58年目-4 クリストフとアラン
本エピソードの主要な登場人物
()内は年齢
クリストフ・カザマ・シルヴァ(17)
アラン・エルミード(19)
モンスターに故郷を滅ぼされ、イギリスに流れ着いた果てにマリアベールの弟子となった少年、クリストフ・カザマ・シルヴァ。
隠しきれない憎しみを叫びとともに力に変えて戦う若き探査者だったが、この時期、生涯の友と言うべき盟友に出会っていた。
アラン・エルミード──クリストフが家族を失ったきっかけである第五次モンスターハザードにおいて、その解決に中心的な役割を果たした若き天才。
超希少スキル《極限極水魔法》の圧倒的性能もありこの頃のクリストフなど実力的には歯牙にもかけない次元にあった彼だが、不思議なまでに二人は馬が合った。
クリストフはアランの強さに嫉妬と、それ以上の敬意と羨望を抱き。アランはクリストフの執念と努力の歩みに敬意と、自分にはない精神的な強さへの憧れを抱き。
アランのほうが2歳年長であり探査者としてもその分、一日の長があるのだが、そんなことはお構いなしに対等な友情を培っていったのである。
──初めて見た時から、クリストフには確信めいた直感があった。この男には終生敵うまい、という諦念にも似た確信だ。
アランという、自分より2つ年上で19歳の青年探査者だ。
聞けばあの第五次モンスターハザードを解決するにあたり中心的な役割を果たし、尊敬する師マリアベールと肩を並べて戦いさえしたという、本物の天才として名高い男である。
彼女の手引でイギリスはロンドンにて出会い、そのままダンジョン探査した際にその力の一端を見聞きしたが……到底、自分では届き得ぬ強さの極地を見せつけられ、少なからずの敗北感に打ちのめされてしまった。
クリストフは持ち前の実直さと真面目さから素直に受け入れつつもやはり、自分にもあのような、《極限極水魔法》のようなスキルがあればと思わざるを得なかったのだ。
「さすがです、エルミード殿。あなたほどの強さであれば、なるほどあのスタンピードの地獄とて切り抜けられたのも疑いようはない」
「シルヴァくん……僕は、僕だってまだまだだよ。モンスターハザードでの戦いで大きく成長できたけど、それでも道のりは遠いんだ。実際、本当にトップクラスの人達から見れば君とそう大差ないと思うよ」
「ご謙遜を。俺とて鍛錬を怠るつもりはありませんがしかし、あなたのスキルの前では何を言ったところで大口叩きにすぎないと思わされます」
嫉妬をひた隠しにして褒め称えるクリストフを、アランは複雑な笑顔で応じた。
謙遜のつもりではなく、本気で言った言葉だ。ヴァールやエリス、光太郎やマリアベールから見れば自分はまだまだ駆け出し。クリストフと評価の上ではそう変わらないだろう。
いや、もしかすると少しばかりの経験の差でしかなく……すでに部分部分では目の前の少年に追い越されてさえいるかもしれないと、彼もまた、クリストフを内心にて高く評価していた。
件のモンスターハザードにて、モンスターに家族から住まいから何もかもを滅ぼされた少年。
マリアベールの提案からイギリスまでやって来て実際に会ってみたが、信じられないほどに強い、強すぎるほどに強い男であったことに心底から驚愕したのはつい先日の記憶だ。
モンスターへの復讐心。それを原動力として戦うと聞いていたので、てっきりその少年は闇に染まり荒んでいるものと思い込んでいたのだ。
それがいざ目にしてみれば、己を律し他者に優しく自分に厳しい探査者の鑑のような姿。しかしてそのあらゆる所作が強さを求めるため、モンスターを倒すために注力しているような──まさしく鋼のような心と体の武人がそこにいた。
『アラン。うかうかしてるとお前さん、あっという間に抜き去られるよ? 分かってるとは思うが探査者にとって本当に大事なのはスキルじゃねえ、身体と心だ……クリストフはきっと、私が見てきた中でも一等強い弟子になる。もう一皮さえ剥けりゃあ、やがては私をも遠く置き去りにして高みに至っちまうんだろうさね』
彼の師匠、先輩にして戦友のマリアベールがそこまで高くクリストフのことを評価する理由を、アランは実感として理解していた。
強すぎる。今現時点での実力など話にならないくらい、この男は一分一秒ごとに成長し続けている。
強い復讐心から来るモチベーションと、壮絶なトレーニングと実戦。そしてそれを毎日休むことすらなくこなし続けられる鋼鉄のメンタルは、このまま行けば間違いなくアランなどあっさり追い抜いてしまうことが予想された。
スキル頼りの天才──自分でもそう、薄々と感じていた事実を。
目の前の、真に積み重ね続ける偉大な男を見て、否が応でも分からされる気分であった。
「…………アラン、と呼んでくれ」
「む? い、いえ。年長の方、先輩の方をそうお呼びすることは決して」
「君と友達になりたいんだ。君とともになら、僕はきっともっと強くなれる。大切なことを学べる。頼むよクリストフ、僕と君は先輩後輩じゃなく、年上年下でもなく対等の、友人関係こそがふさわしいんだ!」
思いのまま、抱いた憧れと敬意から友情を願う。アランはクリストフのことをすっかり好きになっていた。
多少の差などなんのこともない。クリストフ・カザマ・シルヴァという、心身面で自分とは比べ物にならない強さを持つ本当の探査者……彼とともに鍛えともに高みを目指し、ともに頂の光景を見る自分でありたい!
そう思えたのだ。
それはアラン・エルミードという天才に初めて生まれた強い執着。同年代で初めてできた、真に尊敬すべき存在。
彼ほどの才に比べれば凡才に等しいクリストフの、けれど眩いばかりに光を放つ精神性が、探査者界随一の天才の心をすっかり魅了したのである。
有り体に言って、アランはクリストフの大ファンになっていた。
「エルミード殿……」
「アラン。さあ呼んでくれ」
「は、はあ……アラン。こ、これでよろしいか?」
「敬語も止めてくれよ、クリストフ。友情の間に、そんなものはいらないんだからね」
無理矢理クリストフの手を取り握手を交わすアラン。
今この時こそは一方的だが、クリストフのほうもアランに打ち解け、友とするにはそう時間はかからず──
二人はそれから先、現代に至るまでまさしく刎頸の友として語られる間柄になるのだった。
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努力の果てに作中最強クラスになったクリストフが叫ぶ「攻略! 大ダンジョン時代─俺だけスキルがやたらポエミーなんだけど─」は下記URLからご覧いただけますー
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