59年目-2 ビショップ・アンド・プリースト
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
マルティナ・アーデルハイド(34)
神谷美穂(29)
四代目聖女誕生、その名はフローラ・ヴィルタネン。
──瞬く間に全世界を駆け巡ったこのニュースは、各地の信者達に大いに歓迎をもって受け入れられ、ダンジョン聖教の新たなる象徴的存在となった少女の道のりは幸先の良いスタートとなった。
一方その裏で、密やかに節目を迎えていた者もいる。
フローラの先代、三代目聖女ことマルティナ・アーデルハイドだ。
称号《聖女》を手放した彼女はその後、ダンジョン聖教においては元聖女のみが就くことのできる特別な階級・司教へと就任した。
この司教という立ち位置はほとんど名誉職に近い役職であり、実際の役目や役割、課せられた使命というものも特にはない。完全に自由な立ち位置と言える。
聖女として13年、組織内改革に取り組み続けてきたマルティナにようやく訪れた安寧、平穏。これからの人生は彼女の好きなように過ごすことができるのだ。
……そのような状況を受けて彼女は、真っ先に永年の付き合いである友人、ダンジョン聖教司祭・神谷美穂を訪ねた。
そして思いがけない提案をして、彼女を大いに驚かせるのであった。
「というわけで自由です自由、フリーダム! なので美穂、私と組んで世界各地のわるわる能力者を成敗する旅に出ましょーう!!」
「なんでですか」
フィンランドは内陸部のダンジョン聖教聖地都市、モリガニア。大聖堂内、司祭執務室にて。
唐突に部屋を訪ねてきた元聖女マルティナのあっけらかんとした宣言に、司祭神谷は素っ気なく返し、書類にペンを走らせていた。
いつも突然にやって来てはわけの分からない騒ぎを起こすのがこの、マルティナという女性なのだが今回はまた特別意味が分からない。
聖女を引退したというのに、まるで変わらないのは良いのか悪いのか……はあとため息を一つ吐いて、神谷は彼女を見据えて言った。
「マルティナ? ついに元聖女になったのですから、いい加減そろそろ落ち着きなさいな。もうそこまで若くもないでしょうに」
「あ! それ言っちゃいけないことですよ美穂!? ていうか34歳はまだまだ若いですし!」
「そこまで、と言いました。別に老けているとも思いませんよ……二代目様のように、安定した暮らしをしても良いのではないかと言っているのです」
つい最近34歳の誕生日を迎えたマルティナが、ムキになって叫ぶもやはり神谷は冷静だ。
そも、マルティナは見た目からして若々しい。不老存在であるソフィアやエリスとはさすがに比較するべきでないものの、神谷から見ると5歳歳下の自分よりも若くさえ見えるのだ。
やはり好き放題やって生きているとストレスが少なくて、いつまでも若くいられるということなのだろうか……思わず遠い目をしてそんなことを考える。
もうじき30歳になるそんな神谷に、マルティナはにんまりと笑って答えた。
「馬鹿ですねえ、ラウラ様のアレはお身体の具合もあっての隠居隠棲なのですよ? 引退してなおぴんしゃんしてる私がそこまで真似てどうするんですか、もったいない!」
「も、もったいない?」
「そう、もったいない! せっかく聖女だなんて大任から解放されたんです、これはもう好きなことをして思う存分楽しんでいきたいじゃないですか!」
心底から愉しそうに、踊りさえしながら力説するマルティナ。三代目聖女としての13年間を終え、解放感で力が漲っている様子らしくピョンピョン飛び跳ねている。
その気持ちは、聖女ではない神谷に理解しきれるものでないものの……人生を謳歌しようという気持ちでいることは前向きで良いことだと思える。
これまでも大概、好きなことをしてきたように思うけれど今後もそうして行くと良い。もう、彼女は聖女ではないのだから。
肩の力を抜いて微笑む神谷。しかしてすぐに、いや待て待てと首を左右に振って我を取り戻す。
部屋に入りながらこの女はなんと言った? 自分と組んで世界各地のワルを成敗する? ──なんで?
「人生を楽しむのは結構ですがマルティナ。それでなぜ世界各地の悪人を成敗する、などという発想に行き着くのですか。理解しかねます」
「へ? なんでってそりゃあ、初代様がなんか楽しそうに生きてるからですけど……」
「しょ、初代様……!? あなた不遜ですよ、畏れ多くも初代様の真似をしようだなんて!?」
「えー……?」
今度はマルティナが動揺する番だった。初代聖女エリス・モリガナの名を挙げた途端、神谷の様子が一変したのだ。
瞳に狂信の光を宿した、紛れもなく拗らせた信者の表情に切り替わったのである。
一昨年。第五次モンスターハザードに絡む動きの中で彼女は初めてエリスと話す機会を得たのであるが、元から初代聖女信者だったのがさらに高じて、すっかりラウラ級ののめり込みを見せるようになってしまった。
先日の四代目聖女継承の儀の際にもエリスは出席していたが、神谷は半ばフローラそっちのけでラウラともどもエリスにピッタリくっついていたほどだ。
堅物の中の堅物、生真面目を越えた生真面目とでも言うべき鉄壁司祭神谷美穂がまさか、ここまでエリスにのめり込むとは。
どちらかと言えば自分に似た、ちゃらんぽらんな印象の方だったのにな〜と思いつつ、マルティナはこほんと咳払いして続けた。
「実際楽しいと思うんですよね。気の向くままにあちこち渡り歩いて、出くわしたワルを程々にしばき倒して次の町へーって。美穂もたまには旅行したいでしょう?」
「初代様は決して楽しさからそのようなことをしていませんよ。あの方は類稀なる正義感と信念から尊い行いをされているのです。一緒にしてはいけません」
「はいはい。で? どうです美穂、やってみません? 世直しってほどじゃないですけど、まあまあ人のためツアーって感じで」
元聖女にして友人の提案に、いよいよ真剣に神谷は考え込んだ。
まあまあ人のためツアー……付き合えなくもなさそうな塩梅なのが微妙なところだ。
実際のところ、神谷の職務も最近は少ないので一々大聖堂に詰めていなくても大丈夫であるし、気儘な二人旅となれば何かあればすぐに戻れば良いだけである。
犯罪能力者の取り締まりについても、一応能力者犯罪捜査官ライセンスはマルティナも神谷も取得している。私人逮捕の範疇になるだろうがそのあたりはどうとでも言い訳が利くだろう。
それに何より元聖女にして、現司教の意向ともあれば従うべき。
名誉職に近い立場のマルティナではあるものの、その功績や実績から発言力、影響力はラウラにも匹敵する。無碍にするのも司祭の立場からするとあまり、よろしくないのだ。
しばし考え、神谷は軽く吐息を漏らしながらもうなずいた。
「仕方ないわね……本当に危険な裏社会にまで手を伸ばさないなら、私も同行しましょう」
「あははは! 私としては裏でもなんでもどんと来いなんですけど、さすがにダンジョン聖教にまで迷惑かかっちゃいますものね! 了解しました、美穂!」
真に闇深い各地の裏社会にまで踏み込んでは、その場限りならばいいものを下手をすればダンジョン聖教そのものにまで迷惑が及ぶことになる。
そこは承知して、マルティナは神谷を誘うことに成功した。ここに、古くからの友人二人によるタッグパーティが結成されたのである。
以後しばらくの間、この二人は世界各地を巡ってあちらこちらの悪人を成敗することになる。
"ビショップ・アンド・プリースト"と呼ばれるまでに名を挙げた探査者コンビの誕生であった。
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プリーストなほう、神谷が登場する「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
https://ncode.syosetu.com/n8971hh/
書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー




