59年目-1 四代目聖女、誕生
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
エリス・モリガナ(54)
ラウラ・ホルン(51)
マルティナ・アーデルハイド(34)
フローラ・ヴィルタネン(18)
神谷美穂(29)
第五次モンスターハザードにおいて、ダンジョン聖教もまた事件解決に大きな貢献を果たした。
三代目聖女マルティナ・アーデルハイド率いるダンジョン聖教騎士団は世界各地を転々とし、それぞれの地域のスタンピードから現地住民達を守り続けたのである。
とりわけマルティナに同行する形で最前線を駆け抜けた司祭、神谷美穂とその弟子にして次期聖女候補フローラ・ヴィルタネンの三名による活躍は目覚ましく、ダンジョン聖教内外にあって大いに功成り名を遂げる結果を残した。
つまりは世界中にダンジョン聖教の名声が広まり、事件後には一気に勢力拡大を果たせたのだ。
そして事件解決から一年。大躍進を遂げた一大宗教組織の本部にてまた一つ、大きな変化が訪れようとしていた。
世代交代──マルティナからフローラへ、聖女の証たる称号《聖女》の継承が、行われようとしていたのである。
フィンランドはダンジョン聖教聖地である都市部。
30年ほど前はただの田舎の寒村でしかなかったこの土地は、初代聖女エリス・モリガナの生まれ故郷ということもあり二代目聖女ラウラ・ホルンが聖地に認定。
多くの信者を呼び込み都市化させることに成功し、今では北欧最大級の都市とさえ呼ばれるほどの経済や交通規模を誇るようになっていた。
ちなみに現代、大ダンジョン時代100年を刻む頃にはこの都市は、モリガナの名から由来して"モリガニア"とも呼ばれるようになっている。
そのことについて当の初代聖女などは"ハッハッハー、恥ずかしいからマジやめて"などと言っているのだが……それはまた別の機会にて話されるべきことだろう。
ともあれそんなダンジョン聖教聖地は大聖堂にて。
多くの信者、政治家、マスコミ関係者を呼んでの盛大な催しがこの時、行われていた。
荘厳な白亜の祭壇に集い、厳粛なる静寂の中。聴衆に向かい立つ三代目聖女マルティナ・アーデルハイドが厳かに口を開いた。
「────ここに、聖女継承の儀を行います。四代目聖女候補フローラ・ヴィルタネン、前へ」
「はい」
呼ばれて歩を進めるのは次代の聖女候補フローラ。
第五次モンスターハザードをも経て早18歳になる彼女は、この頃になると立ち居振る舞いから所作、言葉遣いに至るまでしっかりと聖女たるに相応しい優雅さを備えるようになっていた。
それはひとえに彼女の師匠であり教育係、母代わりにして姉代わりともいえる司祭神谷美穂の奮闘の賜物と言えよう。
苦労を思い出したのか、祭壇は最前列の席に座る彼女が静かに涙を流した。
小声でつぶやく。
「フローラ、立派になりましたね……今もうすでにマルティナごときなど足元にも及ばないほどの聖女ぶりですとも。ああ、良かったです……!」
「ハッハッハー。いやまー、アーデルハイドくんも立派な聖女だったと思うよー? そもそも最初に称号を与えられたってだけのエリスさんよりかは万倍立派だともさ」
「馬鹿なことを仰らないでください初代様。初代様に比べればマルティナやフローラどころか、本人を前にして言うのもなんですが二代目様でさえ霞んでしまいます」
号泣しつつもサラリと三代目マルティナに暴言を吐く。神谷は彼女とは上下の差を超えた友情に結ばれており、この程度の軽口などお互い当たり前のことなのだ。
……とはいえ隣に座る初代聖女ことエリス・モリガナからすればとてもでないが気が気でない。見ればマルティナは微笑みながらも横目で神谷をチラ見しているのだし、これは後が怖い。
ましてや神谷、エリスと続いてその隣に座るは二代目聖女ラウラ・ホルン。まさに今、目の前でエリスの前では霞んでしまうと言われてしまった張本人だ。
いやいや待って待ってハッハッハー、帰りたい。内心で半泣きになりながらもエリスは、やはり小声で隣の神谷とラウラに応えた。
「ハッハッハー、聞かなかったことにするねー。ラウラ、怒らないであげてね? その、神谷くんはいろいろこう、なんだろ、拗らせてるから……」
「? なぜ怒るのですか? 美穂はとても正しいことを口にしましたよ?」
「えぇ……?」
「お姉様あっての聖女、お姉様あってのダンジョン聖教なのです。お姉様こそが史上最高にして原点にして頂点たる聖女なのですから、いかにマルティナやフローラが優れていようともお姉様に敵うべくもありません。ダンジョンでモンスターに出会うよりも当然の話ではありませんか」
まさかの全肯定。神谷の無礼極まる発言に怒るどころか同意を示した妹分に、エリスは今度こそ絶句して何も言えなくなってしまった。
昨年には50歳を迎え、家族にも囲まれ素晴らしい人生を送ってくれているラウラだが、ことエリスのこととなると36年前と何ら変わらぬ盲信ぶりを見せる。
ましてや同様に初代聖女への信仰心が厚い──オブラートに包んだ表現だ、念のため──神谷が絡むと、もはやその初代聖女本人にも止められない魔界が現出してしまうのだ。
これにはとても反応できないと、微妙な笑みを浮かべつつマルティナとフローラに視線を戻して何もかも知らんふりをするエリス。
聖女継承の儀などと、やたら仰々しいイベントが終われば即ドロンしてやろうと考えているのも露知らず。マルティナは薄く苦笑いを浮かべつつ、フローラへと小声で語りかけた。
「フローラ、あなたも私やあそこの人達の後を継ぐことになります。それが良いか悪いかはあなた次第ですけれど、始まりからして半ば無理矢理に引き込んでしまった私は、どうあれあなたに謝らなければなりません。ごめんなさい」
「マルティナ様……私は、あなたと神谷先生に感謝していますよ。それこそ《聖女》を継承することに、なんの抵抗もないくらいには」
「……ありがとう。あなたを選んだ私も、あなたを育てた美穂もきっと、幸せ者です」
マルティナとしても実際、ここに至るまでにそれなりに強硬策を打った自覚はある。
フローラを家族から離し、神谷に任せ、そして聖女たるにふさわしくなるまでに育て上げさせた。そこにフローラ自身の意志が介在する余地があったかは……おそらく、なかったのだろう。自分がそうさせた。
それゆえに今さらすぎる謝罪をしたのだ。たとえその結果返ってくる赦しが、他ならぬマルティナ自身の仕立てたものであったとしても。
罪深い己を自覚しながらも、マルティナはやはり、微笑んで聴衆へと告げた。
「さあ神よ、そしてここに集まりたる皆様方よとくとご覧あれ! これが代々伝わりし称号《聖女》の継承! フローラ・ヴィルタネンよ──どうか受け取ってください!」
「…………っ!!」
両手を大きく広げ、称号《聖女》の効果──ただ、任意の人物にこの称号を継承させるだけのもの──が発動する。
にわかに光るマルティナ・アーデルハイド。そしてその身体から放たれる小さな宝玉のような輝きが、フローラへと向かって進んでいく。
当然ながら初めて見る現象だ、戸惑いつつもマルティナを見るフローラ。しかして優しい微笑みとともにうなずく彼女に覚悟を決めてそれを受け取る。
体内に入っていく輝き。同時に脳裏に、謎の声が響いた。
『マルティナ・アーデルハイドによって発動した称号効果を受け取りました』
『あなたの称号は以後、《聖女》となります』
──ステータスを、スキルを初めて獲得した時と同じ声。優しく、温かみがある声。
そのアナウンスが流れたということは、すなわち称号を獲得したということで。
フローラもまた、聴衆へと向き直り厳かに、段取り通りに宣言した。
「今、称号《聖女》を継承したとの声を聞きました。これをもって以後、ダンジョン聖教四代目聖女を私フローラ・ヴィルタネンが務めさせていただきます」
「同時に私マルティナ・アーデルハイドは称号を《元聖女》とし、二代目聖女ラウラ様同様にダンジョン聖教は司教の座に就き、四代目様のお力になれるよう尽力したく思います」
「──ここに、継承の儀は成りました。ダンジョン聖教の新たなる時代の、幕開けです」
新たなる聖女と、かつての聖女による断言。ここに、ダンジョン聖教は新たなる局面を迎えたのだ。
万雷の拍手が響く。エリスも、ラウラも、神谷も惜しみなく拍手しながら……
新たに生まれた四代目聖女の姿を、その目に焼き付けるのであった。
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