64年目-2 サウダーデの武者修行・フランス編
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
サウダーデ・風間(23)
アラン・エルミード(25)
ユリアン・デューン(43)
スイスはジュネーヴにて、WSO統括理事ソフィア・チェーホワとの面会を果たした若き探査者サウダーデ・風間。
そうして一か月ほどをスイスにて過ごした後に彼が向かったのは、親友アランの故郷フランスであった。
元よりアランとて、サウダーデの武者修行に一から十まで付き合うつもりもしておらず、フランスにまで到達した時にはそこで地元に戻る予定でいたのだ。
そもそもイギリスはロンドンにて半年をともに過ごし、その後でスイスに一ヶ月逗留している。さすがにそろそろ故郷での活動に復帰したほうが良い、というのは他ならぬサウダーデからのアドバイスでもあった。
そんな事情もあり二人はフランスへ向かう。
そこでの出会いもまた、サウダーデを一段成長させてくれるものであった──
フランス南西部。
ワインの名産地としても名高いその地域は同時に、若くして第五次モンスターハザードで活躍した名探査者アラン・エルミードのホームとしても有名だ。
彼自身、基本的にはこの地を拠点にダンジョン探査活動を行っており、地元の英雄としての人気も高い。
そんな地を訪れたサウダーデ・風間ことクリストフ・カザマ・シルヴァ。
初めての地への不安や期待、そしてそれとは別口についに訪れた友との別れの時への寂念をも滲ませ、現地の全探組支部に来ていたのだ。
「わっ、すっごい大きな人ね……! 彼があなたが言っていたクリストフさんなのね、アランくん」
「ええ。僕が誰より尊敬する友人です」
談話室にて、彼はアランと並び、対面に座る一人の女性と向き合っていた。サウダーデの巨体、鍛え抜かれた肉体に目を剥くその人へ、敬意をもって真摯な眼差しで見据える。
友の、アランの師匠だ。決して無礼は働けない──そんな思いが強く、彼を緊張させてもいた。
ユリアン・デューン。かつてはC級探査者としてデビューしたてのアランを指導、育成していたが第五次モンスターハザードの際に負傷。そのまま引退。
現在では地元のWSO支部における事務員として働く、いわゆゆ内勤探査者として活躍している女性だ。
古くはサウダーデの師、マリアベール・フランソワとも多少の交流があったという。40代半ば程度の、多少肉付きの良い体格を揺らして笑いながら彼女は感心しきりに口を開く。
「マリー先輩のお弟子さんには過去何人かお会いしたことがあるけど、君はその中でも一番すごいわね! なんていうのかしら、風格? アランくんほどの探査者が誰より尊敬しているなんて折に触れて言ってるんだから予想はできてたけど……いやー想像以上だわ!!」
「私などようやく独立したにすぎない若造ですが……過分なお言葉、恐れ入ります。改めましてクリストフ・カザマ・シルヴァと申します。探査者としてはサウダーデ・風間と名乗っておりますのでよろしくお願いいたします」
「よろしくね、サウダーデさん! 私はユリアン・デューン、アランくんの一応師匠で、今は引退してWSOの事務員してるわ」
厳粛な面持ちでいかにも生真面目に名乗り、挨拶をしてくるサウダーデへとユリアンは朗らかに笑いかけた。
同時に内心、弟子たるアランは人を見る目まであるのかと驚愕しながらである。
探査者として早くから大成したアランは自他ともに認める天才だ。持つスキルも、戦闘センスも備えるカリスマ性さえもすべてが天賦というほかない。
本来ならばフランスの一地方ばかりか世界に打って出てもおかしくない、それほどの人材なのだが……そんな彼が誰に憚ることなく常々から、このサウダーデなる男について方々で自慢話をしていたのだ。
曰く、世界で一番尊敬できる探査者だ、と。
常に己を高め、人を思いやり生命を慈しみ悪を憎む。探査者であるならば彼の姿勢をこそ目標とすべきだとさえ、強く断言していたのである。
明らかに心酔している様子の弟子に、だったらどんなもんなのか一回連れてきて見てくれと言った結果、こうして本当に連れてきたわけであるが。
なるほど言うだけはある、いやそれ以上だ。眼の前の巨漢は明らかに、超一流探査者に通じる風格を備えている。凛とした眼差し、穏やかな表情が武道の達人めいた雰囲気を出しているのだ。
なるほどなるほど、うなずきながらサウダーデをジロジロ見やるユリアン。
居た堪れなさを感じながらもサウダーデが身じろぎ一つせずにいると、アランが苦笑して師匠に制止の声をかけた。
「見すぎですよ、師匠。クリストフが緊張してます」
「あっ……!? ご、ごめんなさい! ついね、あんまり立派な姿なものだから」
「い、いえ。図体ばかりの無骨さで恐縮です」
やらかした、と照れ笑いを浮かべてごまかすユリアン。それに対してサウダーデは頭を掻きながらも穏やかに笑うばかりだ。
アランの師匠……なんとも素敵な、温かみのある御仁だと好印象を抱く。
聞けば親友たるアランは、この女性が負傷したのをきっかけに第五次モンスターハザードに参戦、英雄への道を歩み始めたのだという。
こんなにも天真爛漫で明るく朗らかな師を、探査者として再起不能にまで追いやられたのならば復讐する気持ちも分かるものだと、他ならぬサウダーデだからこそ当時の友の心境に想いを馳せる。
ちらりと横目で見れば、アランはキョトンとして彼に尋ねてきた。
「どうしたんだい、クリストフ。なんか、面白がっているけど」
「いや、納得したのだ……この方が師匠というのであれば、アランが素晴らしい探査者になったのも当然だ、とな。師弟揃って素晴らしい、尊敬すべき姿だ」
「え。そ、そうかなあ……?」
「あらやだ! もう、尊敬すべきだなんてそんな! やっぱり一流どころには分かっちゃうのかしらねーアランを立派に育て上げたユリアンちゃんの偉大さが、うふふふ!」
師弟揃って褒め称えれば、弟子は戸惑い師匠は嬉しそうに微笑む。その姿がまた、まるで親子めいてすらいてサウダーデには楽しいものだった。
世の中、さまざまな師弟の形がある。フランスは友の故郷にて、改めて学ぶ思いの彼である。
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