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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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62年目-1 マリアベールと酒・4

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


マリアベール・フランソワ(44)

クリストフ・カザマ・シルヴァ(21)

アラン・エルミード(23)

 マリアベール・フランソワの弟子となって4年ほどが経つこの頃、クリストフにも師匠のことが多少なりとも分かるようになってきていた。

 剣が達者で世界屈指の実力者であることは当然として、性格面も豪放磊落にして苛烈な面があるものの、基本的には他者に対して穏やかで寛大なスタンスを見せることの多い人物だと知れてきたのだ。

 

 44歳を迎える頃になるとマリアベールもすっかり大人として落ち着いた振る舞いを見せていた。

 若い頃はあんなに嫌っていた先輩という存在に自分がならないようにと、意識的に優しく周囲と接していたのも大きい。

 特に愛弟子たるクリストフには、故郷を滅ぼされたという壮絶極まる来歴への配慮もあってか探査者としては厳しめの指導をしつつも、人間としては概して優しい接し方をしていたのである。

 

 そんなクリストフとマリアベールはまったくもって問題ない、順調そのものな師弟関係を築けていたと言っていいだろう……ある一点に関してを除けば。

 マリアベールのとある嗜好が、クリストフにはどうにもついて行けなかったのだ。

 

 言わずと知れた酒である。

 愛娘エレオノールの出産から数年、産褥期も健康に過ごしてようやく酒の解禁を迎えた彼女の呑みっぷりはすさまじかった。

 夫のヘンリーが真剣に怒り出すほどに飲み暮れ、見かねたヴァールやエリスに電話越しから数時間、説教を受けたことさえあるほどに箍を外してしまったのだ。

 

 第五次モンスターハザード終結後は弟子を取ったこともあり多少は落ち着いたものの、それでも常軌を逸した飲酒量を継続して続けていたのは言うまでもない。

 そして、こうした振る舞いに成人を迎えて以降のクリストフも巻き込まれたのだ。友のアランともども辟易するほどに、連日連夜の宴会につきあわされていたのである。

 

 


 修行がてらのダンジョン探査を昼過ぎに終え、少し遅めの昼食がてら行きつけの酒場を訪れる。

 もはや毎日のことだった。そしてその度に酒を飲みだす師匠に、クリストフは正直なところ尊敬とは別にして呆れる気持ちを抱かざるを得ないでいた。

 

「ぃよっしゃあ酒だ酒だぁ!! よし飲むよクリストフ、アラン!」

「き、今日もですか先生……」

「ここのところ毎日じゃないですか、マリーさん……」

 

 意気揚々と酒場のドアを開く師匠マリアベールに、同伴のクリストフもその友人アランも、げんなりとした顔で彼女の背中を見、ついでお互いの顔を見合わせた。

 あまりに頻度が多い。最近だと半年近く毎度、探査を済ませてからはここに通い詰めて食事とともに酒を飲んでいる。ほぼ2日に一回ペースの計算だ。

 

 最近はクリストフの修行もほぼ終わりを迎えており、また彼自身のメンタル面が未だ小康状態であることから、一回の探査が比較的早く終わるようになっている。

 だからこそ余計に、なのだろう。ストレートに直帰するにはあまりに早く、またもうじき独立するのも見えてきた弟子に対して言葉での教授もまだいくつか残っている。


 そうした理由も兼ねての宴を開いてくれているのだが……さすがに度が過ぎていた。

 席につくなりさっそく三人分の酒を注文しようとするマリアベールへ、クリストフは意を決して訴えた。

 

「先生! 最近あまりにも呑みすぎています、そろそろ少しばかり休むべきです!」

「ま、まーたそれかようクリストフまで……ヘンリーみたいなこと言うなよ、エリーとはちゃんとコミュニケーションしてるんだよこれでも」

「そのヘンリーさんから聞いてますよ。オフの日、エリーちゃんの育児を終えてからはもうすごい量飲んでるんですって? いくら探査者だからってそのうち体を壊してしまうって、心配してたんですよあの人も」

「うっ……」

 

 可愛い弟子と戦友でもある弟子の相方。何より最愛の旦那にまで口を揃えていい加減にしろと言われると、若い頃のマリアベールならばともかく年を取り相応の落ち着きも得た今の彼女では抗弁もし難い。

 一応、申告通り家庭生活はそれなりにしっかり行っているのだ。エレオノールの世話を焼き、使用人に任せきりにせず時には自分でも炊事洗濯等家事をこなし、町内の集まりなどにも顔を出してご近所の奥様方とコミュニケーションを取っていたりもする。

 

 正直モンスター相手に命のやり取りをしているほうがよほど気楽なのを、それでも家族のために今後のためにと行っているのだ。

 であれば晩酌に多少、呑み明かしたとて構わないだろうというのが彼女の主張だった。

 しかしそうした物言いも虚しく、クリストフは控えめにしかし、断固として譲らぬ姿勢で一言告げる。

 

「限度があります」

「うう……」

「先生の日頃の御苦労を思えば、弟子の身で諌めること甚だ無礼とは存じますがそれでもあえて申し上げます。呑み過ぎです……周囲の者すべてからそう言われていることそのものが、何よりもの事実です」


 どこまでもまっすぐ、かつ誠実なクリストフの姿勢はあらゆるものにも優る説得力がある。

 普段、モンスターとの戦い以外においては寡黙気味なのだが口を開けば至極真っ当なことを主張してくるだけに彼の放つ言葉は重く、深い。


 当の本人は面白みのない性格なことを気にしているらしいが、マリアベールにしろアランにしろ、彼を知る者はそのままでこそクリストフらしい価値があるのだと常々思っていた。

 いたのだが……その矛先をこちらに向けられると反論の余地がないと、彼女は耳の痛さに俯くばかりだ。

 さらに追撃と言わんばかりに、呆れ顔のアランが続ける。


「さすがにこれ以上は僕も、ソフィアさんに連絡したほうが良いのかなーってレベルなんですよねぶっちゃけ。僕嫌ですよ、本当にキレたあの人に詰め寄られるマリーさん見るの。知ってるでしょ本当に怖いのが表と裏とどっちなのかって」

「そ、そりゃまずい……! 分かった、分かったよ! 今日は呑まないよう」

「今月は呑まない、にしましょう。少し肝臓を休養させるべきです」

「あ、あううう……!」

 

 以前真剣に叱られたことから、すっかりソフィアのほうを怒らせるのはまずいと悟っているマリアベールが慄く。

 表面上のとっつきにくさからヴァールのほうが怖いと思っていたが、あちらは実のところ甘すぎるほどに他人に対して甘いところがあり、むしろ本当の意味で辛辣で容赦がないのはソフィアのほうなのだ。

 

 アラン伝に彼女がこのことを知れば、わざわざここまでやってきて一日中説教を食らいかねない。それだけは困る。

 震える声で仕方なし今日は呑まないと告げたところ、すかさずクリストフに今月だと念を押される。弟子とその友人による阿吽のタッグプレイに、今度こそ観念して呻くしかないマリアベールであった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 呑みすぎた結果呑めなくなったマリアベールが出てくる「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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[一言] 肝臓さん「もう勘弁して……」
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