64年目-5 能力者犯罪捜査官エリス・モリガナ
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
エリス・モリガナ(59)
ソフィア・チェーホワ(???)
第六次モンスターハザード勃発の兆しを受け、動き始めたダンジョン聖教。
時を同じくして協力体勢にあったWSOもまた、能力者犯罪捜査官を動員するなどして事態解決のために動いていた。
今回は第五次に比べても明らかに局所的、かつ規模が小さいことから当時同様の総動員とはいかないソフィアとヴァールであったが、それでも相当な数の人員をめぼしいダンジョン聖教の主要拠点付近に設置。
ダンジョン聖教側の探査者クラン、ダンジョン聖教騎士団との連携も密に取る形で対応にあたっていた。
加えてこの時、ソフィアはある人物にコンタクトを取っていた……第五次モンスターハザード以来、またしても各地を放浪していた初代聖女エリス・モリガナである。
ダンジョン聖教がメインターゲットとなった今回のモンスターハザードにおいては、彼女の力も借りるべきとして連絡を取っていたのだ。
「久しぶりねエリスちゃん。第五次ぶりだから、大体7年くらいかしら? 元気だった?」
「ハッハッハー、まあお陰様で。最近こそゴタゴタしてますけど、第五次直後からしばらくは裏社会も平和だったもんで呑気な物見遊山してましたよー」
スイスはジュネーヴ、WSO本部。その中にある統括理事室にてソフィア・チェーホワはエリス・モリガナと旧交を深めていた。
第五次モンスターハザードから会うことのなかった彼女を呼び出したのである。
当然、ただ世間話をしたいがためではない。
第六次モンスターハザードの報せを受け、しかもそのメインターゲットがダンジョン聖教であることを知り……これはエリスの手を借りるべきとして、二代目聖女ラウラ・ホルン経由でコンタクトを取ったのだ。
ダンジョン聖教における、ある意味最重要存在であるからこその要請であった。
「ラウラから聞きましたよ、今度も委員会が絡んでて、しかもダンジョン聖教ゆかりの土地や施設を攻撃してるんですって? なんでまたそんなことするんですかねえ」
「理由は定かでないけれど、どうも委員会全体の組織的犯行というよりは一部セクションによる私怨と見るほうが良いかもしれないわ。捕まえた関係者らしき能力者が、そんな感じのことを白状しているから」
「ハッハッハー! なるほど、察するに第五次の時に目論見をご破算にされた下っ端達が逆恨みしてテロっちゃってる感じですか。委員会も一枚岩とはいかなさそうですね」
「そもそもからして謎が深すぎるのだけれどね、あの組織……」
はあ、とため息を吐くソフィア。
すでに事態が進行している中、WSOにしろダンジョン聖教にしろ何人かは委員会の一員らしき犯罪能力者を捕縛、尋問の上情報を聞き出していた。
そこから導き出されたのが第五次モンスターハザードの折、スタンピードを引き起こしていた委員会内のとあるセクションの者達が自分達の野望を挫いた探査者達に逆恨みして今回ことに及んだ、との証言であった。
第一次モンスターハザードから50年以上、謎めいた組織の内部事情を少しとはいえ掴める話だったのは収穫だが、それはそれとしてあまりに俗っぽくて真偽が疑わしいのもたしかである。
ともあれ委員会の一部によるハザード主導であると断定はできたのだ、これをもってWSO統括理事としてのソフィアとダンジョン聖教四代目聖女としてのフローラ・ヴィルタネンは共同捜査を敢行。
本格的にスタンピードに対抗せんと人員が投入されているのがこのタイミングであった。
ソフィアが懐から、カードと携帯電話を取り出しエリスに渡す。
「……これは?」
「今回、エリスちゃんにはWSOの能力者犯罪捜査官としての身分の下、動いてもらうことになります。それはその証明書と連絡用の携帯電話よ。私はじめ主要人物の電話番号は入ってるから、後で確認してね?」
「はい? え、能力者犯罪捜査官? このエリスさんが? ……なんで?」
急な話に目を丸くして、手にしたカードと携帯電話をまじまじと見る。
普通に個人協力の探査者として参戦するものと思っていたので、いきなりこのような話を持ちかけられても戸惑うばかりだ。
そもそもなぜ捜査官などに?
疑問符を浮かべて質問するエリスへ、ソフィアは穏やかに微笑んで答えた。
「ラウラちゃんからのたっての頼みよ。あなたの社会的立場を、形だけでも整えてほしいって。仕方ないとはいえいつまでも根無し草で、時折まともに連絡さえ取れなくなるのをあの子も心配しているみたいね」
「あー……いやでも、だからって捜査官ってそんな」
「別に何かを無理矢理させるつもりもないわよ。普段から裏社会で、犯罪能力者相手に戦っているあなたにバックボーンを与える意味もあるわね。ほら、いざという時に自分はWSOの所属ですって言えるのってやっぱり強いでしょう?」
「それは、まあ……」
妹分たるラウラの頼みと、ソフィアの言い分と。どちらと納得できるものがあり、エリスは戸惑いながらも唸る。
ラウラも気付けば還暦が見えてきた歳だ、放浪自体は仕方ないにせよ、あまり心配させるのもどうかなと自分でも思ってはいたのだ。
ただ、最近巷で流行りの携帯電話はなかなか買う機会がなく……正直、今こうして用意してもらえたのは渡りに船でさえある。
しかも能力者犯罪捜査官ライセンスを持たされたとはいえ基本、特に無理矢理何かに参加させられることもないという。
つまりは本当に身分証明書程度に渡してきたわけで、こちらもエリス的には都合がいい。良すぎるほどだ。
さすがにこれをそのまま二つ返事で受け取るのも気が引け、エリスは最後にもう一回確認した。
「いざとなったらWSOの名前を出せるのはそりゃあ、大きいですけど……良いんですかソフィアさん、ヴァールさんも」
「もちろん。あなたなら悪用なんてしないと信じているもの、能力者犯罪捜査官の名の下に、これからはWSO所属って名目で活動してちょうだい」
「……そうまで仰られるなら、ありがたく受け取ります。あなたとヴァールさん、そしてラウラの厚意を無碍にはしないと、かつて置き去りにした大切な家族への愛にかけて誓います」
大きな信頼と期待、これを裏切るわけにはいかない。
エリスは謹んでカードと携帯電話を受け取り、先輩二人と妹分に対して誓いを立てた。もう二度と逢えない、だからこそ生半可な気持ちでは口に出せない人達への想いをもかけたのだ。
これにより以後、エリスは立場上は能力者犯罪捜査官として活動することとなる。
基本的には今まで通りフリーだが、時折ソフィアやヴァールからの直通電話を受けて依頼をこなす日々を過ごすこととなるのだった。
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