60年目-1 御堂とフランソワ・3
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マリアベール・フランソワ(42)
御堂将太(63)
御堂才蔵(41)
御堂博(15)
エレオノール・フランソワ(8)
互いに面識を得てから概ね25年近くが経過する頃になっても、マリアベール・フランソワと御堂将太の交友は続いていた。
一時引退中であってもそれ以前にも毎年、日本は御堂家を訪ねていたのである。特に最近では夫のヘンリーや娘のエレオノールを引き連れての、まさに家族ぐるみでの付き合いとなっていた。
彼女が復帰して第五次モンスターハザードが終わった後になってもそれは変わらず、もう何十回目にもなる来日を迎えたマリアベール。
だがこの時の来訪は、彼女にとって大きな変化をもたらすあるものとの出会いが待っていた。
────時代劇。
現代における彼女の代名詞、居合スタイルのきっかけとなる映像作品群がこの時、たまたま御堂家にて流行っていたのである。
夏、日本。古都京都は御堂家の屋敷の居間にて、S級探査者マリアベール・フランソワは娘のエレオノールとともにテレビを見ながら酒を呷っていた。
昼からの酒盛り……滞在中はさしたる仕事もしないと決めている、酒豪マリアベールならではの豪快なふるまいだ。
最近弟子に取ったクリストフ・カザマ・シルヴァも当然ながら来ていない。彼の友人にして自身の戦友でもあるアラン・エルミードも同様で、今頃二人して和気藹々とダンジョン探査でもしていることだろう。
つまりは一応の師匠や先達としてそれなりな自省をする必要もなく、羽を伸ばせる期間を迎えていたわけだ。
となれば当然のように酒とつまみを買い込んで、娘には携帯ゲームをやらせたり本を読ませたりしつつも自分は呑気にテレビなど見る。
これぞ自分のバカンスだと、今年で42歳となるマリアベールは至福の一時をビールとスルメで楽しんでいた。
……と、そこに襖を開けて入ってくる者が数人。
この家の主、御堂家の者達である。
「やあマリー、さっそく酒盛りとは相変わらずだねえ。ちょっとは休肝日を作るべきだよ」
「親父様よ、マリーにそりゃ無理だぜ。全身、血の代わりに酒でも流れてるような女なんだぜこいつは」
「エリーちゃんも大人しくゲームしてていい子ね。ね、博?」
「ですね。エリーちゃん、お兄ちゃんと遊ぼうか?」
「! うん!!」
御堂本家先代当主、御堂将太とその息子にして現当主、才蔵。そしてその妻である佳織と二人の子、博。
将太が探査者として活躍する中で富を得、そこから御堂家と将太の妻、光江の実家である上原家をまとめる形で始まった御堂という名門の、本家筋一家の総登場であった。
マリアベールが日本酒をコップに注いで、呑みながらも彼らを迎えた。
「やっかましいよボンボン才蔵。将太先輩、毎度ですけどお世話になります、ヘンリーはどこ行きました?」
「彼なら光江と話しているよ。子供でも楽しめる観光地を聞いてたから、来日中に君達を連れてどこか行こうと思ってるんじゃないかな」
「あー……毎年毎年すみません、将太先輩達にゃそのへん聞きまくってるみたいで。あの馬鹿野郎ときたら、失礼なことして恥かかせてまったく!」
穏やかに答える将太に、マリアベールは申しわけないと夫ヘンリーの不躾を詫びる。
結婚して以来、当然夫婦で来日しているわけなのだが、彼は特に日本の観光地を訪ねるのが好きらしく独自の旅行ツアーを練るのが恒例だ。
それゆえ現地の知り合い、御堂家の者にもどこか良いところはないか、楽しいところはないかとしきりに聞き出しており……
時折堪りかねてマリアベールが叱りつけて黙らせるところまで含めて、御堂家とフランソワ家の交流における一種の風物詩となっていたのだ。
御年63歳、しかして見た目はまだまだ40代後半程度にしか見えないほどに若々しい将太が、楽しげに微笑みながらマリアベールを宥める。
「いやいや、光江も我がことのように楽しんでプランを練っているよ。なんならみんなでどこか行くのも良いかもねえ」
「おっ、そりゃ良いですね! おう才蔵、いっちょアンタのドライビングテクニックを見せておくれよ」
「見せるか! 俺ぁ車は好かんつっとろーが、ガキの時分から!!」
「このあたりでしたらやはり、電車で行くのがなんだかんだ手早いでしょうし、ね?」
話を振られて才蔵が叫び返した。彼は幼少時に交通事故に遭って以来、すっかり車が苦手なまま40歳過ぎまで生きてきた。
そこをフォローするのは彼の妻、佳織だ。才蔵が手掛ける探査者向け事業の縁から結ばれた上流階級の女性で、彼より10近く歳下ながら常に仲の良い様子を周囲に見せている。
そして才蔵、佳織夫妻の子が博だ。15歳の少年で探査者ではないが才気煥発、文武両道で優しげな顔立ちが女学生から人気の好青年で、8歳のエレオノールに対しても優しくレディとして扱う如才ないふるまいから幼い彼女の憧れを一身に惹きつけていた。
ありゃー将来は大した女泣かせかもねえ、などとウイスキーを呑みつつ考えるマリアベール。将太や才蔵、佳織もテーブルを囲んでそれぞれせっかくなのでと酒を軽く呑み始めると、ふと将太がテレビを見て言う。
「……時代劇? マリー、好きだったっけこういうの」
「いやあ、テレビ付けたらたまたまやってたんで見てるんですけどね? なかなかこれが面白いってか、参考になる」
彼が意外そうに示すのは、ブラウン管の中の光景、時代劇ドラマ。
古き日本の津々浦々を舞台に、居合刀を用いて切った張ったの人情劇。これまでの来日中、マリアベールがまず見なかったジャンルの番組だ。
見るにしてもお笑い番組かトレンディドラマ、あるいは音楽番組だった彼女がなぜ急に?
将太の問に焼酎を呑みながら答えるマリアベールは、バカンス中だが紛れもなく探査者の顔を浮かべていた。
「居合抜きってやつぁ、日本刀を用いた技術の一つとしてあるってのは聞いてましたけど、こう見てみるとやってみたくなりますね。それに今後、歳食っていく内に身体能力やらも落ちていくでしょうから、それを補う何かはほしいと思ってましたし」
「ああ……僕みたいな遠距離専門はともかく、マリーは基本的に近距離だしね。モンスター相手の立ち回りを考えると、加齢も加味していかなきゃいけないか」
「レベルのお陰で、早々若いのにも負ける気はしませんけどね。80歳だの90歳だのになるとさすがにそうも言ってられませんでしょうし」
一時引退から復帰したマリアベールも、さすがに引退前までの肉体能力を維持できているかと言うと難しい。
妊娠、出産を経て体質や体調に変化が生じたことに加え、やはり加齢による基礎的な部分での肉体の衰えが否応なしに彼女の実力を、往年の頃から落ち着いたものへと変化させていた。
とはいえマリアベールも黙ってそれを受け入れるわけではない。基礎トレーニングは欠かさず行っているし、ダンジョン探査の中でレベルアップも地道に積み重ねていっている。
加えて時代劇をヒントに居合までマスターして、一撃の速度を重視したスタイルに切り替えることができれば……今自分で言ったような、80歳90歳になっても探査者として現役でいられる可能性もあり得るのだ。
そんな話を聞き、同年代の才蔵が呆れも露につぶやいた。マリアベールの現役志向は長年の間柄だ、分からなくもないが本気でそれを狙うのはさすがに無理があるだろう。
やんわりと、酒を飲みながらも諫める。
「そんな歳になるまで戦う気かい、お前さん……生涯現役ってのはあくまで心構えであるべきだぜ? 時が来たら世代交代するのも、先輩ってやつの役目じゃねえのかい」
「そこは弁えてるよ、ハハハ……だがまあ、行けるところまでは行きたいからね。私のファースト・スキルの謎だって明かしたいんだ、高々加齢なんぞでへこたれてられるかいって話さね」
「…………強いなあ」
28年前に得た、己のファースト・スキル《ディヴァイン・ディサイシヴ》。未だに何一つ謎が明らかになっていないこのスキルの謎も、できれば生きている内に紐解きたい想いがある。
そんな理由からも生涯現役を掲げる彼女を、将太は眩しいものを見るように目を細めた。
自身も似たようなファースト・スキル《究極結界封印術》を持ちながらも、時の流れのなかでもはや、その謎を諦めてしまったがゆえに。
なおも諦めないマリアベールが、自分などよりよほど立派に思えていたのであった。
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