあるまいとアランも許可し、はるばる銀山温泉から山形市までやってきたのだが……そろそろ理由を教えてくれてもいい気がする。
そう思って聞いてみたところ、神谷は予想もしていなかった答えを返してきた。
「今からお会いする、クリストフさん……たしかサウダーデ・風間というニックネームで呼んだほうが良いんですよね。マリー先輩のお弟子さんで、しかもアランくんが認める将来有望な探査者」
「認めるというのは上からなんで語弊がありますね。彼は僕がこの世で一番尊敬し、そして信頼する探査者ですよ」
即座に訂正をいれるアラン。ことサウダーデの話題に限り、彼は一貫して自身と彼の関係性をこのように語る──世界で一番尊敬する探査者だ、と。
彼の心身の強さ、気高さ、そして優しさ。初めて出会った時から変わらず、いやさらに強度を増していくそれら人間的な要素にアランは前からずっと敬意と信頼を寄せていた。
大ファンなのだ。以前も今も、そしてこれからもずっと変わらず。
そんなことを断言するアランに、神谷は珍しさから目を丸くしたもののすぐに微笑んだ。素晴らしい友情への感銘と、そしてこの男をしてここまで言わしめるサウダーデなる若手への期待感が増す。
早く姿を見たいものですねと内心にて思いながらも、彼女は続けて語るのだった。
「失礼。その、あなたが尊敬する彼については私もいろいろ聞いてるのよ。主にマリー先輩と、あとは友人であるサン・スーンさんから」
「サン・スーン……ああ、武者修行の出掛けにマリーさんが言ってましたね、東南アジアに行って彼の地の英雄グェン・サン・スーンに会ってみろって。その口ぶりからするとクリストフは、もう彼と?」
「ええ。そしてすぐさま電話をかけてきたサン・スーンさんから、私もことの次第を聞きました。珍しいくらい褒めてましたね、彼。普段は憎まれ口しか叩けない、良い歳をして照れ屋の女誑しなのに」
ニコニコ笑いながらサン・スーンへ痛烈な言葉を吐く神谷。
彼女は以前から、それこそマリアベールと知り合うよりも前から彼と知り合いだった……一時期はパーティを組んでさえいたりもする。
それゆえサン・スーンの露悪的な性格やそれと裏腹の生真面目さ、そして女癖の悪さをも知っていたのだ。なんなら何回か口説かれ、その度無言無表情で殴りつけて黙らせてきたことさえある。すべては遠い昔日、若き日の想い出だ。
今となっては時折連絡し合う良き友人としてやり取りしている仲なのだが、先日には珍しくサン・スーンが他人をストレートに褒めていたのだ。
例のサウダーデに出会ったことに触れ、その立ち居振る舞いから見抜いた実力の高さ、あり方を高く評していた。
「"マリアベール先輩が高く評価するだけはある。傑物だ……今はまだ若く青いがやがてはS級にもなるだろう。自分も得難い人脈を得た"と。最近の彼は権力闘争のほうに偏りがちで、すぐに人脈とか言い出すのでそこは困った話ですがそれでもそこまで言わせるのはすごい話です」
「クリストフですからね。彼ほどの探査者であればそのくらいの評価はされて当然ですよ」
「……本当、どんな方なのかしら。アランくんがここまで心酔するなんてって、あら?」
一廉の英雄たるサン・スーンに高評価されることさえ、サウダーデならば当然だと断言するアランに、若干引き気味の神谷だったが……ふと公園の入口から、恐ろしく目立つ巨体がやって来るのを見て直感的に悟った。
短髪の黒髪、堀の深い顔立ちは西洋人ながら、服装が東洋系の修行僧スタイルで身長はなんと2mほどもある。
何より異様に盛り上がった筋肉。鍛え抜かれた鋼の身体が、頑丈な道着をもはちきれさせんばかりに盛り上がっている。
見るからに只者ではない雰囲気。
彼が件のサウダーデだと、アランに言われるまでもなく神谷は気付いた。
であればなおのこと、当然彼女よりも早く彼は気づいて叫ぶ。
「……クリストフ! クリストフ・カザマ・シルヴァ!!」
「アラン・エルミード! 久しいな我が友よ、息災そうで何よりだ!!」
近寄り、固く握手を交わし合うその男とアラン。
やはりだ、と神谷は息を呑んだ……この巨大な男こそクリストフ・カザマ・シルヴァ。
別名としてサウダーデ・風間を名乗るらしい、マリアベールが最強の弟子とさえ断言した男なのだ。
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