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大ダンジョン時代ヒストリア  作者: てんたくろー


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74/210

58年目-6 歴代聖女の集い

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


エリス・モリガナ(53)

ラウラ・ホルン(50)

マルティナ・アーデルハイド(33)

フローラ・ヴィルタネン(17)

神谷美穂(28)

 ダンジョン聖教は二代目聖女、ラウラ・ホルンが50歳の節目を迎えた年。ウェールズ地方はカーディフにおける彼女の住居にて、錚々たる顔ぶれが集まっていた。

 歴代聖女──この時点のみならず将来的に聖女となる者まで含めて──初代から五代目までが全員集合していたのである。

 

 敬愛する二代目の慶事にあたり、初代聖女エリス・モリガナを簀巻きにして連れてきた三代目聖女マルティナ・アーデルハイド。

 そして彼女に同行してついてきた後の五代目聖女神谷美穂とその弟子、後の四代目聖女フローラ・ヴィルタネン。


 六代目となるアンドヴァリことアレクサンドラ・ハイネンや七代目にして現代最新の聖女シャルロット・モリガナなどは生まれてさえいないこの頃、まさしく歴代のダンジョン聖教における象徴的存在が一同に会していたのだ。

 これは極めて異例なことで、史上最も多くの聖女が集った唯一のタイミングであるとも言えるだろう。

 

 それゆえにこの時の逸話は半ば神話めいたエピソードとしてダンジョン聖教内に伝わっていくこととなる。

 初代聖女は組織内の伝承においては戦いの果て、聖霊となりて天に還っていったとも噂されているのだが……それが二代目の節目の時、一時だけ下界に降臨してきたと。

 そして歴代聖女はみな、その姿に感涙して平伏したとも言われることになっていったのである。

 

 

 

「あはははははは! 初代様ゲーム下手すぎません!?」

「ハッハッハー、言い返そうにもあまりにも鮮やかにどストレート負けしちゃったから何も言えないー。参りました、へへえー」

 

 ボードゲームでダントツドベの完敗を喫し、初代聖女エリス・モリガナはその場でテーブルに突っ伏した。

 逆にダントツトップで勝利した、三代目聖女マルティナ・アーデルハイドに冗談めかして平伏している。


 その周りでは同じくゲームに興じていた二代目聖女ラウラ・ホルンが笑顔を浮かべてエリスを見ており、ダンジョン聖教司祭である神谷美穂とその弟子フローラ・ヴィルタネンもゲームの結果を受け、ハラハラとマルティナを見ていた。

 

 第五次モンスターハザード終結後、ラウラの50歳祝いのためにエリスを簀巻きにしてカーディフまで連れてきたマルティナ達。

 それを怒りとともに迎えながらも、エリスとの再会自体は喜ばしいとラウラは微笑み彼女をもてなした。基本的にあちこち行ったきり、連絡は取れてもなかなか戻ってこない姉貴分なのだ、こうして元気な姿を拝めることは、ラウラにとって何よりものバースデープレゼントだった。

 

 そうしてラウラの家族も総出で聖女達を歓待するうち、夫と子供達は気を遣って早めに寝入り……残されたダンジョン聖教関係者達のみで、酒を酌み交わしながらもボードゲームに興じているというわけだった。

 スコッチウイスキーのハイボールを呑みながら、敗北者たるエリスが参った参ったと笑う。

 

「いやー、エリスさんこの手のゲーム弱いんだよねー。っていうか勝負事全般駄目というか、何十年も前にはアメリカのカジノで身ぐるみ剥がされかけたこともあったからねーハッハッハー」

「何してるんですか、お姉様……」

「若気の至り若気の至り! あれ以来ギャンブルはまるで全然したことないよー」

 

 からから笑うエリスに、ワインを呑みながらラウラは呆れつつも笑った。

 不老となって世界を方々流離っていたエリスだが、その旅路はただ陰鬱なだけのものではなかったらしい。それは彼女にとっては、不幸中の幸いの至りだ。


 そういえばかつての仲間、トマス・ベリンガムがアメリカで彼女を見かけて一緒に遊んだとかなんとか言っていたが、まさかその時のことを言っているのだろうか?

 穏やかに聞きながらも首を傾げるラウラ。そんな彼女をよそに、神谷がおもむろにエリスの前に跪き祈りを捧げ始めた。

 

「おお、初代様の尊き旅路の一幕をお聞かせいただくなど、恐悦至極に存じます……ッ!! そして勝負事が苦手でありながらもお付き合いくださったこと、いえそもそもマルティナの無礼極まりない行いをも慈愛をもってお赦しくださったこと! 何もかもに初代様の偉大さを感じ、矮小なるこの身はただただ祈りを捧げることしかできません……!!」

「ハッハッハー。誰か助けてー、神谷くんがまた暴走してるー」

 

 ドン引きして乾いた笑いとともに助けを求めるしかできないエリスに、他の面々は揃って視線を逸らしつつ曖昧に微笑むばかり。

 神谷美穂。彼女は昔からダンジョン聖教における伝説、"初代聖女"を全力で信奉して止まない一面があった。実際に師事した二代目ラウラから聞かされたエリス・モリガナ神話の影響を露骨に受けて、すっかり大の初代聖女信者へと成り果てていたのだ。


 マルティナもフローラも初代への崇敬や尊敬はもちろんあるものの、神谷はそれをも超えてエリスに傾倒している。

 そんな彼女が第五次モンスターハザードにあたり、初めてエリスと出会った以上はこうなるのも当然の成り行きだ。


 ましてや本物の初代聖女は強さも当然ながら人格、人品骨柄ともに理想とも言うべき慈愛、慈悲を備えているのだ。ラウラに次ぐ、あるいは匹敵するほどに彼女を慕うようになるのも仕方のないことと言えよう。

 

「か、神谷先生……」

「フローラ、あなたもじきに四代目聖女となるのであれば、初代様を敬い跪くのが良いでしょう。マルティナ、一応でも当代の聖女であるならばあなたも当然そうすべきです」

「初代様が絡むと本格的にぶっ壊れますねー……で、どうなんですか初代様」

「ハッハッハー、止めようこの話。さあゲームの続きだ続きだ、今度は負けないぞー」

「はいっ! 初代様が仰ることであれば!!」

 

 神谷の弟子、次期聖女が半ば確定している少女フローラが反応に困った素振りを見せ、三代目マルティナはすっかり呆れ返ってエリスに話を振っている。

 そして彼女が誤魔化しがてらゲームの再開を促せば、神谷は即座にうなずきまた席に戻り、初代と同じくスコッチのハイボールを飲み干し気合を入れるのだ。

 

「ふふ……賑やかね、本当」

 

 そうした光景を見て、心底から楽しげな微笑みを浮かべるラウラ。

 ダンジョン聖教は象徴的存在、聖女。過去現在未来とその称号に連なる女性達の、一時の団欒は夜遅くまで続くのだった。

 ブックマーク登録と評価のほうよろしくお願いいたしますー 


 初代エリスと五代目神谷がすでに登場している「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー

 https://ncode.syosetu.com/n8971hh/

 書籍化、コミカライズもしておりますのでそちらもよろしくお願いいたしますー

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― 新着の感想 ―
[一言] >神話めいたエピソード 女子会が神話になるのかー みんなで遊んでいただけなのに、なんか壮大なエピソードにされてるし
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