65年目-4 温泉にて。美女達の語らい
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
フローラ・ヴィルタネン(24)
エリス・モリガナ(60)
マルティナ・アーデルハイド(40)
神谷美穂(35)
エミリア・ハーケン(18)
第六次モンスターハザード終結。委員会から追放された者達による逆恨みから巻き起こったダンジョン聖教へのテロリズムは、WSO徒連携したダンジョン聖教自身によって鎮圧された。
WSO統括理事、四代目聖女を筆頭に先代聖女と司祭、初代聖女、そしてフランスが誇る名探査者とその弟子がチームとなって世界を巡り、敵組織を撃滅するに至ったのである。
決戦をグリーンランドにて終えた後、彼女らパーティは湯治も兼ねて日本国は東北、山形県の温泉宿へと足を運んだ。
エリスの"温泉サイコー! "という主張を受け、神谷が久しぶりに母国の土を踏みたいと言い出したこともあり。またアランはアランでその時日本を訪れているだろう親友、サウダーデ・風間と再会できる良い機会だと判断し。
各人それぞれの意向と都合が重なったのもあり、彼女達は一路日本へと向かい、年越しバカンス旅行を楽しむこととしたのであった。
なおこれに際してはWSO統括理事ソフィア・チェーホワのみ、モンスターハザード後の各種業務が溜まっていることを理由に一足先にスイスへと戻っていたことは補足しておこう──
温泉というもの、生まれて初めて味わうがなるほどこれは絶品だとエミリアははふう、と息を吐いた。
山形県の観光街。その中でも特にグレードの高い宿に滞在してすぐに温泉へと突撃しての一時だ。
湯船には同じく仲間であるフローラやマルティナ、エリス、神谷がいて思い思いに気を抜き、戦いの中で蓄積させた傷や疲れを癒やしている。
実力不足から荷物持ちと各種、炊事洗濯料理といった補助しかしていなかったエミリアでさえ疲労していたところはあったのだ。実際に命を懸けて最前線に出ていた彼女達の疲れは相当なものだろうと、改めて思い至り尊敬の念を覚える。
彼女はそんな仲間達へ、とろけるような心地よさの中でも労いの言葉をかけた。
「はふう……改めまして第六次モンスターハザード終結、お疲れ様でしたみなさーん」
「ふー……ええ、お疲れ様ですエミリアちゃん。歴代聖女様方や神谷先生も、お力添えいただきまことにありがとうございました」
「ハッハッハー、何を水臭いー。おつかれーおつかれー」
「フローラと、あと認めたくないですけどあの化物こそが一番頑張ってたじゃないですかー。お疲れ様でしたー」
「聖女様が頑張ったからこそ、私達も頑張ったのです。エミリアさんもですが、本当にお疲れ様でした」
四代目聖女フローラ・ヴィルタネン。三代目聖女マルティナ・アーデルハイド。
初代聖女エリス・モリガナ。そしてフローラの師であるダンジョン聖教司祭神谷美穂。
錚々たる面々が、今は揃ってエミリア同様温泉に肩まで浸かり至福の心地に頬を緩めている。
いずれも絶世の美女なのだから、探査者とはいえ元は村娘のエミリアからすれば若干、気後れする光景だ。
しかし美女達はそんなエミリアにもまったく気兼ねなく近寄り、話しかけてくる。どこか面白がってさえいる様子で。
真っ先にやはりと言うべきか、ニヤニヤ笑ってエリスが彼女の肩に手を回した。
「ふえっ!? あ、あの?」
「それでさーハーケンくーん。エルミードくんとは一体どこまで行ったのかな? 今回の旅の中、ちょっとは進展してるでしょさすがにー?」
「あ、それ私も聞きたいですね〜。見てるこっちが顔赤くするくらい猛烈アタック仕掛けてたわけですし、いくらニブチンスカタンエルミードくんでもハグなりキスなり一つくらいはしててもおかしくないでしょって思うんですけど」
「……ふえええええっ!?」
まさかの恋バナ。いきなり自身と、自身が憧れとする師匠アラン・エルミードとの進展を聞かれてエミリアは顔を真っ赤に染め、身をすくませた。
言うまでもなく彼女がアランに強く懸想し、度々アプローチを仕掛けていることは仲間達も知っていることだ。
そしてアラン当人もそれなりにそうしたアタックな満更でもない反応をしていることから、第六次モンスターハザードを巡る旅の最中、女性陣達には格好のゴシップネタとして二人の恋の行方というものが囃し立てられていたのである。
なお、神谷とヴァールについてはそうした話にはあまり反応を示さずにいた。
そもそもからして色恋沙汰に興味がなく、どのように反応するべきかも分からなかったのだ……これにはマルティナもエリスも唖然として、少しは浮いた話でもないのかと嘆いた挙げ句お前達には言われたくないと見事なカウンターを喰らい轟沈していたりもする。
そんな鉄壁の片割れ、神谷が呆れ返って距離を取る中、ジリジリ迫り聴取を始めるエリスとマルティナ。明らかに面白がっている二人に、エミリアは動揺しながらもやがて、答え始めた。
「あ、あのう、そのう。け、決戦の前の日の夜……し、師匠はその、わ、私のことをあの、で、弟子としても、女性としても、あの」
「ほほう!? 弟子として、女性として!?」
「……た、大切だって! ずっと傍にいてほしいって、そう言われましてキャーッ!!」
羞恥と歓喜に彩られた真っ赤な顔を、これ以上晒せられないとばかりに両手でひた隠す。
乙女そのものなエミリアの姿に、エリスとマルティナは一瞬キョトンとした後、やがてじわじわとその顔を笑みに染め、大はしゃぎで騒ぎ始めた。
「ハッハッハーうっひょうマジかよー!! お聞きになったかい皆々様方ぁっ!? エルミードくん陥落だってさ、難攻不落の鉄壁くんもついに年貢の納め時かぁーハッハッハー!!」
「あのクソ寒いグリーンランドで、よりにもよって夜に外出なんかして何してんですかねと思ってたら何やらラブラブイベントが!? ちょっと水臭いですよなんで言わなかったんですか!?」
「言うわけないじゃないですかっ!? うう、恥ずかしいけど嬉しい〜……!!」
我がことのように喜ぶエリスとマルティナに、隠しきれない照れ笑いを浮かべて俯くエミリア。
聞いていたフローラや神谷も意外そうに目を丸くしながら、けれど優しく微笑んでいる。仲の良い少女の恋がついに実ったのだ、喜ばしくないわけもない。
この後、風呂上がりの女性陣にばったり出くわしたアランは盛大なからかいと祝福を受けることとなり、エミリアに負けず劣らずの赤面を見せる羽目になる。
しかして出来立てカップルらしい、はにかみあって見つめ合う姿は誰から見ても幸福そのものであり……
その夜は事件解決の件も含めて、盛大なパーティーが催されたのであった。
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