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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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65年目-5 サウダーデの武者修行・日本編

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


サウダーデ・風間(24)

 ベトナムにてグェン・サン・スーンと面会したサウダーデ・風間は、その脚で陸路を踏破し中国へと到達した。

 そして空港から飛行機で日本の東北は秋田へと向かい、飛び立ったのである。

 

 折しも世界は第六次モンスターハザードの真っ最中。ダンジョン聖教とWSOの連合戦力が、スタンピードによって地上に這い出てきたモンスター達を怒涛の勢いで駆逐していっている中での来日。

 秋田を訪れたのは、単純にそここそが母方の故郷の地だったからだ……サウダーデことクリストフ・カザマ・シルヴァの母、風間美幸の生まれ育った家が、そこにあったのだ。

 

 あるいはサウダーデの武者修行の、一つの終着点でさえあるだろう。少なくとも最初から彼はこの地を訪れるつもりでいたのだから。

 世界に雄飛するべく、先んじて己のルーツを辿る旅。自身だけでなく、最愛の母の故郷をも訪ねて。

 彼はそうして、初来日を果たしたのだった。

 

 

 

 母方の実家は思いの外すぐに見つかり、いっそ拍子抜けするほどにトントン拍子に縁戚との対面も叶った。

 すなわち母、風間美幸の実家にあたる風間家の人達と生まれて初めて、サウダーデは邂逅したのである。

 

「よく来てくれた……! 美幸に、あの子にクリストフという息子がいたのは知っていたが、まさか生きていてくれたとは」

「私の存在をご存知くださったのですか、お祖父様」


 秋田県の都市部、住宅街の中にある普通の一軒家。そこが母の実家、風間家の住宅だった。

 意を決して訪ねてみれば、出てきたのはまさかの大家族。サウダーデから見て祖父母にあたる夫婦に、叔父夫婦と息子娘が一人ずつ。そして独身の、年が比較的近しい叔母が二人もいてなんとも賑やかな家庭だったのだ。


 困惑しつつも自身の名と素性を告げ、身分証明書として探査者証明書まで提示したところ、祖父母はすぐさま泣いてサウダーデの巨躯を抱きしめ歓迎してくれた。

 そうして今、居間に上げられ詳しく話をしている真っ最中なのだった。


 サウダーデよりもいくらか年下、ちょうど中学高校くらいの歳の従兄妹が二人、2m近い上に全身是筋肉としか言いようのない彼の風体に慄き、距離を置いている。

 怖がらせていることを申しわけなく思いつつも祖父母が、この家の者が自分の存在を知っていたことに驚きを示すと祖父は涙ながらに語ってくれた。


「ああ、ああ! ポルトガルに男を追いかけていったきり、帰ってこなかったけど連絡はくれてたんだよ、あの子は! それでしきりにお前さんのことを話してくれたんだ、クリストフという名前の、最愛の息子のことを……っ!」

「それが8年前のモンスターハザードで、あの子と連絡がつかなくなって……そうして死んだと聞かされて。あなただけでも無事でいてくれて、本当に良かった……!」

「そう、だったのですね」

 

 涙ぐむ二人に、サウダーデもまた、瞳を潤ませて深くうなずく。

 母は、息子であるクリストフを家族に誇ってくれていたのだ。それが巡り巡って今、再び彼と風間家の縁を結んでくれている。

 

 母本人がこの場にいないことはどうしようもなく哀しく、残念なことだが……せめてもの救いとはまさしくこのことなのだろう、双方にとって。

 叔父や叔母二人も涙を流している。異国の地で不遇の死を遂げた妹、あるいは姉にあたる母を悼んでくれている。

 それがたとえようもなくありがたく、サウダーデはたまらず正座し、深々と頭を下げるのだった。

 

「我が師マリアベール・フランソワ先生から独立の許可をいただき今日、イギリスより遥か極東たるこの日本の地を訪れたこと、心から正しかったと思えます……! きっと天国で母も、この光景を喜びとともに見守ってくださっているはずです」

「ああ、そうだなクリストフ……! 美幸は、もうこの世にいないがお前がいてくれる。なんて立派な風貌だ、良い師匠に出会えたんだなあ……!」

「マリアベール・フランソワさん。聞いたことがあるわ……私の若い頃からずうっと、当世一の探査者と呼ばれている方ね。そんな方が、あなたを助けてくださっていたのねクリストフ……!」

「はい。今の私がこうして正しい信念とともに生きていられるのも、かの偉大なる先生とそして無二の友、アラン・エルミードの存在あってこそ」


 遠方の地、日本にあっても勇名轟く師、マリアベールを心から誇らしく思いながら強くうなずく。

 彼女と、アランと。そして多くの先人達あってようやく、サウダーデは今日この時を迎えたのだ。


「父と母に頂いたこの体とこの命、素晴らしい方々との縁に恵まれてここまで育ちました。そしてあなた方とこうして語らうことができている。私は、果報者です……!」

 

 どこまでも優しい笑みを浮かべて、そう告げるサウダーデに祖父母が、叔父叔母が近づき固く握手し合う。

 取り残された従兄妹達も神妙に彼を見るばかりだ。

 

 これより後、サウダーデは毎年盆と正月には毎日、来日して風間家を訪問することとなる。

 サウダーデ・風間。クリストフ・カザマ・シルヴァの名のごとく……風間の一員として名を連ねることとなるのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 サウダーデが来日する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] 己のルーツを辿る旅の終着点に良き縁を結べて良かったなぁ
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