64年目-6 第六次モンスターハザード
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
フローラ・ヴィルタネン(23)
マルティナ・アーデルハイド(39)
神谷美穂(34)
ヴァール(???)
アラン・エルミード(25)
エミリア・ハーケン(17)
ダンジョン聖教をターゲットにして引き起こされるスタンピードに対して、WSOとダンジョン聖教騎士団は連携しての対処にとりかかることとした。
世界各地の主要拠点に人員を配置してモンスターから人々を防衛しつつ、少人数からなるパーティを多数動員して散発的に起きるスタンピードに適宜差し向けたのだ。
とりわけ今回、WSO側の能力者犯罪捜査官を率いるソフィア・チェーホワとダンジョン聖教騎士団を指揮するマルティナ・アーデルハイドと神谷美穂。
そこに総指揮役としての四代目聖女フローラ・ヴィルタネンや個人協力者のアラン・エルミードとその弟子エミリア・ハーケンが加わっての六人パーティが事件解決のため、積極的に委員会の拠点へ攻め入る構図となった。
加えてその裏では初代聖女エリス・モリガナが能力者犯罪捜査官としてのライセンスを持って戦線に参加。
独自行動で人々を護りながら委員会に迫りつつあり、あらゆる方面から攻めに守りに全力の様相が各地で見られていたのである。
「《剣術》──聖王剣・微塵切り!!」
「《破砕術》ッ!! デストロイハンマーッ!!」
剣が疾走してモンスターを切り裂き、槌が唸りて敵を殴り潰す。それぞれマルティナ、神谷の放った技だ。
ブラジルの大草原にて発生したスタンピードも何のその、すさまじい勢いで攻めたてるモンスターを即座に返り討ちにしながらも、二人のコンビネーションは抜群なものだった。
探査者コンビ"ビショップ・アンド・プリースト"。
三代目聖女を引退したマルティナ・アーデルハイドがそれ以後、神谷美穂と組んで各地の犯罪能力者を退治する旅に出た際に名付けたパーティ名であるが……
まさか第六次モンスターハザードがきっかけで飛躍的に名を売ることになろうとは、当の本人達とて予想だにしていなかったことだ。
「やるなアーデルハイド、神谷……《鎖法》、鉄鎖乱舞! 空は任せるぞ、ヴィルタネン!」
「おまかせください! 《弓術》《狙撃》《視覚強化》……! ドラゴンドライブスナイパー!!」
他方、空から迫る敵には鎖と矢がもてなしをする。ヴァールが放った無数の鎖が飛行能力を持つモンスターに次々巻き付き拘束。そこに地上から放たれた矢が次々貫き、仕留めているのだ。
WSO統括理事ソフィア・チェーホワの裏人格ヴァールによる《鎖法》と、四代目聖女フローラ・ヴィルタネンの《弓術》はじめ関連スキルの複数同時仕様によるコラボレーション。
数え切れないほどに分散した鎖を放射状に空へと放ち、そのすべてでモンスターを捕縛しているヴァールの制御力はさすがの一言だが、フローラもフローラでそうして捕縛されたモンスターを一撃必殺で撃ち落とし続ける狙撃力の高さがすさまじい。
先代聖女のマルティナとは性格の不一致もありあまり相性の良くないソフィアとヴァールだったが、フローラとはそれなりに適度な距離感で人間関係を構築できていた。
どちらもスキルが遠距離主体なこともあり、今回のモンスターハザードにおいてパーティを組む中では特に連携が多いのだ。であれば自然と話すことも多くなるし、フローラのほうがヴァールに頼もしさを覚えて懐くようにもなっている。
これにはマルティナも複雑な気持ちを抱かざるを得なかったが、それはそれとして得体の知れない統括理事の相手を他人がしてくれるのは助かるのも事実。
結果としてマルティナと神谷、ソフィアやヴァールとフローラ、それぞれコンビとなって行動することの多いパーティができあがっていたのである。
……普通ならば空中崩壊していてもおかしくない状況。そんなこのパーティを、しかしうまいこと連結材の役割を果たす人員がこの場にもう二人いた。
アラン・エルミードとその弟子エミリア・ハーケン。ヴァールからの要請を受けてモンスターハザードに参戦することになったアランに、新米弟子のエミリアが無理やり随行してきた形になる。
「よし、まとめて一掃します! ……エミリア、僕から離れないように」
「はい、師匠! 一生、死ぬまでいいえ死んでもお供します!!」
「そこまでは良いから!? ……でも、離れないでね。《極限極水魔法》、タイダルウェイブ・ディザスターッ!!」
ぴっとりと、師の背中に張り付く弟子。
エミリアはアランのことを明らかに師として以上に男として意識しており、去年押しかけて弟子になった時点からずっと、猛烈極まるアプローチをしてきていた。
そしてアランもこの手のことには免疫がなく、口では拒否しているものの内心では喜ばしく思っているという珍妙な師弟関係が構築されていた。
とはいえアランの実力に疑う余地はない。
第五次モンスターハザードから7年、磨きをかけたスキルの威力は親友サウダーデ・風間をも超える威力と範囲を誇るのだ。
仲間達を避けるようにして、どこからともなく現れた洪水が草原を襲いモンスターを呑み込んでいく。
スタンピードに対して滅法強い、対複数モンスター戦におけるプロフェッショナルの業がそこにはあるのだった。
数分後、すっかりモンスターが消え果ててスタンピードが収まった水浸しの草原にてみな、佇む。
「みなさんおつかれさまでーす! 飲み物どうぞ、よければサンドイッチもありまーす!」
「どうもエミリアちゃん! あなたの作ってくれる料理は仕事疲れに沁みますね! 行きましょう美穂!」
「もらおうか、ハーケン。フローラ、君も飲むと良い。小休止だ」
背負ったリュックから弁当箱と水筒を取り出し、エミリアが戦闘後のメンバーに呼びかけた。マルティナとヴァールがそれに応え、彼女の下に集う。
実力的には完全に足手まとい、荷物持ちにしかなれないエミリアだったが、持ち前の明るさと炊事洗濯等家事万能なことからパーティに地味に欠かせない潤滑油的な存在となっていた。
マルティナとヴァールのぎこちない仲を取り持つのも主に彼女で、唯一の男であるアランはやや距離を取ってそれを見守るばかりだ。
サウダーデ・風間の武者修行に故郷フランスまで付き合った後、地元に戻ってから得た弟子、エミリア。
それがまさかこのような形で価値を発揮するとは思いもせず、人生何があるか分からないとつくづく思うアランであった。
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